(2018年 アメリカ)
科学や倫理を扱う硬派な作品として始まりながら、後半で意外な転調をすることが楽しい映画でした。世評は振るわないようですが。私は大いに気に入りました。つくづく、映画とは自分の目で見るまで分からないものです。
あらすじ
科学者のウィリアム(キアヌ・リーブス)は死者の記憶と意識を人工知能に移す技術の開発を行っているが、被検体は自分の肉体以外で再生されたという事実を受け入れられず、実験は失敗し続けていた。そんなある日、ウィリアムは交通事故で4人の家族全員を失った。咄嗟に家族の再生を思いついたウィリアムは周囲に家族の死を知られないよう遺体を処分し、ラボの機械を無断で自宅に持ち帰って家族の再生を試みる。
スタッフ・キャスト
製作は『トランスフォーマー』のロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ
1957年NY出身。ハーバード大学卒業後にペンシルベニア大学でMBAを取得してワーナーに入社。
90年代にはスタジオ幹部として働き、まだ有名監督ではなかったウォシャウスキー兄弟の『マトリックス』(1999年)の脚本に可能性を見出して製作に向けた筋道をつけ、またJKローリング著『ハリー・ポッター』の映画化権を購入し、ワーナーの収益に多大な貢献をしました。
その後独立してディボナベンチュラピクチャーズを設立し、キアヌ・リーヴス主演の『コンスタンティン』(2006年)やアンジェリーナ・ジョリー主演の『ソルト』(2010年)などを製作。2007年からは『トランスフォーマー』シリーズを大ヒットさせました。
またマーク・ウォルバーグとの関係が深く、『フォー・ブラザーズ/狼たちの誓い』(2005年)、『ザ・シューター/極大射程』(2007年)、『トランスフォーマー/ロストエイジ』(2014年)、『バーニング・オーシャン』(2016年)などを製作しています。
監督は『トレイター 大国の敵』のジェフリー・ナックマノフ
1967年ヴァージニア州出身。1993年頃から短編映画の監督をしていたのですがなかなか芽が出ず、ローランド・エメリッヒ監督の災害パニック『デイ・アフター・トゥモロー』(2004年)に脚本家として参加した辺りから注目されるようになりました。
その後、監督と脚本を務めたサスペンスドラマ『トレイター 大国の敵』(2008年)が地味ながらも佳作と評価され、ジェリー・ブラッカイマー製作の『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』(2010年)の初期脚本を執筆したり、大人気テレビドラマ『HOMELAND』(2011-2020年)の数エピソードを監督したりと、活躍の場を着実に広げていきました。
主演はキアヌ・リーブス
1964年レバノン出身。実父と離婚後の母の再婚に合わせて世界中を転々とした後にカナダに落ち着き、キアヌ本人はカナダ人であるとの認識を持っているようです。
4校で放校処分を受けるという荒れた高校時代を送り、結局卒業は出来なかったようなのですが、代わりに映画界で居場所を見つけました。
怪優デニス・ホッパーと共演した青春ドラマ『リバース・エッジ』(1986年)において圧倒的な存在感を示したキアヌを使いたいという監督が続出し、キャリア初期にはガス・ヴァン・サント、キャスリン・ビグロー、フランシス・フォード・コッポラ、ベルナルド・ベルトリッチら名監督達との仕事が相次ぎました。
デニス・ホッパーと再共演を果たしたアクション映画『スピード』(1994年)で一般的な知名度と人気を獲得し、『マトリックス』シリーズ(1999-2003年)が大ヒット。
近年は『ジョン・ウィック』シリーズ(2014年-)が大ヒットし、また『マトリックス』第4弾も製作中です。
作品解説
ニコラス・ケイジに断られた企画だった
本作の原案を書いたのは、SFドラマ『パッセンジャー』(2017年)のスティーヴン・ハメルであり、彼が最初に企画を持ち込んだ先はニコラス・ケイジでした。
しかし断られたことから、『フェイク・クライム』(2010年)、『ジョン・ウィック』(2014年)などハメルとの仕事が多かったキアヌ・リーヴスが製作と主演を務めることとなりました。
また監督には『ヒステリア』(2011年)の女性監督ターニャ・ウェクスラーが内定していたのですが降板し、『トレイター 大国の敵』(2008年)のジェフリー・ナックマノフが後任となりました。
『エンド・オブ・キングダム』(2016年)のチャド・セント・ジョンによる脚色を経て、2016年に撮影が行われました。
興行的には惨敗
理由は分からないのですが数年間お蔵入りした後、2018年11月にフィンランドのヘルシンキで行われた映画祭ナイトヴィジョンズで初上映されました。
そして2019年1月11日に全米公開されましたが、初登場13位と低迷。公開初週の売上高237万ドルはキアヌ・リーブス主演作としては最低記録でした。その後も伸び悩んで全米トータルグロスは404万ドル。
国際マーケットでも同じく不調であり、全世界トータルグロスは933万ドルで3000万ドルの製作費すら回収できませんでした。
登場人物
フォスター家
- ウィリアム(キアヌ・リーブス):神経学者で、死者の脳から取り出した記憶や意識を人工知能に植え付ける研究を行っている。その技術と、別のエンジニアが持っているクローン技術を用いて、交通事故死した家族の再生を秘密裏に試みる。
- モナ(アリス・イヴ):ウィリアムの妻。医師。
- ソフィ(エミリー・アリン・リンド):ウィリアムの長女。高校生。
- マット(エムジェイ・アンソニー):ウィリアムの長男。小学生。
- ゾーイ(アリア・リーブ):ウィリアムの次女。未就学児。
その他
- エド(トーマス・ミドルディッチ):ウィリアムの同僚で、クローン技術を研究している。
- ジョーンズ(ジョン・オーティス):ウィリアムの上司で、研究成果が出なければラボは閉鎖だとウィリアムに発破をかけている。
感想
前半は緊張感あふれるSFサスペンス
交通事故で一斉に亡くなった家族を、唯一生き残った父親がクローン再生しようとする物語。
ちょっとややこしいのが二つのテクノロジーが並走していることであり、肉体を再生するクローン技術と、死者の記憶や意識を別の媒体にトランスポートする技術が登場します。うちクローン技術はすでに完成されており、故人と同じ肉体の再生は可能。
ただし記憶と意識のトランスポート技術は不完全であり、クローン再生が完了するまでの14日間で主人公ウィリアム(キアヌ・リーブス)がこれを完成させられるかというタイムリミットサスペンスの要素が付加されています。これにはなかなかハラハラさせられました。
加えて、これらの技術を人間に対して適用することには法的にも倫理的にも大きな問題があることから、ウィリアムは秘密裏に遂行しなければならないという重圧も受けます。
ただし4人もの人間がこの世から姿を消したことを隠蔽するのはなかなか難しいもので、職場や学校からは「おたくの家族はどこに行ったのか」と電話やメールで聞かれるし、SNS上でも友人達が異変に気付き始めます。
不信に思った人達に様子を見に来られれば全部ぶち壊しということで、娘や息子のフリをしてSNSの返信を行うウィリアム父さん。この切り口はなかなか面白いなと思いました。
そして作品全体の根底に横たわるのは、禁忌に手を出したことの薄気味の悪さです。『バタリアン・リターンズ』(1993年)と言い『トランセンデンス』(2014年)と言い、愛するものを蘇らせようとするとロクなことにはなりません。
人間にはどうにもならない運命というものが決まっており、それに逆行しようとするとしっぺ返しを食らう。それがSF映画史における教訓であり、亡くなったところでひとしきり悲しんでおく方がまだマシだったと思うほどの恐ろしいことがこの後に起こるのではないか。そんな不安が観客に居心地の悪さを与え続けます。
しかも準備できた機材が3人分だったことから、亡くなった4人のうち一人は諦めなければならないという苦境に立たされ、ウィリアムは泣く泣く次女を諦めます。ここで一番幼い子を選んでしまったことや、再生に成功した後の家族が次女の不在に気付かないよう彼女に係る記憶を消去したことなど、ウィリアムにモラルの一線を越えさせた辺りもよく考えられています。
この後、地獄が待っているとしか思えない展開の連続で、前半部分ではイヤ~な汗をかかされました。
後半の壮絶な転調 ※ネタバレあり
そんなこんなで家族の再生の時が訪れるのですが、なんとこれが成功します。
前半でSFサスペンスの定番の流れを作っておきながら、後半で豪快に裏切るという転調には大いに驚きました。そうして物語が覆ったことで先の読めない話となり、映画に対する関心度合はさらに高まりました。
そこに現れるのがウィリアムの上司のジョーンズ(ジョン・オーティス)。先ほど家族の不在を隠し通すことは困難と述べましたが、実は隠しきれておらず、ジョーンズはウィリアムを泳がせていたのでした。家族の再生が関わる一発勝負の実験であれば、ウィリアムは馬鹿力を発揮してイノベーションを起こすのではないかと。
その期待通りにウィリアムは実験を成功させるのですが、ジョーンズは再生された家族を奪おうとします。一方ウィリアムにはやましいことがありすぎて警察などに助けを求めることもできず、逃げるしか手立てがない。ウィリアム一家とジョーンズの追いかけっこが後半の主題となります。物凄い転調です。
追い込まれたウィリアムは、自分の意識をコピペしたウィリアムロボを作って応戦。もう滅茶苦茶なのですが、この崩し方が私にはとても心地よく感じられました。ここまでやってくれれば天晴れ。理詰めの映画もそれはそれで面白いのですが、たまにはこういうのも良くないですか?
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