MONSTER IDOLは視聴者に物語を信じさせ、熱狂させる優れた企画

スポンサーリンク
スポンサーリンク
雑談
雑談

MONSTER IDOLとは

TBSで放送中のバラエティ番組『水曜日のダウンタウン』内の連続企画です。

元よりアイドル好きとして知られる安田大サーカスのクロちゃんがプロデューサーとなり、16名のアイドル候補生から4名を選び出してデビューさせることがその内容です。この企画のミソは、誰を落とし誰を残すのかはクロちゃんの独断に委ねられているということであり、無類の女好きでもあるクロちゃんが邪な発想から理不尽な判断を下したり、己の殺生を握られたアイドル候補生達がセクハラ気味のクロちゃんとどう向き合うのかが大きな見せ場となっています。

2019年11月6日に初回が放送されるや注目の企画となり、その動向が毎回yahoo!ニュースなどでも取り上げられるほどの評判となりました。番組内での放送時間はどんどん拡大していき、2019年12月25日に放送された最終回では2時間特番の半分の尺を使うほどの扱いとなっていました。

MONSTER IDOLの成果

最終回直前の12月18日の放送では、最後まで残った4名と「豆柴の大群」というグループ名、デビュー曲『りスタート』の発売が発表されました。そして、CDは「クロちゃん続行ver.」「クロちゃん解任ver.」「クロちゃん罰ゲームver.」の3種類のジャケットで発売され、最終回が放送される12月25日までの一週間でもっとも売り上げの高かったver.でプロデューサー・クロちゃんの処遇を決定するとの発表もありました。

そこからの一週間は驚異でした。YouTubeにアップされたPVは6日間で600万回再生。事前告知なしの店頭握手会に人が殺到し、CDが売れないと言われる時代におまけを付けるわけでもなく73,795枚も売れました。

もっとも売り上げが高かったのは大方の予想通り「クロちゃん罰ゲームver.」であり、クロちゃんはプロデューサーを解任された上で、宙づりにされて頭から氷水に入れられるという罰を受け、豆柴の大群のプロデュースは多くのアイドルを抱える事務所「WACK」に引き継がれました。「俺の彼女にしたい」というクロちゃんの無茶苦茶な理屈から最終選考で落とされていたカエデも救済的にグループ入りし、企画は大団円で終了したのでした。

企画意図はリアリティ番組のパロディ

MONSTER IDOLには前身企画があります。それは2018年10月3日から2018年12月26日にかけて放送された企画「MONSTER HOUSE」であり、クロちゃんに美男美女との共同生活をさせて、どう行動するのかを観察するという恋愛リアリティ企画でした。

このMONSTER HOUSEは明確に「テラスハウス」をモチーフにしたものだったし、一人の男性から選ばれたくて複数の女性が競い合うMONSTER IDOLは同じく恋愛リアリティ企画である「バチェラー」を思わせます。MONSTERシリーズは、恋愛リアリティ番組のパロディだったのです。

パロディであるという構図が分かれば、MONSTER IDOLの真の企画意図が見えてきます。それはリアリティ番組に見せかけた壮大なアイドルデビュー劇だったということです。企画全体を俯瞰すれば、このアイドルを作ったのはWACKでしかなく、候補者の内の誰を落として誰を残すのかという判断もクロちゃんの邪な感情でやっているように見せかけて、実際にはWACKがしっかりと選んでいたのではないかと思います。

いったんは落とされながらも救済的にメンバー入りしたカエデにしても、彼女は初回からもっとも目立つ場所に座らされていたことからも、カエデがメンバー入りすることは当初からの決定事項だった上で、アイドルとして最も可能性の高い彼女にファンからの共感を得るための悲劇の物語を作り上げたのではないかとも思います。もちろん、カエデ本人には知らされていなかったのでしょうが。

私の推測は飛躍しすぎなのかもしれませんが、興味深いことはテラスハウスやバチェラーについては私の推測の比ではない程のヤラセの指摘がSNS等で見られる一方で、MONSTER IDOLをヤラセと疑う声は驚くほど少ないということです。ここに、この企画のもう一つの真意が隠されているように感じました。

美しいものは否定したがるのに、醜いものは信じたがる人間心理

テラハやバチェラーをヤラセと言って受け入れない視聴者が、Monsterシリーズで映っているものは真実であると受け入れる理由は一体何なのか。それは、美しいものは否定したがるのに、醜いものは信じたがる人間心理なのだろうと思います。

おそらく、テラハやバチェラーに映っていることのすべてが真実ではないでしょう。この光景はテレビで放送されるのだという認識を持ち、スタッフという第三者もいる特殊な場なので、出演者たちは見られていることを意識した動き方になるだろうし、面白い展開を押さえたいというスタッフの思いを感じ取ったり、視聴者からの支持が欲しくてやりにいく者もいるかもしれません。さすがに台本や演出でコントロールされているとまでは言いませんが、期待される役割を出演者達が演じているという側面は十分にあると思います。

MONSTERシリーズにも同じことが言えます。水曜日のダウンタウンというバラエティ番組内では、従前よりクロちゃんは女好きでウソつきというキャラを与えられてきました。そのキャラを忠実に実践するかの如く、クロちゃんはMONSTER HOUSEでは意中の女性達に二股をかけようとし、MOSTER IDOLではお気に入りの子と付き合いたくて選考から落とすということをしました。クロちゃんが本気で女性たちに手を出す気でいるのであれば、テレビ放送されてバレる話なんだからこんな露骨なことをやるはずがないのですが。

MONSTER IDOLでは、受け手となるアイドル候補生達もこれが『ASAYAN』のような純粋なオーディション企画ではなく、色目を使うクロちゃんと狙われた若い女の子達という全体的な構図とセットになった企画であることは分かって動いているはずです。実際、冒頭には「参加者は企画趣旨・内容に賛同して参加しています」とのテロップが毎回表示されるし。

しかし、テラハやバチェラーに対しては常にヤラセ疑惑が付きまとう一方で、MONSTERシリーズには疑いの声が少なく、クロちゃんは最低の人間だと信じている人が多いという現象は興味深く感じました。番組の構造は同じなのに。

そして、視聴者側の心理に先回りして今の視聴者が心底感情移入して見るドラマを作ってみせることが、『水曜日のダウンタウン』という番組の凄いところなのです。

視聴者の深読みの先を行く水曜日のダウンタウンの凄さ

『水曜日のダウンタウン』は、常に視聴者の深読みの先を行ってきた番組です。「ドッキリなんて仕込みでしょ」という視聴者の声に対しては、ドッキリに引っかかった演技をしている芸人に底意地の悪い罠を仕掛けて、どこまで演じきれるのかを観察したり、「おバカタレントはおバカというキャラを演じているだけでしょ」という声に対しては、売れていないタレントがテレビ出たさにどこまでキャラをやりにいくのかを観察したりと、バラエティ番組とは作り物であるという前提を隠す気もなく、さらに高い次元で罠を仕掛けてタレントの素の状態を撮って視聴者に見せるという企画を連打してきました。

他方で、本当にガチンコの企画では視聴者に「ヤラセ」「仕込み」との疑念を抱かせない程の徹底ぶりを見せます。その極北が2019年5月にギャラクシー賞を受賞した「新元号当てるまで脱出できない生活」。これは無名のお笑いコンビななまがりを2019年3月31日から密室に監禁し、外部からの情報を完全シャットアウトした状態で新元号を的中させるまで解放しないという過酷な企画でした。

通常のバラエティ番組ならば、視聴者から見えないところでタレントを休憩させているのではないか、撮れ高が貯まってきたところで正解を与えているのではないかという疑念を抱かれがちなのですが、この番組はタレントの生活が当初ルール通りに厳しくコントロールされている様がはっきりと伝わってくるし、彼らが論理的に推理して自力で回答を得たことが分かる作りとなっています。視聴者がウソ臭さを感じる要素をすべて排除しているのです。

そして、視聴者がバラエティ番組をどう見ているのかを知り尽くしている『水曜日のダウンタウン』のスタッフ達は、Monsterシリーズには真実が映っていると視聴者が錯覚するという算段を働かせていたのだろうと思います。それは、イケメン、良い女の物語は信じたがらないが、悪い奴、キモイ奴の物語は積極的に信じたがるというゲスな大衆心理をガッチリ掴んでいたということなのです。

MONSTER IDOLが放送される度に沸くSNS、豆柴の大群を世に出した直後の商業的成功を見ると、世間は完全に『水曜日のダウンタウン』が用意した物語を信用し、それに熱狂したことが分かります。実際、見ていて面白かったし。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
記事が役立ったらクリック
スポンサーリンク
公認会計士の理屈っぽい映画レビュー

コメント