光をくれた人_胸を締め付けるリアルかぐや姫【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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(2016年 アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド)
「あなたならどうしますか?」と問われるような映画であり、特異なシチュエーションながら誰もがわが身に置いて考えられるような普遍性を兼ね備えています。心理描写が細やかなので話の先が見えそうで見えず、最後まで緊張感が維持された優秀なドラマでした。

あらすじ

1920年代。元軍人のトム・シェアボーン(マイケル・ファスベンダー)は第一次世界大戦で心を病んだことから静かな職場を求めており、ヤヌス島という無人島の灯台守に志願する。赴任後にはヤヌス島にもっとも近い港町でイサベル(アリシア・ヴィキャンデル)という女性と知り合って結婚し、ヤヌス島で二人だけの静かな生活を送るが、二人は流産に悩まされるのだった。

二度目の流産の直後、ヤヌス島に手漕ぎボートが漂流してきた。中には死亡した男性と女の子の赤ん坊が乗っており、二人はこの赤ん坊をルーシーと名付けて自分達の子として育てることにする。

スタッフ・キャスト

監督・脚色はデレク・シアンフランス

1974年コロラド州出身。1998年に”Brother Tied”という作品で長編監督デビューしたのですが鳴かず飛ばずで、その後はテレビ用のドキュメンタリーや短編映画の監督となり、長編第2弾『ブルーバレンタイン』(2010年)を撮るまでに12年ものインターバルが空いています。

この『ブルーバレンタイン』(2010年)と続く『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』(2012年)の国際的高評価により監督としての地位を確立し、世界42カ国で翻訳された本作の原作小説『海を照らす光』の映画化権を獲得したドリームワークスより監督のオファーを受けました。

これまで自分で書いたオリジナル脚本のみを監督してきたシアンフランスにとって大手スタジオからの雇われ仕事は初で、原作ものを扱うのも初。しかし完成した作品はシアンフランスらしい重層的なドラマに仕上がっています。

マイケル・ファスベンダーとアリシア・ヴィキャンデルが出会った映画

『それでも夜は明ける』(2013年)でアカデミー助演男優賞に、『スティーブ・ジョブズ』(2015年)でアカデミー主演男優賞にノミネートされたマイケル・ファスベンダーと、『リリーのすべて』(2015年)でアカデミー助演女優賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデルという、人気と実力を兼ね備えた俳優の共演作。

本作の制作にあたっては少数のスタッフと俳優がロケ地で集団生活を送ることとなり、当初ファスベンダーは「自分は役柄を演じるのであって、キャラになりきるつもりはないんだけど…」と渋ったようなのですが、この共同生活でヴィキャンデルと結ばれて実際に二人は夫婦になりました。

レイチェル・ワイズ共演

主人公夫婦と子供を巡って対立することになるのは『ナイロビの蜂』(2005年)でアカデミー助演女優賞受賞のレイチェル・ワイズ。

彼女はジェイソン・ボーンシリーズ第4弾『ボーン・レガシー』(2012年)のヒロインであり、またアリシア・ヴィキャンダルはボーンシリーズ第5弾『ジェイソン・ボーン』(2016年)のヒロインなので、本作はジェイソン・ボーンのヒロインの共演作ということにもなります。

感想

リアルかぐや姫

子供のできない夫婦がよその子供を拾って大事に育てる話って、昔話の大定番ですね。日本だと桃太郎、西洋だとモーセがこれに当てはまりますが、本作の場合は女の子なので、かぐや姫が一番近いと思います。

しかし現実社会は昔話ほど単純ではありません。この子を探している母親は当然いるし、夫婦が善意で子供を育てたとしても、やっていることは誘拐、立派な犯罪です。当事者全員に悪意はないんだけど、たった一人しかいない子供を巡って争いが起こってしまうという悲しい物語となっています。

シチュエーション作りが素晴らしすぎる

本作は、ともすると社会に偽ってまで拾った子供を自分の子ということにした妻イサベル(アリシア・ヴィキャンデル)の暴走とも受け取られかねない内容なのですが、シチュエーション作りが抜群に良くできていて、観客も一旦はイサベルの判断を許容し、彼女と共犯関係になるような構図を作り上げています。

2度の流産で苦しんだ直後に赤ちゃんを乗せた手漕ぎボートが漂着してくる。そのタイミングの一致から「これは私に育てろってことなのね」と運命的なものを感じてしまうのも仕方ない状況だし、親子が何も持たずに手漕ぎボートで外洋に出て、父親と思われる男性が死亡しているという異様な光景は、仮にこの子を身内の元に帰してもロクな目に遭わないんじゃないかという予断を生みます。

加えて、「警察に届け出た後に養子として引き取ろう」というトムのもっともな主張に対して、「こんな無人島に住んでいて養子申請が通るはずがない」というイザベルの合理的な反論もあって、ここでトムも観客も考えを固めます。この子のためにもシェアボーン家の娘ってことにしとくしかないと。この辺りの、感情的なようでいて理詰めのシチュエーション作りは見事だったと思います。

黙っていればバレない罪の告白

ルーシーと名付けられた子供との家庭生活は幸せそのもので、やっぱり引き取って良かったじゃんとなるのですが、その後にトムはルーシーの正体を知り、この子が死んだものと思って悲しみに暮れる母親ハナ(レイチェル・ワイズ)の存在を知り、自分達が犯した罪の重さを認識します。

しかし秘密を告白すれば子供を失うどころか、夫婦は刑事罰に問われる。そのことは大勢を傷つけ、もしかしたら当のルーシーにとっても不幸なことなのかもしれない。このままシェアボーン家の一人娘として育て上げることが、親のエゴではなく客観的にもルーシーのためなのかもしれない。加えて、誰も自分達を疑っていないのだから黙っていれば絶対にバレることはないという状況の中で、トムは事態を数年間放置します。

この辺りの「どうすることが正しいのか」を観客に対して問うような構図もよくできています。道理の上で正しいのは子供を返すことだが、ハナは諦めがついている様子だし、ルーシーは今の環境で幸せそうだし、ハナには悪いけどトムが秘密を守って現状維持するのがもっとも大きな幸せをもたらすのではないかという感覚も同時に抱かされます。

ただし田舎なのでトムはハナと会ってしまうわけです。向こうは認識していないけど、こちらはハナに対して物凄く申し訳ないことをしているので、良心の呵責に耐えられなくなってきます。

トムは積極的に罪の告白をするほど腹は決められていないけど、誰かがルーシーを探しに来てくれれば楽になれるんだけどという期待も半ば込めて、匿名の手紙やルーシーの唯一の持ち物をハナに送ります。まぁそのことがハナを一時的に苦しめるのですが、トムはこのまま黙って幸せな人生を謳歌することなんて無理という心境にまで追い込まれるのです。

この辺りの、どの選択肢をとっても誰かが傷つくという構図は切なすぎましたね。

※ここからネタバレします。

最後に描かれるのは夫婦愛

ついに発覚した罪に対して、イサベルはトムを責めます。黙っていればバレない罪をわざわざ告白して、自分とルーシーを不幸にするとはどういうことかと。トムは「起こったことは全部俺のせいってことでいいよ」とイサベルへの可能な限りの誠意を示すのですが、大事な子供を失ったイサベルの心の空白は埋まりません。

それを変えたのは何年も前に他界したハナの夫でした。彼は敵国ドイツ出身であるということで酷い差別を受けていたのですが、それでも前向きに生きていました。辛い目に遭っているのにどうしてそんな生き方でいられるのかと聞かれた夫は、「人を憎むことはずっとそのことを考えなければならないので大変だ。でも一度でも人を赦せば、後はしがらみにとらわれず楽に生きられるでしょ」と仏様のようなことを答えます。

キリスト教圏の話なのでイエス様のようなことですね。実際、その死が意味を持っていることを含めて、この人はイエスのような描かれ方になっています。

はたとその言葉を思い出したハナは、一時は憎み倒すことにしていたトムとイサベルを赦すことにします。娘はイサベルを忘れられないようだから、自分が罪に固執してイサベルから娘を引き離すよりも、協力して育てる方が楽だし子供も喜ぶのではという結論に至るのです。

ハナからの赦しを受けたイサベルはイサベルで、憎み倒すと決めたトムを赦すことにします。確かにショッキングな事件で夫を恨んではいたが、本質的には好きな相手ではないかということをこの赦しがきっかけで思い出します。

本作は苦難を乗り切って愛情を再確認する夫婦の物語として終わります。愛し合っているんだけど、それに気づくまでに余りにも憎しみ合いすぎていて、すでに引き返せないところにまで来ていたという『ブルーバレンタイン』(2010年)とは対照的に、愛さえあれば夫婦関係は修復可能という前向きな結論を出します。

この結論にも胸が熱くなりました。デレク・シアンフランスという監督はやっぱり好きですね。

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