永遠の0_感動の押し付けが酷い【4点/10点満点中】(ネタばれあり・感想・解説)

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戦争
戦争

(2013年 日本)
特攻隊をテーマにした大人のドラマのはずが、観客を小中学生と思ってるんじゃないかというほどあらゆる感情を説明してしまったために、深みも余韻もない作品になっている。岡田准一扮する主人公のメンタリティにも違和感があり(あんな帝国軍人いる?)、特攻隊員と戦後世代との精神的連携というそもそも企画意図が没却している。

感想

2013年の邦画でぶっちぎりのNo.1である87億円もの興行成績を叩き出した大ヒット作ではあるものの、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(2011年)の出来が酷すぎて山崎貴監督に対する苦手意識を持っている私は、今の今まで見てこなかった映画。

『ゴジラ-1.0』(2023年)で、実に12年ぶりに山崎監督作品に触れたついでに本作も見たけど、やっぱりイマイチだった。

山崎作品の何が苦手かというと、演出がワンパターンすぎて出演者ほぼ全員が大根役者に見えてしまうことと、台詞や音楽が説明的すぎて感動を押し付けられている気分になること。

『ヤマト』も『ゴジラ』もそれで酷いことになっていたけど、本作も同じ轍を踏んでいた。まぁ『ヤマト』も『ゴジラ』も本作も大ヒットという結果を残しているのだから、山崎監督が演出方法を変える必要はないっちゃないんだけれども。

舞台は2004年。司法浪人生の健太郎(三浦春馬)と姉の慶子(吹石一恵)は、今の今まで祖父だと思っていた人物とは血がつながっておらず、実の祖父は特攻隊員として戦死したという話を聞かされて、その人物像を探るというのがざっくりとしたあらすじ。

聞き込み開始当初は「臆病者」「帝国軍人の風上にも置けない」などと散々な評判ばかりだったが、それでもめげずに話を聞くうち、一度も会ったことのない祖父の感情に寄り添うようになり、世代間の連帯が実現するというのが本作の感動ポイントだろう。特攻隊が身を挺して守ったものが、今こうして花開きましたという。

なのだけれども、このドラマには終始乗り切れなかった。

遠路はるばる訪ねてきた故人の孫に向かって「あいつは臆病者だった」とか言うやつなんていないし(故人が本当に憶病だったにせよ)、会ったこともない祖父のためにここまでの労力を使う孫なんているかと思ったりで。

そして「実のお父さんではありませんでした」と言われた母 清子(風吹ジュン)の方がこのネタには食いつくべきところ、なぜ彼女は他人事のように振舞っているのかも違和感。

いや、分かってはいるんですよ。かつての特攻隊員達と同世代の孫こそが、この物語の主人公であるべきだという原作者と監督の狙いは。

ただし生身の俳優に演じさせる上で違和感になってしまう点は理詰めで潰しておくべきだったのに、そういう細かい調整をしていないことがドラマのアラになってしまっている。

また故人の実像に迫る系の話なのであれば、良い人エピソードと悪い人エピソードが交互に出てきて、実際どういう人だったんだというミステリーで引っ張るべきところ、故人の悪評が出てきたのは序盤のみ。

本筋に入ると、操縦は神がかり的にうまいし、部下には優しく接するし、無駄な殺生を好まぬモラルの高い人物だしと、聖人エピソードしか出てこない。

本筋開始直後で「故人の人物像」というミステリーに対する回答が出てしまうので、その後のエピソードが蛇足に感じられた。

クライマックスにて人物像が解明されたことで、悪人エピソードについても「こんな意図があったんだね、おじいちゃん!」という感動があるべきだったと思うんだけど、結論を早く出しすぎて感情的なポイントが失われている。

そんな構成の穴を埋めるかの如く、演出はひたすら感傷的。

「はい、ここで泣いてください」と言わんばかりの記号的な演技と、感情をいちいち表現する説明的なセリフ、そして久石譲の音楽は終始鳴りっぱなし。

しばしば日本文化はハイコンテキストだと言われるが、本作に限っては超ローコンテキスト。解釈の余地がまったくないほど何でもかんでも明示的に披露される。

こんなあからさまな演出をされるとかえって冷めるということが分からないのだろうか。

加えて、2時間24分もの長尺をもって描かれた特攻隊員 宮部 久蔵(岡田准一)のメンタリティにも違和感しかなかった。

戦争という殺すか殺されるかの場面なのに、敵に対しても味方に対しても妙に達観的な態度をとるし、戦果よりも個人の生死にやたら頓着する。

戦場において味方を生かすための最大の方策は敵に勝つことだと思うんだけど、その天才的な操縦スキルを勝利のために使おうとはしない。

これら一つ一つの行動が「どうせ日本は負ける」という結果を見てきた人のようで、戦中世代と戦後世代の精神的交流というそもそもの作品の趣旨に反しているような気がした。

ま、これについては原作者と監督のみを責められない日本固有の事情もあるのだけれど。

敗戦から80年経つ今なお、日本とドイツにおいては兵士を讃える映画を作れない。そんなもん作った日には、確実に大ごとになる。

なもんで観客の感情の依代となる主人公は、帝国軍人でありながら組織に対して批判的であり、勝利に貢献する気もなく、身近な家族や仲間という単位でしか思考しないおかしな人物像となるのだ。

職業軍人、しかもパイロットともなれば当時のエリートであり、彼らなりに国家や軍隊に対する強い思い入れがあっただろうに、そうした重要な要素がまるッと割愛されている。

そんな主人公に代わって、帝国軍人のメンタリティは染谷将太や濱田岳が扮した脇役たちに反映されているのだが、彼らはひたすらに愚かしく描かれている。

私は旧日本軍を讃美しろとか、帝国軍人をカッコよく描けという気は毛頭ないが、かと言って彼らの実像にそもそも迫ろうともしていない物語には価値を感じない。

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コメント

  1. カトケン より:

    山崎貴監督作品でも漫画原作で戦艦大和の建造計画を描いた「アルキメデスの大戦」はこの監督の作品としては例外的にあなたが指摘されている様な説明過多やくどさその他の悪癖が少なく(永遠の0が微妙だったというブロガーの人も絶賛していました)王道の歴史ミステリーとしていい感じになっていますので、機会があれば出来れば…