(2023年 日本)
信長伝を濃姫目線で描くというコンセプトはいいけど、結局は信長=キムタク偏重になってしまい、せっかくのコンセプトが台無しになっている。また日本映画特有のクセか、くどくどと長ったらしく説明されるドラマも問題だった。
感想
Amazonプライムにて鑑賞
1月公開作が5月にはアマプラ無料配信登場ということで、相変わらずのアマプラの仕事の速さに驚かされると同時に、こんなに早く放出されるということは、やはり東映のビジネス的には厳しかったのかなと思ったりもしたりで。
配信開始日に早速見てみようかと思ったが、上映時間を見て腰を抜かした。2時間48分。
いったん見るのをやめて、その後しばらくは放置の状態となり、配信開始から数週間を経てようやっとの鑑賞となった。この上映時間が興行面でも足を引っ張ったんじゃないかと推測する。
内容は織田信長(木村拓哉)の生涯なんだけど、映画、テレビを通じてこすられまくってきた信長伝に新風を吹き込むべく、妻・濃姫(綾瀬はるか)との関係を中心に据えたことが本作の新基軸である。
Wikiを見てみると、この濃姫に関してはほとんど何もわかっていないらしい。
“濃姫”という呼称すら後世の創作で登場したものだし、本能寺の変に巻き込まれて死んだのか、生き延びたのかもよく分からない。
分からないことだらけということは、裏を返せばいくら自由に描いても嘘にはならないということであり、この濃姫を軸とした本作の切り口はなかなか鋭かったと言える。
ただし全体の構造は信長7:濃姫3の割合で、やはり信長が強く出すぎている。
濃姫を主人公に、信長を脇役にすればいいのだが、本作のプロデューサー達は映画界で結果を残せていない綾瀬はるかの動員力に不安をおぼえたのか、キムタクに依存する作りにしてしまったのだ。
これではせっかくのコンセプトが台無しだ。
結果、いつもの信長伝に夫婦愛というサブ的要素がくっついただけの中途半端な代物となってしまい、桶狭間の戦いや長篠の戦いといった歴史的ターニングポイントをあえて描かないという斬新なアプローチも、物足りなさの原因となっている。
ではでは、信長と濃姫とのドラマが面白かったかと言われると、こちらもイマイチだった。
二人の関係は10代での政略結婚から始まる。
恰好ばかりつけて中身のない田舎のヤンキーみたいな信長を、実は文武両道の濃姫が圧倒することが前半の流れなんだけど、明らかに観客を笑わせるつもりで作られているこのパートが、まぁ笑えない。
アラフィフのキムタクと、アラフォーの綾瀬はるかが10代の役をナチュラルに演じてみせたことは圧巻なんだけど、笑いを分かっていない人が演出をしているという弱みはどうにも隠しきれない。
新婚初夜にはアンジャッシュばりのすれ違いコントが始まるんだけど、まぁこれが見ていられないくらい酷い。あまりに酷すぎて、真面目に演じているキムタクや綾瀬はるかが気の毒になってきたほどだ。
その後、二人が次第に打ち解けて真の夫婦となったかと思えば、夫の仕事面での躓きからまたすれ違っていく様が丁寧に描かれる。丁寧過ぎて何度も寝落ちしかけた。
比叡山焼き討ちとかで信長はメンタルを病む。ここで信長は常人の感覚では天下獲りなどできないと割り切ってしまい、自分は魔王になるからついて来られない奴は離れていって構わないというスタンスをとり始める。
この辺りがドラマ的な山場であり、キムタクは一世一代の熱演を見せるんだけど、不思議と心に響いてくるものがなかった。
ある一点に感情的なピークを持ってくるべきところを前後でくどくどとやりすぎた結果、ドラマが薄まっているのだ。
また信長と濃姫が直接やりとりをするのではなく、仕事面でおかしくなっていく信長と、それを遠くから見守る濃姫という構図が置かれているために、一つのイベントに対して2つの場面が交互に挿入されるという面倒くささもあった。
キムタクと綾瀬はるかのスケジュール調整ができなかったのだろうか。
クライマックスもくどかった。
本能寺の変で信長が死ぬことは分かっているのに、自害までのキムタクの一人芝居が長いこと。「もうわかったから」と言いたくなった。
本来は2時間程度でやっつけられた内容を3時間近くにまで引っ張ったことが本作の敗因だろう。
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