シン・エヴァンゲリオン劇場版_期待を完全に上回った完結編【10点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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キャラもの

(2021年 日本)
155分という長尺ながら一瞬たりとも飽きる暇がなく、その圧倒的な面白さ、作品としての品質の高さには感動を覚えました。その作りはあまりに完璧で作り直しの余地はほとんどなく、期待を越えるエヴァに歓喜すると同時に、「本当に終わってしまうのか」という寂しさも去来しました。

感想

大興奮のパリ市街戦

開幕直後、東宝と東映のロゴが連続して現れたことからして大興奮させられたのですが、続く本編も素晴らしいものでした。

エヴァ新劇場版は冒頭に激しい見せ場を持って来ることが定例化していますが、今回の舞台はなんとパリ。第三新東京市周辺でほとんどの事が起こってきたエヴァにとって、海外の都市を舞台にした初の見せ場となります。

前作『Q』のラストバトルで大破したエヴァ2号機と8号機の修理パーツを得るためヴィレはパリのネルフユーロ支部への潜入を図り、ネルフ側のエヴァが作戦の妨害に現れます。そして仮設パーツで補強されたエヴァ8号機がこれに応戦するというわけです。

この戦闘場面がかっこいいBGMと素晴らしいビジュアルが渾然一体となった驚異的なものであり、その熱量とスピード感には圧倒されました。

そして続々登場するエヴァシリーズの意表を突いたデザインには呆気にとられたのですが、中でも陽電子砲を装備した4444C(フォーフォーシー)と、その給電のための発電機を持ち歩く大量の44B(フォーツービー)のふざけたデザインは最高過ぎました。

どうすればこんなものを思いつくのでしょうか。

シンジの心のリハビリ

舞台は移って第三新東京市。こちらも前作『Q』の続きで、荒野を彷徨っていたアスカ、シンジ、レイがニアサードインパクトの生存者達が暮らす第三村に辿り着きます。

太平洋戦争の終戦直後を思わせる第三村にはとっくに成人したかつてのクラスメイト達がいて、彼らの大人の対応によってエヴァパイロット達が心のリハビリを受けることとなります。

劇場版エヴァを見に来た大半の客は大戦闘場面や驚愕のSF展開を期待しているのであって、人間ドラマなど洒落臭いと感じるであろうところ、このパートでもきちんと観客の心を捉え続けていることが本作の凄さなのかなと思います。

しかもエヴァも使徒も登場しないこのパートこそが新劇場版4部作を通してもっとも重要だったと言えるのだから、その挑戦的な姿勢にも感服させられます。

シンジは史上最大級のうじうじ加減。そもそもシンジはヘタレキャラの代表格みたいな存在で、主人公ながらエヴァの不人気キャラランキングで常に上位にランクインしてきたのですが、今回の彼は普段に輪をかけて酷いものでした。

どれだけ周囲が優しい声をかけてくれても一切反応せず、ただ部屋の隅で寝っ転がってるだけ。しかもそんな状態が一晩限りではなく何日も何日も続くので、アスカでなくてもその姿にはイライラさせられます。

ただ、よくよく考えて見れば彼には同情すべき背景は多分にあるわけです。

『破』で初めて積極的な意思でエヴァに乗り込み、使徒に取り込まれた綾波レイを救うため戦うという行為には成長フラグが立ちまくっており、通常ならば良い結末と周囲からの祝福が待っているであろう流れの中にいました。

しかし『Q』で目覚めた時にはニアサードインパクトで人類を滅ぼしかけた悪魔のような扱いで、知り合いからは一様に冷たい態度を取られ、肝心の綾波レイの救出にも失敗していたことを知らされます。

抱えた負けを取り戻すべく渚カヲルと共にエヴァ13号機に乗ってフォース・インパクトを起こしにいくのですが、異変に気付いて「引き返そう」と言うカヲルを無視して儀式を続行した結果、目の前でカヲルは頭部を吹っ飛ばされ、ヴィレの抵抗によってフォース・インパクトも起こせず終いでした。

物凄い人数の死に関与し、綾波レイを救うこともできず、渚カヲルも死なせてしまった。

シンジが最大級の自己嫌悪に陥り、何かをやろうという気力も起こらず、人目が怖くなるという心境に陥ることは、ごく自然なことだと言えます。

そして、これって総監督・庵野秀明自身の心境の投影なのかなとも思います。

庵野秀明は精神にかなりの負荷をかけてエヴァを製作してきたのですが、旧劇場版(1997年)の評価は惨憺たるものでした。

じゃあみんなが納得できそうなものをと思って2007年から新劇場版に挑んだのですが、テレビシリーズをなぞるという安易な道を封印して臨んだ意欲作『Q』(2012年)がまたまた厳しい評価を受けて、「何をやってるんだ、俺は」という心境に陥ったことは想像に難くありません。

そして、クリエイターたるもの、それでも前向きに作品を生み出し続けるしかないんだという庵野氏自身の覚醒が、シンジの覚醒とシンクロしているというわけです。

周囲からの評価に一喜一憂しすぎず、イヤなことがあっても取り乱しすぎないという平常心と、職務を背負い、全うしきるというプロフェッショナリズム。第三村での穏やかな日々でシンジ(=庵野秀明)はその境地に達したのでした。

インパクトの大売り出し

そしてシンジは、フォース・インパクトを起こそうとする父・ゲンドウを止めるためヴンダーに乗り込みます。

そこから始めるネルフvsヴィレの最終決戦はまたしても大迫力で、目を十分に楽しませてくれました。ただし初出の言葉が山ほど出てくるので、台詞の半分以上は何言ってんだか分かりませんが。

フォースインパクトだのアナザーインパクトだのアディショナルインパクトだのとインパクトの決算大売り出し状態。それらが一体何を指しているのか、それぞれどう違うのかはサッパリ分かりませんが、ともかくえらいことが起ころうとしているわけです。

また今回も槍がキーアイテムとなるのですが、インパクトにおいて槍がどのような役割を果たすのかはいまだによく分からないので、「槍が槍が」とキャラたちが大騒ぎする一方で観客は置いてけぼり状態となります。

「アダムスの器」とか「ゴルゴダ・オブジェクト」って一体何だったんでしょうか。

そんなわけで不親切な作りは相変わらずなのですが、それが「何度も見たい」という欲求へと繋がっていくのだから、さすがエヴァ。そして全体に漂う終末的な空気、ド迫力のアクション、声優たちの熱演によって「訳わからんけど凄い!」と思わせる力技も健在であり、最終決戦には「エヴァらしさ」が詰まっていました。

感動的な親子の対話 ※ネタバレあり

続くマイナス宇宙においては悪の道に落ちかけている父ゲンドウと、それを止めようとするシンジという『スターウォーズ』みたいな局面を迎えるのですが、この宇宙においては力では決着が付かないということから親子の対話が始まります。

最初、ゲンドウは子供の言うことだと思ってシンジの発言には耳を貸さず、「お前にはまだ分からないだろうが、いろんな大変なことがあるんだ」という態度を取るのですが、ミサトの死を背負ってここに来ているという息子の姿勢に感銘を受け、そこからちゃんとした対話が始まります。

「大人になったな、シンジ」

感傷的ではないのだがグッとくる台詞の破壊力は凄まじく、危うく涙がこぼれそうになりました。庵野秀明はビジュアルの構築のみならず、こうしたセリフ回しにもセンスを見せるので本当に油断なりません。

そしてリアルの世界ですでに魂の浄化が終わっていたシンジがセラピストとなり、ゲンドウの心の闇を解き明かすという展開には意表を突かれました。

エヴァシリーズはシンジの心の動きを中心とし、内向的で傷つきやすい彼の精神がどう救われるのかというテーマを追いかけ続けてきたのですが、ここにきて本作はその構図をひっくり返し、解脱したお釈迦様のようになったシンジが周辺の人々の悩みを聞き、道を示す役割を担います。

ここで中盤の長い長い第三村のくだりが生きてくるというわけです。何という凄い構成なんだ!

エヴァの物語は「日常への回帰」しか結論がないわけで、その分かりきったゴールに向かうプロセスをどう捻るのかにこそ完結編の醍醐味はあったのですが、完全に予想を超える展開にただただ私は驚愕しました。

そして、エヴァ史上もっとも分かりやすい言葉で各自の内面が語られ、「世界など変えなくても、対話することによって人は救われる」というシンプルな結論が導き出されます。

旧劇場版を「気持ち悪い」という一言で終わらせた庵野秀明が、ここまで素直で前向きな結論を出せるようになったのかと、その変化にも驚かされました。

終わることの寂しさ。でも希望はある

人類の補完が中止され、再生された世界。

庵野監督の出身地である宇部新川駅のホームのベンチにシンジは座っており、向かいのプラットフォームにはレイ、アスカ、カヲルがいます。

エヴァシリーズにおいて鉄道は人生の暗喩としてしばしば登場し、プラットフォームの違いからシンジは彼らとは別の人生を歩むことを示しているのですが、これもまた普遍的な出会いと別れを示しているようで感動的でした。

そして合流したマリと共に駅を出ていくシンジ。駅を出るという行為によってシンジの物語がエヴァンゲリオンから完全に離れたことを示しており、その前向きな終わり方に感動しつつも、もう続きはないんだなという寂しい思いもこみ上げてきました。

ここまで完璧だと作り直しの余地もないだろうし、本当にこれが最後なんでしょうね。

ただし、ユイとゲンドウの物語、『破』の予告編にあったシンジ不在期、ニアサーを生き延びたトウジとケンスケの物語など、この世界線上において語るべき物語はまだまだ残されています。

『スターウォーズ』のようにスピンオフが製作されるという希望に、今はすがっています。

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