スモーク(1995年)【7点/10点満点中_粋な大人の人情話】(ネタバレあり感想)

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7点/10点満点中

■ミニシアターブームの代表的作品

ミニシアターとは、1980年代に次々に閉館していった名画座にとって代わり、一館でひとつの作品を長期間上映する形式をとった映画館のことであり、80年代後半から90年代にかけて渋谷の若者を中心にミニシアターブームというものが起こりました。とはいえ80年代生まれで、しかも地方で育った私には縁遠い話であり、『ロボコップ』とか『プレデター』とは違った難しい映画を都会のお兄さん方は長蛇の列をなして見ておられるんだなぁという感じで眺めるのみでしたが。

そんなミニシアターブームの最中、恵比寿ガーデンシネマでは25週間に渡って上映され続け、たった一館で9万人を動員という記録的な興行成績を誇ったのが本作『スモーク』なのでした。

■NYを舞台にした人情もの

明確な起承転結があるわけでもない、タイトルの如くフワフワとした人情話であり、日本では山田洋二あたりが監督しそうな概略の作品なのですが、NYの下町っぽい気取らないおしゃれな感じが本作独特の良い雰囲気を醸成しています。

ウッディ・アレンとか、最近ではノア・バームバックとか、NYを魅力的に描く監督って自身もNY出身のことが多いのですが、本作の監督であるウェイン・ワンは香港出身。地理どころか文化圏すら違うウェイン・ワンがここまでNYを魅力的に切り取っていることって、実はすごいことじゃないかと思います。

■作品におけるウソの扱い

もうひとつ本作で独特なのはウソの取り扱いであり、登場人物達は皆ウソをつくのですが、そのウソを肯定も否定もしていません。もちろんウソは褒められたものじゃないが、その場の会話を成り立たせるためには、人間関係を円滑に進めるためにはウソが多少あった方がスムーズなんじゃないのという姿勢をとっており、そこにはひとつの真理があったように感じました。

まさにタイトルにある『スモーク』の如しですね。真面目な人達はタバコの煙には毒がある、あんなものは吸わない方が良いと言う。確かに理屈はその通りなのかもしれないが、人間とは完全に美しく折り目正しくは生きられない存在であり、害あるものと節度を持って付き合うことにこそ人間らしさが宿るんじゃないのというわけです

父・サイラスに本名を隠すラシード

12年前から失踪中の父・サイラスの元を訪れたラシード。小さな自動車工場を経営するサイラスの仕事ぶりをしばらく眺めるものの、自分を捨てて逃げた最低人間として憎むべき相手なのか、それとも情状酌量して関係を再開すべき相手なのかの判断が付かず、よりサイラスに接近するために偽名を名乗って自分を雇ってくれと言います。ラシードはサイラスにウソをついたのですが、もしここで本名を名乗っていればサイラスは身構えてしまいその人間性を窺い知ることも、関係性を再開することもできなかったのだから、ラシードは赤の他人を装うしかない状況ではありました。

オーギーに自分の娘の父親であるとウソをつくルビー

ピッツバーグからオーギーを訪ねてきた昔の彼女・ルビー。娘のフェリシティはあなたの子であり、今はあなたの孫を妊娠しているのだが、現在の彼女はスラム街に住むヤク中で緊急で救わねばならない状況にあるから、力を貸して欲しいと頼みに来ます。しかし後日、ルビーはオーギーが何人かいる父親候補の一人に過ぎず、彼が父親であるという確信を持っていなかったことを打ち明けます。ルビーもまたウソをついたのですが、娘の妊娠という緊急性と、自分一人ではどうにもできなかったという手段のなさを考えれば何としてでもオーギーを引き込みたかった彼女の背景は理解できるし、娘だと言われてもなお渋々現地に向かっている状態のオーギーのやる気のなさを見れば、あの場はウソをつかざるを得ない状況ではありました。

親の愛情を拒絶するフェリシティ

オーギーとルビーはフェリシティのアパートに向かいますが、見るからにヤク中のフェリシティは「私は野良犬から生まれた。両親なんていない」と悪態をつき、すでに堕胎したことを告げてオーギー・ルビーと決別します。しかし両親が諦めて帰った後に涙をこぼすフェリシティ。

彼女の背景は本編で明確に描かれないので、そのウソは親に対してついたものなのか、それとも自分の内面に対してついたものなのかはよく分かりません。また堕胎したという情報も親を諦めさせるためのウソなのか、それとも本当に堕胎したのかの判別がつかないのですが、この多く語られない断片には、ルビーにもフェリシティから拒絶されるだけの原因があったんじゃないかということや、ルビーにはルビーでフェリシティに構っていられないほど困窮していた時代があったのではないかということが想像され、その余白部分を想像するだけでも胸が痛みました。

ルビーに金を渡すオーギー

フェリシティの一件の後、ピッツバーグに帰ろうとするルビーに「最近儲かって得た宵越しの銭だ」と言って5000ドルを手渡すオーギー。実はこの金は高級葉巻を水濡れで台無しにされた後、ラシードから受け取っていた補填金だったのですが、どんな金かを言えばルビーが受け取りづらくなると感じたオーギーは、俺にとってはあってもなくても良い金だと言って渡してやります。

■本作の予見性

冒頭ではタバコが悪者扱いされる社会風潮への批判に続けて、「そのうち微笑みかけたり、口説いたりするのも罪になるんじゃないか」というセリフがあります。作品の趣旨とは少々ズレるのですが、何でもかんでもハラスメントと定義して批判し人間関係をギクシャクさせるほど息苦しくなった現代社会を予見しているようで、こちらも興味深く感じました。

Smoke
監督:ウェイン・ワン
脚本:ポール・オースター
原作:ポール・オースター『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』
製作:ピーター・ニューマン、グレッグ・ジョンソン、黒岩久美、堀越謙三
製作総指揮:ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン、井関惺
出演者:ハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハート、ハロルド・ペリノー・ジュニア、フォレスト・ウィテカー、ストッカード・チャニング
音楽:レイチェル・ポートマン
撮影:アダム・ホレンダー
編集:メイジー・ホイ、クリストファー・テレフセン
配給:ミラマックス(米)、日本ヘラルド映画(日)
公開:1995年6月9日(米)、1995年10月7日(日)
上映時間:113分
製作国:アメリカ合衆国、日本、ドイツ

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