私というパズル_助産師さんが気の毒すぎる【7点/10点満点中】(ネタバレなし・感想・解説)

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人間ドラマ

(2020年 アメリカ)
死産をテーマにしたドラマ。感情表現はかなり抑制されているものの、演出や演技の質の高さから登場人物の苦悩はしっかりと伝わってきます。変に前向きではない内容にもリアリティがあり、全般的にクォリティの高い作品でした。

作品解説

ヴァネッサ・カービーがカンヌ映画祭女優賞受賞

本作は2021年1月よりNetflixで配信されているのですが、それに先駆ける2020年9月にカンヌ映画祭に出品されていました。

作品は概ね高評価を受けたのですが、とりわけ主人公を演じたヴァネッサ・カービーへの評価は高く、彼女は女優賞を受賞しました。

またアカデミー主演女優賞にもノミネートされています(授賞式は日本時間2021年4月26日)。

感想

気持ちの整理など簡単にはつかない

死産を経験した主人公マーサ(ヴァネッサ・カービー)の心境を描いたドラマ。

人の不幸っていろいろありますが、その中でも死産は相当強烈な部類に入ると思います。なぜなら、その直前には「赤ちゃんが生まれる、家族が増える」という幸福感があっただけに、起こった事とのギャップが物凄いから。

マーサとショーン(シャイア・ラブーフ)の夫婦は死産にショックを受けます。受けるのですが、夫のショーンが悲しみや怒りといったわかりやすい感情表現をするのに対して、マーサは真っ白な状態になります。

感情のリミッターを越えることが起こった上に、この不幸には明確な原因もなければ憎むべき対象も存在しないので気持ちのやり場がなく、どんな感情を抱けばいいのかすら見失っているようです。

そんな状態なのでマーサは淡々とした日常生活に戻ろうとするのですが、夫ショーンはいつまでもメソメソしていて面倒くさいし、周囲は自分に対して変に気を使ってきてうざい。

しかも母エリザベス(エレン・バースティン)は「子供の葬式をしよう」とか「助産師を訴えよう」とか、あの件を思い起こさせるようなことばかり言ってきます。

どんな儀式をしようが、誰に何を償わせようが子供が生き返らないことだけは確かであり、結果への影響を与えられないことに対してマーサは関心を持てないのですが、一方周囲は過去に囚われたことばかりを言ってくるので、これもまたマーサのストレス源になっているようです。

面倒くさいのでマーサは肯定も否定もしないのですが、そうすると周囲はどんどん物事を進めていきます。物事が進んでいくと、マーサはまた意見を求められるという悪循環。

感情表現をしないという難しい役柄ながら、ヴァネッサ・カービーは実に説得力のある演技を披露します。実生活では子供を産んだ経験のないカービーは周囲へのリサーチをして役作りをしたと言いますが、その演技の質は非常に高く、カンヌでの高評価にも納得なのです。

シャイア・ラブーフの馬鹿夫ぶりが良い

一方、夫ショーン(シャイア・ラブーフ)は実に分かりやすい感情表現をするので、視聴者が感情移入しやすいのはむしろこちらのキャラクターではないでしょうか。

ショーンは工事現場の作業員であり、いわゆるホワイトカラーのマーサとは格差婚状態にあります。資産家であるマーサの実家との折り合いは悪く、特に義母エリザベスからは露骨に嫌な態度を取られています。

こうした構図よりマーサとは大恋愛の末に結ばれたというバックストーリーがうかがい知れ、だからこそ死産をきっかけに夫婦の間にも亀裂が生じることが余計に辛くなってきます。

死産に対するショーンの反応は実に月並み。子供の葬式をしようとしたり、気分転換に夫婦で旅行に出かけようと提案したりします。ただし基本が馬鹿なので、検死医から子供の死因を聞くという大事なことをしなかったり、墓石の綴りを間違えたりします。

そんな感じなので、一段高いレベルで悩んでいるマーサはショーンに対して呆れ気味であり、協力して乗り越えねばならない危機の中にいるのに、この夫婦の気持ちはどんどん離れていくわけです。

感情のやり場を失ったショーンは、マーサの従姉妹にして助産師への訴訟の担当弁護士を務めるスザンヌ(サラ・スヌーク)と深い仲になるのですが、自分は悪いことをしているという感覚から彼の心は余計に荒れていき、7年間断っていたコカインにも再度手を出します。

こうしてショーンはどんどん追い込まれていくのですが、演じるシャイア・ラブーフは相変わらずの芸達者ぶりでこの役柄をモノにしています。

彼の馬鹿さ加減がマーサのストレスとなるのですが、根は良い人間で何事をするにも決して悪気はなく、すべてが裏目に出てしまうことが憐れにもなってきます。こうした複雑なキャラクター像にシャイア・ラブーフはピッタリでした。

助産師さんを責めないで

終盤では助産師の過失を巡る裁判が始まるのですが、罪に問われる助産師さんが可哀そうで見ていられませんでした。

彼女の名はエヴァ(モリー・パーカー)。マーサとショーンの夫婦は自宅出産をするつもりであり、もともと彼らに関わっていたのはバーバラという別の助産師だったのですが、ちょうど他の家のお産と重なったことから、ピンチヒッターとしてエヴァがやってきました。

事前の信頼関係がないというやりづらい現場ながら、エヴァは初産であるマーサの緊張を適度にほぐしつつお産作業を進めていきます。その立ち居振る舞いはプロという感じであり、彼女の仕事には何の落ち度もありませんでした。

しかし死産という結果しか知らない周囲は「助産師が何か失敗したんじゃないか」と言って大騒ぎ。当事者であるマーサとショーンのいずれもエヴァに過失があったとは思っていないのに、勝手に周囲が事を荒立てていきます。

さらには自宅出産をよく思っていない人々からの突き上げも始まり、世の歪みをエヴァが一身に背負うようなことにもなっていきます。

よかれと思ってピンチヒッターに行ったのに、子供を殺したとか刑務所に入れとか非難されるエヴァが可哀そうで可哀そうで仕方ありませんでした。現場で頑張ってくれた人にあんな扱いをしてはいけませんよ。

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