移動都市/モータル・エンジン_失敗作だが見所満載【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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終末

(2019年 ニュージーランド・アメリカ)
脚色段階での情報整理がうまくいっておらず、映画としては失敗していると言えます。しかし作り込みの甘い作品ではないので見る価値は十分にあるし、愛せる要素も多くあります。舌っ足らずな部分にしても、行間を自分の頭で埋めるという楽しみに繋がりそうだし、不出来ではあるが見逃すには惜しい作品ではないでしょうか。

©Universal Pictures

あらすじ

60分戦争で文明が滅んでから千年後。人々は移動都市に住み、強い都市が弱い都市を飲み込みながら成長する弱肉強食の世界となっていた。大陸に進出した最強の移動都市ロンドンに、復讐を胸に秘めた少女へスターが潜入する。

スタッフ・キャスト

クリスチャン・リヴァースの監督デビュー作

クリスチャン・リヴァースは高校卒業後からピーター・ジャクソンの元でストーリーボードアーティストとして働き、後にVFXの領域にも手を広げて『キング・コング』(2005年)でアカデミー視覚効果賞を受賞した人物です。2015年に短編映画を監督し、本作が長編監督デビュー作。『第9地区』(2009年)のニール・ブロムカンプに続き、ピーター・ジャクソン製作作品において視覚効果マンが長編監督デビューした例となります。

脚色はピーター・ジャクソン他

フィリップ・リーヴ著のSF小説『移動都市』を脚色したのはピーター・ジャクソン、フラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボウエンの3人組で、うちフラン・ウォルシュはピーター・ジャクソンの内縁の妻です。この3人は『ロード・オブ・ザ・リング』トリロジー(2001~2003年)、『キング・コング』(2005年)、『ホビット』トリロジー(2012~2014年)を手掛けてきた名物チームとして有名です。『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2003年)ではアカデミー脚色賞受賞。

ヴィンセント・ドノフリオの娘が出演

ヒューゴ・ウィーヴィング扮するサディアス・ヴァレンタインの娘キャサリンを演じていたレイア・ジョージは、ヴィンセント・ドノフリオの娘さんみたいですね。どうやったら微笑みデブからこんな美人が生まれるのかと驚いたのですが、お母さんが美人女優のグレタ・スカッキと聞いて納得しました。お母さん似のようで。

キャサリン・ヴァレンタイン(レイア・ジョージ)
ヴィンセント・ドノフリオ
©Warner Bros.

グレタ・スカッキ
© Metro-Goldwyn-Mayer Inc.,

原作『移動都市』とは

イギリス出身の小説家でイラストレーターでもあるフィリップ・リーヴの小説デビュー作にして代表作です。2001年に『移動都市』を発表した後、『掠奪都市の黄金』(2003年)、『氷上都市の秘宝』(2005年)、『廃墟都市の復活』(2006年)と三本の続編も出版されています。

感想

目を奪われる圧巻のビジュアル

巨大移動都市ロンドンが小さな都市を丸飲みする冒頭10分は必見です。遠くにロンドンの影を見た小都市は急いで移動モードにトランスフォームするのですが、街がコンパクトに畳まれていき、瞬く間に一つの巨大なビークルになっていく様は圧巻であり、同じく都市の変形を扱っていた『ダークシティ』(1998年)や『インセプション』(2010年)といったSF映画史上の傑作をも上回る映像的インパクトを持っていました。

続くロンドンと小都市のチェイスはスピード感溢れるアクション、テンションの高い音楽、祭りの如く盛り上がるロンドン市民達と否が応にもテンションが上がる絶倫演出となっており、物凄いものを見せていただいたと監督に感謝したくなりました。

堂々たる移動都市ロンドン

さらに凄いのが、冒頭10分が終わってもビジュアルの密度は相変わらず濃密であることで、何気ない会話の場面の背後にある街並みや小道具にも何ひとつ手抜きがありません。この作り込まれた画を眺めるだけでも2時間は余裕で楽しめました。

本作はスチームパンクの一種であり、乗り物やガジェットが大きな見せ場となっているのですが、ピーター・ジャクソン作品をビジュアル面で支えてきたクリスチャン・リヴァースは見事な手際でこれらを見せてくれます。 『ロード・オブ・ザ・リング』で中つ国を丸々デザインしてみせたチームの実力はダテじゃないのです。

情報過多の脚本

本作の普通ではないレベルでの作り込みはビジュアル面に留まらず、脚色面でも同じことが言えます。映画版の制作者達は原作を愛しまくっていたのか、原作の要素を余すことなく入れようとしており、その結果2時間という上映時間の映画とは思えないほど過密したストーリーとなっています。

ただし問題は、ストーリー面での情報過多は観客に混乱を生み出すということです。娯楽映画における情報過多はしばしば説明不足へと繋がります。限られた上映時間の中で多くの要素を語ろうとした結果として一つ一つの構成要素への説明が不足してしまい、観客が理解できない作品となってしまうのです。

魅力的な原作を持つ『デューン/砂の惑星』(1984年)や『バビロンA.D.』(2008年)がそうだったように、本作も原作未読者には何が何だか分からん映画になっています。適度な捨象を施すべきでした。

デューン/砂の惑星【良作】見応えが凄い(ネタバレあり・感想・解説)

移動都市に焦点が当たった作品になるのかと思いきや、なぜ人類は移動都市のような異様なものを作り上げたのかというそもそもの世界観が説明される前に舞台が荒野へと移っていき、荒野に放り出されたヘスターとトムの冒険がメインプロットになるのかと思いきや、サイボーグ兵のシュライクから追われる『ターミネーター』みたいな話になっていき、シュライクからの逃避行劇になるのかと思いきや、反移動都市同盟が二人に絡んできて移動都市vs静止都市の戦争が始まり、全体として何を目指しているのかがよく分からない作品となっています。これはちょっと詰め込み過ぎでした。

移動都市vs静止都市の戦争という世界観の展開は続編以降に持ち越し、第一作はヘスターとトムの逃避行と移動都市の説明にフォーカスした内容に留めておけば、一本の映画として見やすくなったのではないでしょうか。

味がありすぎるキャラクター

情報過多はキャラクター面でも言えることであり、本筋には絡まない余計なキャラが大勢出てきます。特にサイボーグ兵士のシュライクなんて出さない方が全体の流れが良かったと思うのですが、問題はキャラ単体で見るとシュライクが非常に魅力的だったということです。原作に良いキャラが多すぎて切るに切れなかったという製作側の苦悩を感じました。

サイボーグ兵士シュライク

シュライクとは、60分戦争前の旧世界で作られたサイボーグ兵士の生き残りです、多分(作中に十分な説明がないもので…)。サイボーグ兵士とは生身の人間を鋼のボディに改造したほぼ不死身の戦士であり、過去に何かイヤなことがあって人間捨てたくなったシュライクはサイボーグ戦士に改造されたようです、多分。

シュライク(スティーヴン・ラング)

1000年ほど野良サイボーグとして生きてきたシュライクは、母を殺された8歳のヘスターを拾い、彼女を10年間育てあげました。そして、陰のあるヘスターに人間時代の自分と同じものを感じ取ったのか、シュライクは彼女にサイボーグ化を提案。ヘスターは一旦OKしたのですが、やはり人間で居続けることを選択してシュライクの元を離れました。以降、シュライクはヘスターの後を追い続けています。

惚れたホステスに「籍入れてくれるって言うたやないか~」と迫っていく常連客の如く、へスターを追いかけるシュライク。その存在は当初恐怖の源泉だったのですが、徐々に明かされるその正体に観客は同情します。1000年孤独に生きてきた彼にとってヘスターとの日々は宝物だったが、そのヘスターも有限の命の中で生きている。彼女をサイボーグ化することで、シュライクは永遠の孤独から逃れたかったんだろうなと。悲しきサイボーグの姿に、最後は涙することになります。

この監督は新人ながら、こうした情感ある演出を見事モノにしているので感心します。

反移動都市同盟のアナ・ファン

反移動都市同盟のアナ・ファンも同じくです。世界観の説明が足らない中ではじまる移動都市vs反移動都市というイデオロギー対立を観客はまったく理解できず、その中心人物たるアナは居ない方が多分話はスッキリしたはずです。

アナ・ファン(ジヘ)

しかし、みやぞんを先祖に持つかのようなリーゼント頭、着る服も乗る飛行機も赤で統一したシャアのような美的センス、キレッキレのマーシャルアーツ、「死にすら勝つことができる、この魂が自由なら」という言葉の意味はよく分からんがとにかくすごい自信を感じる名セリフと、こちらもキャラ立ちし過ぎていて切ることが到底不可能な人物だったと思われます。

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