スリーパーズ_穴だらけのクライムサスペンス【3点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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実録もの
実録もの

(1996年 アメリカ)
描かれることすべてが嘘臭くて、とても見られたものではありませんでした。事実に基づくとはされているのですが、NY法曹界からの反論もあり、一部に事実を含んだ創作として見るべき映画のようです。

作品概要

あらすじ

NYヘルズキッチンで生まれ育った少年達のいたずらが、死亡者を出す大事故を引き起こした。少年院に入れられた少年達を待っていたのは看守による虐待で、彼らは心に深い傷を負った。成人後、マフィアに入ったかつての少年は、自分を虐待した元看守を発見し、射殺する。

実話か創作か

本作には原作があり、それは著者のロレンツォ・カルカテラが実際に少年院で体験した仕打ちと復讐を綴った小説としてベストセラーになり、本の売り上げの勢いで映画化されたという経緯があります。後述する通り本作には通常考えられない展開が多いのですが、公開当時は実話だと広く信じられていたからこそ観客を丸め込めていた部分が相当ありました。

ただし、エンドクレジットにも記載されている通りアメリカの役所がこの内容を否定している上に、法廷で弁護士がマフィアに操られて動き、法曹関係者に誘導された偽証によって殺人が無罪になったという顛末を看過できなかったNY弁護士会が調査に乗り出した結果、カルカテラの主張は虚偽を含んだ誇大PRだったということが現在の認識となっています。

監督・脚本はバリー・レヴィンソン

一般にバリー・レヴィンソンは名監督として認識されていますが、私の中では実力以上の評価を受けている監督の一人です。確かに『レインマン』は名作でしたよ。でも、本作前後のレヴィンソンがどんな仕事をしていたかというと、94年『ディスクロージャー』、97年『ウワサの真相』、98年『スフィア』と、話題性こそ抜群であるものの気の抜けたコーラのような映画ばかりで、2000年代以降になると何を撮っているのかすら定かではない状況となっています。

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とはいえ、レヴィンソンへの過大評価はキャスティング面で吉と出ており、ロバート・デ・ニーロとダスティン・ホフマンという重量級の演技派を共演させた上で、ブラッド・ピット、ブラッド・レンフロ、ビリー・クラダップら当時注目されていた若手俳優と組み合わせ、その間を信頼できる中堅・ケヴィン・ベーコンに繋がせるという鉄壁の布陣は、レヴィンソンの名前があったからこそだと思います。

ただし、これだけの豪華キャストから最良の演技を引き出せていたかと言うと微妙なところで、我々観客が見たかったのはデ・ニーロ、ホフマン、ブラピが激しくやり合う光景だったのに、別撮りでもしたのかと思うほどキャスト間での化学反応が起こっていません。これにはガッカリでした。

感想

華のない2人について

果たして観客の見たいパフォーマンスがあったかどうかはともかく、豪華は豪華だったこのキャストの中で、「なぜそこにあなたが?」というキャストが2名いました。

一人目はジェイソン・パトリック。翌年の『スピード2』でも「なぜお前がキアヌの代わり?」と世界中からつっこまれた地味顔のパトリックが、豪華キャストがひしめく本作のまさかの主役。この映画の顔になれるような面ではなく、他を圧倒するような演技力があるわけでもなく、彼が何のために存在しているのかが本当に分かりませんでした。

二人目はミニー・ドライヴァー。かつてはマイケルと付き合い、今はジョンと付き合っており、シェイクスも陰ながら彼女を想っていたという4人組の少年時代からのマドンナが、なぜあなた?ブラッド・レンフロ、ブラッド・ピットが演じた超絶イケメンのマイケルを翻弄したほどの女にはまったく見えませんでした。なお、ミニー・ドライヴァーは98年の『フラッド』でも街一番の美人役をやっていたのですが、彼女を美人として捉えていなかった私は、美人であることを前提とした劇中の会話を一瞬理解できませんでした。

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この二人の不自然なぶっこまれ方にはちょっと前のG力彩芽さん的な大人の事情を感じて、鑑賞がやや阻害されました。

おかしな点満載

実話を謳ったベストセラーだったからこそ脚色を担当したレヴィンソンも手を入れづらかった点もあったのでしょうが、本作には通常では考えられない展開が非常に多くて、クライムサスペンスとしてはほぼ崩壊しています。

無法地帯と化した少年院

本作の少年院はまさに地獄なのですが、同じシフトの看守4名全員がショタコン強姦魔であるという天文学的な確率での人事や、良心的な看守や教師もいたものの、強姦被害に遭った少年がフロア中に響き渡るほどの悲鳴をあげても誰も気付かないという過疎にも程がある人員配置。

そして、少年たちと看守のアメフト交流試合で負かされた看守が逆ギレし、主人公いわく「殴る場所がなくなるまで殴られて」1名の少年が死亡しても、肺炎という虚偽報告で片付いてしまうというザル状態の管理。行政施設で人ひとり死ねばまともな調査が行われるはずだし、遺族に引き渡された遺体の状態を見れば何があったのか一目瞭然だと思うんですけどね。

人間的な反応をしないジョンとトミー

ジョンとトミーは殺しの経験豊富なヤクザなのに、ノークスを店外に連れ出すこともせずに他の客やバーテンの目の前で射殺。プロのくせに随分といい加減な殺し方をするもので、もしやムショ行き上等のつもりでやってんのかなと思いきや、裁判では助かる気まんまんだったりするので二人が何を考えてるんだかサッパリでした。

また、計画を知らされていない彼らが、自分達を刑務所に放り込む検察側として登場したマイケルに対して何の反応も見せなかったり、ノークスと自分達の過去について一切言及しなかったりと、当事者ならば当然とるであろう反応を一切見せない、作劇上、ただそこに配置されているだけの駒状態という点にはかなりの違和感がありました。

犯罪記録が抹消されるアメリカ社会

少年院を出所後のマイケルは努力したのでしょう、今や立派な法曹界の人間になっているのですが、前科者の彼がNY検事局に就職するなんてことがありえるのでしょうか。検事局の実際の採用過程がどうなのか具体的には知らないのですが、常識的に考えてマフィア関係者や外国勢力の入局を避けるよう人物評価は厳格になされると思うのですが。

あわせて、ノークスとジョン・トミーの関連性、またマイケルと彼らの関連性が捜査過程でも裁判過程でも浮上せず、これに対してマイケルは「記録の保存期間は7年だから、それ以前の記録は消される」と説明するのですが、将来の犯罪者予備軍ともいえる少年院収監者の記録が7年後には抹消されて、後に重大犯罪の容疑者となってもどこの少年院に入っていたのかすら追跡できなくなるということがあるのでしょうか。もし本当にこんな情報管理をしているのだとしたら、アメリカ社会は前科者にやさしすぎるでしょ。

茶番以下の法廷劇

ジョン・トミーと親友で、かつて彼らと一緒に傷害事件を起こして少年院に入っていたマイケルが担当検事をやれる時点でおかしいのですが、この法廷は他にもおかしなことだらけ。

ノークスと一緒に少年たちを強姦したファーガソンを出廷させると、殺人事件とは何の関係もない二人のショタ傾向についての質問が延々となされ、判事はこれを止めもしません。さらに、かつては夜な夜な不良少年たちを強姦し、リゾを死なせてものうのうとしていられたほどの強心臓の持ち主だったファーガソンが、この質問の場では簡単に折れて自白を始めます。自分の社会的地位がかかっているような場面で、こんなに簡単に落ちる奴なんていますかね。

また、目撃者がばっちりいる営業中の店内での殺人事件というジョン・トミーには言い逃れのしようのない状況があったにも関わらず、「その夜は一緒にNBA観戦に行った」という神父の証言とチケットの半券だけで目撃証言がすべてひっくり返るというお手軽結審。法廷では目撃証言のみならず物証も精査されると思うのですが、ノークスを殺した銃弾の鑑定などは行われないんでしょうか?だいたい、チケットの半券なんて事後的にいくらでも調達可能であり、その半券が他の証言を覆すほどの強力なアリバイの裏付けになるとは思えないのですが。

まとめ

ベテランが監督し、大スター・実力派俳優が総出演した作品とは思えないほど穴だらけの話で、まったく面白くありませんでした。

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