マザー/アンドロイド_クロエ落ち着いて【5点/10点満点中】（ネタバレあり・感想・解説）

（2021年アメリカ）
ネットフリックスの大好きな終末ものですが、その標準的な仕上がりでした。先行して配信されたアメリカでの酷評ぶりほどひどいとは思わないものの、手放しで褒められるほど良くもない。そんな配信ストレート作品らしい映画でした。

感想

AIが反乱を起こして人類を本気に潰しにかかってくるという、『ターミネーター』（1984年）や『マトリックス』（1999年）など過去に何度見たか分からないほどありきたりな題材なのですが、その戦争の勃発の瞬間を見せたことが、本作の新奇性となっています。

戦後の荒廃した世界を描く作品は多くとも、戦争そのものを描いた作品は意外と存在していないのです。

主人公ジョージア（クロエ・グレース・モレッツ）とその恋人のサム（アルジー・スミス）達が、友人宅でホームパーティーをしています。

そこには男性ウェイターがいるのですが、無機質な話しぶりや、周囲の人間たちからのキツイ当たられ方で、彼はアンドロイドであることが分かります。

このお手伝いアンドロイドに対して若者達はかなり雑な扱いをしており、ちょっと可哀そうだなと思うのですが、次の瞬間、スマホから鳴る怪音をきっかけとしてアンドロイドが人間に襲い掛かり、家はパニックと化します。

この部分のショック演出は素晴らしく、なかなか驚かされました。

何とかアンドロイドを破壊して家の外に出ると、すべての家庭で同様の反乱が起こっており、街はパニックと化しています。

人類終わったわと一瞬で確信させるこの場面の絶望感も素晴らしく、本作のツカミは非常によくできていました。

場面は森に飛び、ジョージアとサムがテントでイチャイチャしています。

冒頭では妊娠発覚直後だったジョージアのお腹は大きくなっていることから、アンドロイドの一斉蜂起から9か月経過したことが分かるのですが、長期に渡るサバイバル生活を送ってきたであろう二人の顔がとてもキレイなので、一気に冷めました。

髪型もヒゲも丁寧に整えられており、顔にも衣服にも汚れひとつなし。それだけ身だしなみを整えられるほどの余裕がこの森のどこにあるのでしょうか。

また二人の会話も妙に前向きなのですが、目の前で友人を殺され、家族とも離別し、自分たちの命も常に危険にさらされているという緊張状態にある人間が、なぜあんなに落ち着いた気分でいられるのでしょうか。

もっと怯えているべきだし、こんな世の中で子供を産むべきなのだろうか、産んでもどうやって育てればいいのかと、もっと不安がっていなきゃおかしいと思うのですが。

終末ものなのに登場人物が過酷な世界の住人に見えない、これが本作の大きな欠点でした。

また、人類の生産力が大幅に低下したであろう世界において、食料をどうやって得ているのかという当然の描写が飛んでいることにも、違和感がありました。

食という生物にとって最も大事な要素、人間とアンドロイドとの根本的な差異を捨象するとは、いったいどうしたことかと。

もうひとつ本作で好きになれなかったのは、主人公ジョージアのヒステリックな性格です。

産前でホルモンバランスが崩れて気持ちが高ぶっているとは説明されるものの、それにしても『クワイエット・プレイス』のエミリー・ブラントなどと比較しても随分と感情的で、この人の個性の問題のような気がします。

ジョージアとサムはボストンから海外への脱出船に乗ることを計画しているのですが、それに乗れるのは子供一人に対して大人一人で、二人は同乗できないかもしれないとの情報を得ます。

ジョージアはその場合どうしようかとサムに質問し、彼は男らしく「その時は君が乗れ。僕は何とか生き延びる方法を探す」と答えるのですが、するとジョージアは「私が聞きたかった答えはそれじゃない！いつも3人一緒じゃないの！」とキレ出します。

女性によくある、回答が決まってることをわざわざ質問してくるパターンですね。

自分の中で答えが決まってるなら引っ掛け問題のように聞いてこないでよと思うのですが、ジョージアはあえて質問するタイプなのです。

また、アンドロイドに包囲されて絶体絶命という場面でサムが囮を買って出て、僕が敵を引き付けているうちに君は逃げろとかっこいいことを言うのですが、ここでもジョージアは家族一緒理論を持ち出して、サムを困らせます。

一刻を争う状況であり、かつ、このままでは二人とも捕まってしまう。

ほとんど選択肢が残っていない中でのサムの決断なのに、それでもセンチメンタルなことを言ってくるのかと。

しかも逼迫している状況で１秒たりとも無駄にできる時間がないのにまぁまぁ喋るし、囮を買って出たサムが時間を作ってくれたにも関わらず、その場でメソメソしてるし、この人には今が緊急事態の真っただ中であるという認識がないのかとイライラさせられました。

緊急時において足を引っ張るタイプの登場人物って、私はダメですね。見ていてストレスしか感じません。