(2022年 日本)
日本映画界が本気出して作ったウルトラマンは、素晴らしいビジュアルと遊び心に彩られた大人のエンターテイメントだった。『シン・ゴジラ』のような堅苦しさもなく、全編に渡って明るい雰囲気が楽しいのだが、2時間を貫くテーマもきちんと打ち出せており、構成が実によく出来ていた。
感想
ウルトラマンに馴染みがなくても楽しめた
私は1980年代前半生まれなのだが、この世代は幼少期にウルトラマンを経験していない。
1966年に始まった『ウルトラマン』シリーズは数年程度のブランクを何度か挟みつつも60年代後半から70年代にかけて制作され続けたが、1980年の『ウルトラマン80』の視聴率面での苦戦と、それに端を発するTBSと円谷プロの対立によって、長い休止期間に入った。
『ウルトラマンティガ』(1996年)が製作されるまでの16年間に渡ってテレビシリーズのリリースが止まっており、この時期に幼少期を送った世代はウルトラマンに馴染んでいない。
これだけの人気キャラクターなのでソフビや絵本などは買ってもらっていたが、肝心の本編を幼少期に見た覚えがないのである。
DVD時代に入って容易にソフトで閲覧できるようになってからも、『ウルトラマン』で見たことのあるエピソードはバルタン星人とかレッドキングなどの人気怪獣のエピソードのみだ。
そんな背景を持つ私でも、本作は十分に楽しめた。
巨大ヒーローvs怪獣という男子の大好物に適度なSF要素やミリタリー要素が加わった充実ぶりで、最後まで飽きる暇がない。
小ネタはほとんどわからなかったが、それはさして問題にならない。知っていれば楽しいが、知らなくても置いていかれることはないという親切設計となっているのである。
そして、相変わらず凄かったのが庵野秀明氏の構成力であり、物語は大きく5エピソードから構成されているのだが、それらをシームレスに繋いで2時間の長編に仕立て上げている。うまく話を展開していくなぁと感心した。
怪獣が自然災害のように存在する世界
意外だったのは、世界観や設定などをいじくり倒していないことである。
庵野秀明氏のことなので、たっぷりの時間と小理屈を使って怪獣とかウルトラマンを定義するのかと思いきや、怪獣が当たり前に存在する世界をものの1分で作り上げてしまう。
ウルトラマンの物語に入る前段階で『ウルトラQ』に相当する時代があったということが、ダイジェストによって語られる。それによって怪獣の存在に驚愕する日本社会という構図がすっ飛ばされ、自然災害のように怪獣に襲われる世界が出現するのだ。
「社会学的なアプローチは『シン・ゴジラ』で見たでしょ」という壮絶な割り切りには本当に驚いたし、ネロンガやウルトラマンがすぐに登場するというタメのなさは気持ちよかった。
またビーム爆破を得意とする庵野秀明の真骨頂で、スペシウム光線がかつて見たことないほどの威力を発揮するという見せ場の出来も素晴らしく、この導入部だけでIMAX料金の元を取れるほど興奮した。
メフィラス星人が最高すぎる
中盤のカギを握るのはメフィラス星人なのだが、そのキャラ造形もすばらしすぎた。
メフィラス星人は宇宙人社会で誰も目を付けてこなかった地球の可能性にいち早く着目し、ウルトラマンより先に地球に降り立って地道に工作活動を行ってきた。
彼の見立てによると地球人は生体兵器としての高い有用性を秘めている。そのうち宇宙でも注目の存在になるであろうことを見込んで、メフィラスは一足先にその開発に乗り出したというわけである。
かといってこいつが極悪宇宙人かというとそういうわけでもなく、後に登場するもう一人の宇宙人の価値観とも近いことから、恐らくは宇宙における標準的な倫理観の持ち主であると思われる。
よってウルトラマンとも紳士的な話し合いを行うのだが、演じる山本耕史の食わせ者ぶりがこれまた最高だった。饒舌なのだが言葉に感情がこもっていない感じがいいし、常に薄ら笑いを浮かべた表情もいい。生身の人間なのに宇宙人にしか見えなくなってくる。
ただし我らがウルトラマンがメフィラス星人の口車に乗るはずもなく、最終的にメフィラスは巨大化してウルトラマンとの戦闘に移るのだが、これもまた怒りに震えてというわけでもなく、この状況ではウルトラマンと一戦交えるしかないという合理的選択の結果という点も良かった。
いざ戦うとウルトラマンを押し返すほどの力を見せつつも、「君を殺すほどの星でもない」と言ってアッサリ手を引く。最後までこいつは食わせ物だった。
ラストバトルはもうひとつ ※ネタバレあり
ラスボスはもちろんゼットン。
地球人は今後の宇宙人社会にとって脅威になると見做されたことから、これを太陽系ごと葬り去るための最終兵器として送り込まれたのがゼットンであり、その目的と言い、規格外の巨体と言い、ラスボスにふさわしい風格を誇っている。
これに対してウルトラマンはテクノロジーの一部を人類に与え、彼らと共闘することで、圧倒的な力を持つゼットンに打ち勝とうとする。
ウルトラマンは地球人のために命を張り、それまでウルトラマンに保護される一方だった地球人は、初めて彼のパートナーとして共同戦線を張る。
まさに胸熱な構図が置かれているのであるが、どうにもこれが盛り上がらない。これが本作の欠点だろう。
最新兵器エヴァンゲリオンと旧来の兵員達ががっぷり組んで第5使途ラミエルに挑んだ「ヤシマ作戦」のような熱が欲しいところなのだが、いまいちテンションが上がっていかない。
ゼットンを打倒するためのテクノロジー開発が随分とお手軽に済んでしまい、人類が総力を挙げて戦っている感じがしない。しかも作戦もよく分からないまま最終決戦が始まり、きわめて短時間で決着がつくので、見せ場としての盛り上がりも逃している。
ここが熱ければ最高だったんだが、監督が燃え尽きてしまったんだろうか。
なお、子供向けではない
そして気になるのが、子供でも見られるのかという点である。
うちの小2の次男がウルトラマンのファンなのでぜひ見に行きたいと言っていたのだが、庵野秀明作品が小学校低学年でも鑑賞可能だとは思わず、やめておけと言った。
実際見てみても、やはりその判断に間違いはなかった。
内容に難解さこそないものの、いつもの漢字テロップは出てくるし、セリフの大半は小難しい用語と厄介な表現ばかり。大人でも1/3くらい何を言ってんだか分からないが、子供にとっては外国語に等しいのではなかろうか。
そして全体の分量と比べてウルトラマンの活躍時間は短めで、テレ東で放送されているような子供の生理に合わせたウルトラマンに馴染んでいると、猛烈な退屈さを感じると思う。
マクドナルドとのタイアップなどで家族向けのエンタメを連想しがちであるが、本作は紛れもなく大人向けのエンターテイメントである。
コメント
どうせならシン・ゴジラの感想も聞きたいです
時間を見つけて書いてみます。