(2023年 日本)
マンホールに落ちて出られなくなったというソリッドシチュエーションスリラーで、短い上映時間もあって、見ている間はそれなりに楽しめる。ただし見終わった後に考えるといろいろ無理ありすぎで、素直に「良かった!」と言えないモヤモヤが残る。
感想
ばっちぃマンホールに落ちちゃった
今の今まで知らない映画だったけど、ネットフリックスで配信されていたのを発見して鑑賞。90分強という上映時間は、寝るまでの微妙な時間に丁度良かった。
なお、本作は事前情報なしの状態で鑑賞されることが絶対に良い映画なので、感想を読むにあたって未見の方はご注意いただきたい。
大手不動産会社でトップクラスの営業成績を誇り、社長令嬢との結婚も控えているという、順風満帆にもほどがある人生を送る川村俊介(中島裕翔)が、飲み会帰りにマンホールに落ちて脱出できなくなるというのが、ザックリとしたあらすじ。
何気によくできているのがマンホール内の不潔さ・不快さの描写で、こんな場所には一瞬たりとも居たくないと思わせる酷い環境が実に見事に演出されている。加えて川村の足には大きな裂傷があって、「不潔な環境でこの傷は本当にヤバい」として追い打ちをかけてくる。
ジャンル的には2010年代に流行ったソリッドシチュエーションスリラーの変種だけど、タイトルからも分かる通り、SNSを絡めているのが本作の独自性。
自力での脱出ができない、警察にも発見してもらえなさそうだと悟った瞬間、川村はSNS民のリサーチ力を頼ることにする。
男発進だと注目されないということでアカウント名を「マンホール女」とし、webで適当に拾ってきた売れないアイドルの写真を加工してサムネとし、「私を助けてください」と発進。
すると思惑通りにSNS民が食いついて大バズりし、ほんのわずかな情報からも場所や状況の特定が進んでいく。このサクサクと進んでいく感じが良いテンポになっており、映画としては非常に見やすい。
見やすいんだけど、いくらバズったとはいえ職場の人間関係まで把握してる奴が閲覧してる可能性は低いだろとか、いくらSNS民が優秀とはいえほんの数時間でここまでの特定が可能だろうかとか、いくらなんでも川村が警察を頼らなすぎとか、見ている間中、違和感はあった。
ネタバラシをされるとこれらの違和感にもちゃんと答えが付くんだけど、見ている間に前のめりで楽しめなかったことは減点要素だと思う。
オチが強引すぎた ※ネタバレあり
ネタを明かすと、川村は偽物の川村であり、かつて殺害された本物の川村の交際相手からの復讐を受けていたとのこと。
上記で感じた違和感も、黒幕がすべての情報を流していたとすれば説明がつくし、川村が警察の関与を拒んだ理由も、調べられたくない事情があったから。
本物の川村はイケメンの上に好青年という完璧にも程がある人間だったが、大手不動産会社への就職が決まったタイミングで知り合いの陰キャに殺されたばかりか、人生を乗っ取られてしまった。
他人の人生を奪う殺人鬼って20年前のハリウッド映画で見たなぁと思いつつ(ネタバレになるのでタイトルは自粛)、ミステリーではなくシチュエーションスリラーでこれをやったのが、本作の構成の妙だと思う。
新生活を控えたタイミングでの犯行だったので従前の人間関係を断ち切っても怪しまれづらかったという、細かい設定もよく考えられている。
ただし整形によって完全に他人と同じ顔を作れるのかというテクノロジーへの違和感は物凄かったけど。『フェイス/オフ』(1997年)じゃないんだから。
就職先には履歴書の写真も残っているし、採用面接の過程で会った人だって何人もいる。そういった人たちを騙し続けるクォリティの整形なんて無理だろう。
あと、上記のハリウッド映画含めこの手の人生入れ替わりもの全般に言える欠点なんだけど、これだけのことを成し遂げる能力があるんだったら、入れ替わりなんて七面倒くさいことをしなくても人生うまくいっただろと思う。
顔と就職先は川村のものを奪ったとはいえ、営業成績でトップをとったとか、社長令嬢をものにしたとかは偽物個人の実力であり(イケメンであることが貢献したにせよ)、殺人なんて大それたことをせずとも、自分の名前と顔で生きてもそれなりに成功したんじゃなかろうか。
またマンホールに落とした元カノの計画も、よくよく考えると杜撰なものだ。
一次会で偽川村に睡眠薬を盛り、倒れたところで人里離れたマンホールに運ぶという計画だったが、「偽川村が二次会に行かず、同僚とも一緒に帰らず、タクシーや公共交通機関を使わず、人目につかない場所で薬が効き、車を横付けしやすい場所で倒れてくれる」という、もはや成立したことが奇跡としかいいようのないものだった。
ここまで説得力のないサスペンス映画は久しぶりで、さすがに面食らった。
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