ウォッチメン(2019年)_素晴らしい面白さ【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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DCコミック

(2019年 アメリカ)
ウォッチメンの濃い世界観にはミニシリーズの尺がピッタリであり、ザック・スナイダーの映画版以上に楽しめました。現実と似て非なる世界という歴史改変ものとしての醍醐味に、圧巻のキャラクター劇に、複雑な謀略と、『ウォッチメン』に求められるものが網羅されています。

作品解説

コミック『ウォッチメン』の後日談

『ウォッチメン』(1986年)とは、イギリス出身のコミック作家アラン・ムーアにより1986年に発表されたグラフィックノベルであり、いわゆる「歴史改変もの」におけるマスターピースとされています。

その評価には絶大なものがあって、SF界の最高権威であるヒューゴー賞を受賞した唯一のコミック作品であり、タイム誌の「1923年以降に発表された長編小説ベスト100」にも選出されており、コミックという枠を越えた評価を受け続けています。

そんな原作とこのミニシリーズとの関係はというと、これは原作の映像化ではなく新たに構築された後日談となっています。

よって『ウォッチメン』というタイトルであるにも関わらずウォッチメンは登場せず、それどころかヒーロー達の活躍を中心とした内容でもありません。

では一体何が描かれているのかというと、ヒーローたちの介在によって改変された世界における社会問題であり、SF設定が置かれている以上は現実世界と異なる部分もあるにはあるにせよ、人種間対立、白人貧困層の狂暴化など、そこで描かれるのは現実のアメリカ合衆国が抱える諸問題です。

2009年の映画との関係

『ウォッチメン』は2009年にザック・スナイダー監督の手で実写映画化されており、日本では原作よりもこの映画版で『ウォッチメン』を知ったという方が多いと思います。

で、この映画版と本ミニシリーズの関係ですが、直接的に話が繋がっていないので映画版の情報のみでは理解できない部分が出てきます。

映画版は基本的には原作に忠実だったのですが、クライマックスにかなり重要な改変が加えられていました。本ミニシリーズには当該改変部分が大きく影響してくるので、原作のクライマックスがどうだったのかという情報は押さえておく必要があります。

また映画版は長大な原作を刈り込む作業を経て作られた結果、大きく扱われなかったキャラクターが何人かいました。フーデッド・ジャスティスという映画版ではまったく印象に残らなかったヒーローが本ミニシリーズでは重要人物になってくるので、彼は一体何者なのかという点を押さえておくと理解が進みます。

感想

ミニシリーズとアメコミの相性は良い

90年代に『ウォッチメン』の映画化に取り組んだテリー・ギリアムは、長大な原作の要約に苦戦して「テレビのミニシリーズこそが媒体として最適」と言いましたが、本作にてついにミニシリーズでの映像化がなされました。

果たしてその出来はというと、まさにギリアムが言った通りになりました。

全9話、トータルで8時間47分もの時間が確保されているので世界観やキャラクターをじっくりと描くことができるし、各話の終わりには「この先どうなるんだ」という煽りがあり、さらには前半でばら撒かれた謎や複線が後半で一気に回収されていくことの快感もあって、実に面白いのです。

加えて、終始大真面目だった原作や映画版とは違ってユーモアを挿入する余裕も生まれており、ミニシリーズ固有の強みも打ち出せています。

当初、私は一日一話ペースでゆっくり見ていくつもりだったのですが、続きが気になって気になって仕方がないのでついつい連続で見てしまい、平日だというのに3日で見終わりました。

それほどまでに本作のストーリーテリングは魅力的だったということです。

興味深い世界観

原作『ウォッチメン』は、ヒーローが介在する現代史を描いた歴史改変ものの傑作であり、現実と似ているんだがちょっと違う世界というのが作品の醍醐味の一つとなっていました。そして、後日談である本作においても引き続きその醍醐味は追及されています。

年代設定は本国での放送時期と同じ2019年ではあるものの、その中身は現実とは似て非なる世界。

  • アメリカはベトナム戦争に勝ったという歴史であり、ベトナムは51番目の州になっている。
  • 原作クライマックスの事件がきっかけで保守政権が倒れてリベラルが大躍進。1993年にはリベラル派の俳優ロバート・レッドフォードが大統領に就任した(西部劇俳優ロナルド・レーガンが大統領になった現実世界の投影だと思われる)。
  • レッドフォード政権は超長期化し、2019年においても現職。
  • レッドフォード政権の功績で有色人種への保護政策は進んでいるが、その一方で白人の貧困化が深刻な状態となっている。
  • レッドフォード政権の功績で銃規制がかなり進んでおり、警察官の発砲にも厳しい規制が設けられている。
  • インターネットが存在しない(もしくは禁止された)社会であるため、SNSも通信端末も登場しない。
  • オジマンディアスのおかげでバイオテクノロジーは現実世界よりも遥かに進んでおり、クローン人間を作ることも可能。

さらに興味深いのがヒーローのあり方で、本作ではヒーローが公務員化しています。かつては民間の領域だったヒーロー業も、『ウォッチメン』の世界でヴィジランテ行為を禁じたキーン条例なるものが成立して以降は鳴りを潜め、さらにその後は公務員化していったというわけです。

『ウォッチメン』でシルク・スペクターⅡを名乗ってヒーロー活動をしていたローリー・ジュピター(ジーン・スマート)は、父方の姓ブレイクに改名してFBI捜査官となり、いまだに民間でヴィジランテ行為をやっている闇ヒーロー達をしょっ引いています。

舞台となるタルサの警察官達は身バレ・顔バレを防ぐため黄色い覆面をしているのですが、組織内での地位がそれなりに高い刑事になってくるとそれぞれ特徴的なマスクを被り、ヒーロー名を名乗っています。

これら作り込まれた世界観は作品の見どころとなっています。

オジマンディアスが面白すぎる

この物語で最大のインパクトを残したキャラクターと言えばオジマンディアスではないでしょうか。演じるジェレミー・アイアンズが出演者中最大のビッグネームである点からも、製作陣がこのキャラクターを大きく扱っていたことは分かります。

オジマンディアスと言えば原作『ウォッチメン』における陰謀首謀者であり、NY市民300万人を犠牲にすることで核のホロコーストの危機を回避したという、MCUにおけるサノスのような実績を持っています。

本作で描かれるのは『ウォッチメン』から34年後のオジマンディアスであり、彼は『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)のサノスと同じく平和な田舎で隠居生活を送っています。中世風の古城を住処とし、ドジだが気は良さそうな執事、メイドとの3人暮らしなのですが、ドラマが進行するにつれその異常性が露になってきます。

敷地内には同じ顔の執事とメイドが何十人もいて、実は彼らがクローン人間だったことが分かります。オジマンディアスは彼らの命を何とも思っていないようで、生きたまま焼く、カタパルトに乗せて空に飛ばすとやりたい放題。

彼は一体どこにいるのか、クローンたちを使って一体何をやっているのかが物語の焦点の一つとなっているのですが、その真相が「これを予測できる人間はいないんじゃないか」というくらいぶっ飛んでいて楽しめます。

思えばオジマンディアスは個人では抱えきれないほどの原罪を抱えています。その結果、感覚的に突き抜けてしまったようなのですが、突き抜けすぎて面白キャラに転じている点には、原作を知る人ほど驚くのではないでしょうか。

Dr.マンハッタンの描写は良かったり悪かったり

オジマンディアスと並んで本作にも登場するウォッチメンの生き残りがDr.マンハッタンです。

狂人やコスプレ好きだらけのヒーロー業者の中で、Dr.マンハッタンだけは真正の超人でした。『ウォッチメン』においてはどんどん神格化が進んでいき、最終的には真の創造主になるべく宇宙へ旅立っていったのですが、本作では再び人間に退行しています。この改変は、原作の物語に反しているように感じました。

また、かつてのマンハッタンはベトナム戦争をたった一人で終結させたほどの圧倒的な存在だったのですが、本作では人間でも対抗可能なレベルにまで落ちていることにも「これじゃない感」がありました。

ただし良かった点もあって、時間という概念を超越し、原因と結果を同時に見ているというDr.マンハッタンの主観の表現は、原作や映画版以上にうまくいっています。

複雑に交錯する陰謀 ※ネタバレあり

ここからはネタバレ全開でいきます。

後半になるにつれ、多くの登場人物の思惑が交錯する複雑な内容となってくるのですが、それらを整理するとこんな感じになります。

名前正体目的
カル・エイバー(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)シスターナイトことアンジェラ・エイバーの夫で、専業主夫をしているが、実は超人Dr.マンハッタンの世を忍ぶ仮の姿。『ウォッチメン』にて人間であることを捨て火星に移住したが、やっぱり一人では寂しくなって地球に戻り、普通の人間としての平穏な生活を望んでいる。
ウィル・リーヴス(ルイス・ゴセット・Jr)シスターナイトことアンジェラ・エイバーの祖父で、1921年のタルサ暴動の生存者。元NY市警警官で、かつてフーデッド・ジャスティスを名乗って自警団活動をしていた。警察や行政に多大な影響力を持つ秘密結社「サイクロプス」を追い続けている。ずっとNYで活動してきたが、Dr.マンハッタンから鍵はタルサにあると聞かされて故郷タルサに戻ってきた。
ジャッド・クロフォード署長(ドン・ジョンソン)タルサ警察署長。表面的には人種的偏見を持たない好人物で、警察トップとして白人至上主義集団「第7機兵隊」を追っていたが、実は秘密結社「サイクロプス」のメンバー。2016年のホワイトナイト事件時、サイクロプスはアンジェラ・エイバーの夫・カルこそがDr.マンハッタンであることを突き止めた。ジャッドはサイクロプスからの命を受け、アンジェラの友人となってカルに接近していた。
キーン上院議員(ジェームズ・ウォーク)ヴィジランテ行為を禁止する「キーン条例」を制定したジョー・キーン元上院議員の息子で、二世議員。実は秘密結社「サイクロプス」の幹部。Dr.マンハッタンの能力を手に入れることが目的。そのために科学技術を持つレディ・トリューと組み、また白人至上主義集団「第7機兵隊」を実働部隊として操っている。
レディ・トリュー(ホン・チャウ)ベトナム系アメリカ人で、天才科学者にして大企業トップ。盗まれたオジマンディアスの精子から生まれた。Dr.マンハッタンの能力を手に入れることが目的。サイクロプスを追うウィル・リーヴス、サイクロプスのリーダーであるキーン上院議員などとも繋がりながら、自分の計画を着々と進めている。
第7機兵隊人種差別思想を持つ白人貧困層の集団であり、かつてウォッチメンのメンバーだった「ロールシャッハ」に心酔し、彼と同じマスクを被っている。有色人種保護を最優先にする警察を目の敵にしており、2016年の「ホワイトナイト事件」ではタルサ署勤務の警察官40名を襲撃した。

白人至上主義集団が物語のキーを握っているのですが、それは政治や行政の上流に鎮座して影の権力者となっている秘密結社「サイクロプス」と、不平不満を抱える白人貧困層の集まりである「第7機兵隊」とに分かれます。

サイクロプスが決して表に出てくることはなく、代わりに第7機兵隊を実働部隊として操っているという関係性となっているのですが、そのことによって何かあっても「教養のない南部の貧乏白人が日頃の鬱憤を晴らそうと暴れているだけ」というカモフラージュが出来上がっています。本当の癌は権力の中枢で国を操っているサイクロプスだというのに。

ここで面白いのが、第7機兵隊というのは妙に行動力はあるが頭の悪い人達で、サイクロプスにうまいこと使われているという意識がないことです。

こういう構図って思想の左右を問わず現実世界でも結構あるよなぁと。草の根的な国民運動のように見えて、実はその背後には政治的背景を持った先導者が潜んでいるということはザラですからね。具体的にどの運動がと言うと角が立ちそうなので、この話はもう終わりにしておきますが。

そんなわけでサイクロプスの陰謀があって、そのサイクロプスを追っているウィル・リーブスがいて、サイクロプスとウィルの両方と繋がっているレディ・トリューがいてという複雑な構図があって、そこに隠居状態だった元ウォッチメンのDr.マンハッタンとオジマンディアスが絡んできて、最終話は大乱戦状態に。

これだけ複雑な内容ながらストーリーテリングは実にスムーズに進んでいき、『LOST』(2004-2010年)のショーランナーを務めたデイモン・リンデロフの発想力と構成力には非凡なものを感じました。

ところで、「ウォッチメン」の生存メンバーで本作に唯一登場しなかったナイトオウルⅡは、その後どうなったんでしょうか。

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