(2021年 アメリカ)
トラック野郎ニーソンが冬のカナダで危険な物資運搬に従事するという、ニーソン版「恐怖の報酬」。なんだかんだで先が読めてしまう、ネタが尽きたのか後半はアイスロード関係なくなってしまうなど、いろいろ問題はあるけど、ニーソンの映画として見れば標準レベルには達している。
感想
前回の『MEMORY メモリー』(2022年)に続くリーアム・ニーソン主演作。
「今リーアム・ニーソンが熱い!」というわけでもなく、Netflixで配信されていたのを何気なく鑑賞したら、たまたまニーソン作品が重なったというだけ。
そんな期待値低い状態で見ればそれなりに楽しめるという、ここ10年のリーアム・ニーソン主演作のちょうどド真ん中みたいなクォリティだった。
カナダの鉱山で爆発事故が発生し、数十人が閉じ込められてしまう。酸素残量はざっと30時間分。
救助のためには岩盤掘削機を現地に届けなければならないのだが、これが30トンもあって空輸できない代物なので、陸路での輸送となる。
最短ルートとして選ばれたのは「アイス・ロード」と呼ばれる氷上のハイウェイ。そもそも危険なことで知られたルートである上に、4月の薄氷の上を30トンもの機材を積んで走行ともなれば多大なリスクを伴う。
トラック野郎たちは高額報酬と引き換えにこの命がけの輸送ミッションを引き受けるという、『恐怖の報酬』の雪景色版といえる内容である。
クルーゾー版、フリードキン版ともに、恐怖の報酬で命がけの輸送任務を引き受けたのは街の食い詰め者達だったが、本作の主人公マイク(リーアム・ニーソン)もまた、経済的に困窮している。
マイクは雇われのトラックドライバーであり、イラクへの出征で知能障害を負った弟ガーティ(マーカス・トーマス)の面倒を見ている。
頑固なマイクが医師たちの勧める投薬治療を拒否したものだから、兄弟は福祉の網をすり抜けてしまい、ガーティをたった一人で丸抱えしなければならなくなったのだ。
そこに舞い込んできたのが件のミッションというわけだ。
マイクをただの可哀そうな男としたのではなく、偏見のみで投薬治療を拒否するという、自業自得の部分を含ませた人物造詣が絶妙だった。
本作の脚本・監督を務めたのはジョナサン・ヘンズリー
『ダイ・ハード3』(1995年)の原案となった”Simon Sez”という脚本で注目され、ロビン・ウィリアムズ主演のファンタジー『ジュマンジ』(1995年)やニコラス・ケイジ主演のアクション『コン・エアー』(1997年)を経て、大ヒット作『アルマゲドン』(1998年)の原案を手掛けた。
この通り、90年代ハリウッドにおける中心にいた人物なのだけど、その作風は奇想天外なアイデアにペーソスを織り込むことに特徴がある。
彼の書く物語の主人公はスーパーマンではない。職人的な特技を持っていると同時に人間的な問題を抱えており、アドベンチャーをきっかけに己の問題に向き合うというドラマが構築されることが多い。
本作も例に漏れずで、頑固な男マイクが困難に挑む様にはアツイものがあった。
そしてみんなすっかり忘れてしまったかもしれないけど、リーアム・ニーソンはもともと演技派として評価されたアクターであり、キャラクターの機微のようなものを表現することは朝飯前だ。
本作の主人公を演じるにあたっても、真っ直ぐすぎるマイクの個性を実に見事に表現してくれている。
マイクの人となりが一通り描かれ、金目当てで命がけのミッションに挑むまでのドラマが過不足なく描かれていく導入部では「うまく話をまとめていくな」と感心した。ジョナサン・ヘンズリー絶好調である。
輸送現場を仕切っているのはローレンス・フィッシュバーン。ニーソンとモーフィアスという渋いオヤジ二人が並び立つ画面の密度は相当なものだった。
そして先住民の女性ドライバー タントゥ(アンバー・ミッドサンダー)と、保険調査員トム(ベンジャミン・ウォーカー)も同行する。
タントゥ役のアンバー・ミッドサンダーは、本作の翌年に配信公開された『プレデター:ザ・プレイ』(2022年)に主演した人。そういえばローレンス・フィッシュバーンも『プレデターズ』(2010年)に出演していましたな。プレデター戦経験者が2人もいるという何ともリッチな現場。
そしてトム役のベンジャミン・ウォーカーは『愛についてのキンゼイ・レポート』(2004年)でリーアム・ニーソン扮する主人公の若い頃を演じた人。今ではそんなに似ていないが。
リスキーなミッションなので計画段階より失敗可能性を織り込み、輸送を複数班で行うという判断にいたり、いよいよ『恐怖の報酬』みたいな話になってくる。
『恐怖の報酬』では2班体制だったが、本作ではより慎重を期して3班体制がとられる(①モーフィアス、②マイク&ガーティ、③タントゥ&トム)。どれか1班でも現地にたどりつけばミッション完了。
なのだけれど、『恐怖の報酬』が1班と2班で別ルートをとったのに対して、本作は3台のトラックでキャラバンを形成して運ぶので、班分けをした意味がほとんどないような気が・・・
実際、一台が氷を破って湖に突っ込んだ直後には、生き残った2台が広がっていくヒビ割れから全力ダッシュで逃げるという間抜けな見せ場があった。
この通り、本筋が始まると雲行きが相当怪しくなってくる。
クルーゾーやフリードキンのような力技があるわけでもないジョナサン・ヘンズリーの演出力では、「氷が割れるかもしれない」だけでアクション・スリラーをもたせるには無理があったようだ。
そこで「キャラバンの中に妨害者がいる」というミステリー要素が組み込まれている。
鉱山事故は、本社からの厳しいノルマを達成するため、支社ぐるみで安全管理措置を怠ったために発生したものだった。その隠ぺいのためには現場作業員達の口を塞ぐしかないということで、救助用機材の運搬を妨害しているのである。
大企業本社による隠ぺいならまだしも、しがない支社長クラスが迅速に妨害工作の段取りをできるものだろうかという違和感がわいてくる。
妨害工作員のトムについても、下手すりゃ自分も氷結した湖に突っ込むかもしれないのに、よくあれだけの工作をできるもんだと思う。一体いくら貰えばここまで頑張れるんだろう。
もしも愛社精神の為せる技だとするならば、ここまでの人材を育て上げた支社長の手腕は大したものだと思う。
そして後半では、アイスロードを離れて山道に舞台を移し、隠ぺい者側とニーソンのチェイス&バトルに発展するという豪快な方向転換がなされる。
タイトルの意味がここで完全に没却する構成はさすがにどうかと思ったと同時に、これだけの工作員たちを支社長がどうやって調達したんだろうかという違和感は決定的なものとなった。
ジョナサン・ヘンズリーのサービス精神が、この題材の場合はマイナスに出ていると思う。
とはいえB級アクション映画として見ればイベント満載でつまらなくはないので、見る側が期待値をどう設定するか次第なのかもしれない。
「イマイチ」と思う自分と、「まぁこんなもんでいいんじゃない」と思う自分の両方がいる。そんな映画。
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