凶悪_不快度数MAXの傑作【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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(2013年 日本)
雑誌記者の藤井の元に、須藤という元暴力団組長の死刑囚からの面談依頼がくる。須藤によると、立件された事件以外に自分が関わった殺人事件がいくつかあり、それらの首謀者の男は逮捕されず今でも普通の市民生活を送っているから、雑誌を使って告発したいということだった。

8点/10点満点中_ヤクザは怖い。サイコパスはもっと怖い。

『全裸監督』があまりに面白くて感銘を受けたので、同作の出演者3人(山田孝之、リリー・フランキー、ピエール瀧)が過去に共演していた本作を再見しました。こちらもこちらでぶっ飛んでますよ。

全裸監督【8点/10点満点中】面白すぎる!(ネタバレなし・感想・解説)

スタッフ・キャスト

雑誌記者役に山田孝之

1983年鹿児島生まれ。日本テレビのドラマ『サイコメトラーEIJI2』(1999年)で俳優デビューし、『真夏の天使~All I want for this Summer is you』(2002年)でCDデビュー、フジテレビのドラマ『WATER BOYS』(2003年)でドラマ初主演、『電車男』(2005年)で映画初主演と、初期の活動は日本のタレントとして比較的オーソドックスなものでした。

『クローズZERO』(2007年)からワイルドな役を演じるようになり、2010年から開始した『闇金ウシジマくん』での主人公・丑嶋馨がハマり役で、同作は3本のテレビシリーズと4本の映画が製作されるほどの人気となりました。ここから山田孝之は日本映画界の顔的な存在となり、気が付けばあの映画にもこの映画にも出ているという状態になっています。中でもすごかったのが『その夜の侍』(2012年)でのひき逃げ犯役であり、人間としての重要な感情の欠落したサイコパス的人間という、本作のリリー・フランキーに相当する役柄を怪演していました。怖くて不快で見ごたえありましたよ。

ヤクザ役にピエール瀧

1967年静岡県生まれ。1989年に、学生時代からの知り合いだった石野卓球のバンドである電気グルーヴに参加し、『Shangri-La』(1997年)などをヒットさせました。

音楽活動以外にバラエティ番組への出演や俳優、声優をこなすという多才ぶりであり、特に俳優としての評価は高く、2000年代以降は年3本以上というハイペースで作品に出演していました。そんなピエール瀧の俳優としての評価を確定させたのが本作『凶悪』であり、報知映画賞助演男優賞、日本アカデミー賞優秀助演男優賞、毎日映画コンクール男優助演賞、ブルーリボン賞助演男優賞と、国内の数々の映画賞を受賞しました。

2019年3月に、コカインを使用したとして麻薬取締法違反容疑で逮捕。「20代の頃からコカインや大麻を使用していた」との証言もあったとのことで、2019年6月に懲役1年6か月、執行猶予3年の有罪判決を受けました。

サイコパス役にリリー・フランキー

1963年福岡県出身。武蔵野美術大学を5年かけて卒業した後、ライターとして活躍。ピーク時には30もの連載を掛け持ちしていたほどの売れっ子ぶりでした。1991年より音楽活動を開始して、サディスティック・ミカ・バンド、藤田恵美、高見沢俊彦など多くのミュージシャンへの作詞提供をしています。同時にイラストレーターとしても活動し、森高千里の『ロックん・オムレツ』(1994年)のシングルCDのカバーイラストを担当しました。絵本作品『おでんくん』(2001年)はアニメ化もされています。

初の長編小説『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』(2005年)が200万部を超えるベストセラーとなり、テレビドラマ化、映画化、舞台化がなされました。

石井輝男監督の『盲獣vs一寸法師』(2001年)で俳優デビュー。『ぐるりのこと。』(2008年)でブルーリボン新人賞を受賞しています。是枝裕和監督作品の常連であり、『そして父になる』(2013年)以降のほとんどの作品に出演しています。

監督・脚本は白石和彌

1974年北海道出身。札幌市の映像技術系専門学校を卒業するも地元では仕事が見つからずに上京。1995年に映像塾の3期生となり、以降は若松孝二監督に師事しました。

新人作家発掘を目的とした『KOINOBORI PICTURES』レーベルの第1回作品として制作された『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(2010年)で長編監督デビュー。劇場作品2作目の本作が国内で多数の映画賞を受賞する高評価となり、以降は2016年から2019年にかけては9本の新作がリリースされるという驚異的なペースで映画を作っています。

『仁義なき戦い』や日活ロマンポルノに影響を受けたというだけあってアウトローを描いた作品を得意としており、本作でもその持ち味が遺憾なく発揮されています。

上申書殺人事件とは

本作の原作は『凶悪 -ある死刑囚の告発-』(新潮45編集部編、新潮文庫刊))2009年)であり、これは1999年に茨城県で起きた「上申書殺人事件」をテーマにしたノンフィクション小説でした。

上申書殺人事件とは、別件で死刑判決を受けていた元暴力団組長後藤良次が、自分が関与した複数事件を上申書にて告白した上で、元不動産ブローカー三上静男を当該事件の首謀者として告発したものでした。

  • 石岡市焼却事件:1999年11月に三上が金銭トラブルを巡ってネクタイで男性の首を絞めて殺害し、死体を石岡市の焼却炉で焼いた事件。
  • 北茨城市生き埋め事件:1999年11月に、三上が身寄りのない70代の資産家男性を拉致した後、生き埋めにして殺害。男性の持つ土地を三上名義に変更してから売却し、7000万円の利益を得た。
  • 日立市ウォッカ事件:2000年7月から8月にかけて、借金を抱えていた60代のインテリアショップ経営者に多額の保険金をかけた上で軟禁状態におき、糖尿病と肝硬変を患っていた被害者に大量の酒を飲ませ続けた後、病死に見せかけて殺害。遺族には1億円の保険金が払われたが、大半は三上の手に渡った。

上申書で告発されたのは上記3件であり、うち焼却事件は遺体が焼かれて残っておらず、生き埋め事件は死体が見つからなかったことから立件できず、ウォッカ事件のみが刑事裁判となり、三上には無期懲役、後藤には懲役20年が言い渡されました。

登場人物

藤井家

  • 藤井修一(山田孝之):雑誌『明潮24』の記者。死刑囚・須藤からの手紙を受けて上申書殺人事件の取材を開始し、家庭が荒れても、上司から止められても引き下がらないほど没頭した。
  • 藤井洋子(池脇千鶴):修一の妻で、認知症を患っている義理の母・和子の世話を一人で引き受け、疲れ果てている。
  • 藤井和子(吉村実子):修一の実母で、認知症を患っている。

犯罪者

  • 木村孝雄(リリー・フランキー):不動産ブローカーで、須藤らからは「先生」と呼ばれている。腕っぷしの強いタイプではないが、須藤ら暴力団を使って数々の殺人を働き、利益を得ている。人の死をまったく気にかけないサイコパスタイプの犯罪者。
  • 須藤純次(ピエール瀧):元暴力団組長で、自分に不義理を働いた人物らを殺害した宇都宮監禁殺人事件で死刑判決を受けており、上告中だった。殺人とは処理されなかった3件を藤井の前で自白した上で、不動産ブローカー木村を首謀者として告発した。乱暴者ではあるが、殺人の後には線香をあげるなど最低限度の倫理観は持っている様子。
  • 五十嵐邦之(小林且弥):須藤の舎弟であり、「須藤さんのためなら死ねる」と言うほど慕っている。

感想

2種類の犯罪者が織りなす狂気の沙汰

サイコパスタイプの犯罪者と、アウトロータイプの犯罪者。通常のサスペンス映画ではどちらか一方のみが登場するものなのですが、本作はこの2タイプを同時に見られるという、とても贅沢なことになっています。

木村は人としての感性を持っていないタイプ。人を殺すことに何のためらいもなく、殺害後にも一切の良心の呵責を抱かず、丁寧な言葉遣いとのギャップが観客を不安に陥れます。人間って最後は情だと思うのですが、その情が一切通じなさそうな相手を見ると本当に怖くなります。演じるリリー・フランキーのハマり具合も素晴らしく、世の中のすべてのものを軽蔑しているかのような仕草や素振りは完璧でした。

須藤は暴力の世界の住人。ヤクザ者ならではのタチの悪さ全開で、もし自分が街でこういう人を見かけたら、早歩きでその場から脱出するだろうなという怖さがありました。激昂した瞬間の怒鳴り方の迫力、他人に暴力を振るう際の躊躇の無さ。『レザボア・ドッグス』(1992年)のマイケル・マドセンにも通じるような迫力があって、この味を出せたピエール瀧の芸達者ぶりには舌を巻きました。直近で見た『全裸監督』(2019年)では気の良いおじさん役だったんですよ。

そして、木村と須藤が起こす化学反応の凄いこと。例えば保険金殺人でいよいよ被害者を殺す場面。ヤクザ者である子分達ですらドン引きするほどの凄惨ないたぶり方をするのですが、木村と須藤はガハガハと大笑いしながら老人に暴力を振るいます。この場面には激しい恐怖心と嫌悪感を抱きました。

ここでの大笑いですが、「いじり」と称して同級生をイジメる中学生の延長のようなものを感じました。他人に酷いことをやっているという自覚はあるので、笑い飛ばすような雰囲気を仲間内で作って良心の呵責を和らげているような。完全なるサイコパスの木村はともかく、時折人間味を覗かせる須藤の内心はそんな感じだったんだろうなと思います。

正義不在のドラマ

と、ここまでなら普通の実録ものなのですが(それでも十分見応えがありますが)、一連の殺人が終わった後にも本作は続きます。それまでは狂言回し的な立ち位置にあった藤井がラスト30分の主人公となり、ジャーナリストや読者の側の欺瞞を体現します。この映画は目の前の観客までを批評の対象にしているのです。そこまでやるのかと驚かされました。

藤井は須藤から聞かされた凄惨な事件に憤り、これを世間に知らしめて首謀者の木村に相応の償いをさせることが正義だというジャーナリスト魂に燃えて行動していたようでしたが、妻の洋子から「この事件、面白かったんでしょ。」と図星を指されます。確かに藤井の記事は社会の役には立ちましたが、当の藤井は正義の具現者でも何でもなく、目の前の家庭の問題に関わりたくなくて、そこに面白い仕事がやってきたから全力で乗っかったという、それだけの人間だったのです。

さらに洋子は続けます。「記事を読んで、私も面白かったもの」。こちらは読者側・視聴者側の魂胆を暴いた一言でした。許せない凶悪事件が起こった時、テレビや新聞はその報道一色になります。これを見た読者・視聴者達は信じ難いほどの異常な事件に興奮し、すでに知っている情報を何度見ても飽きることなく怒り、途中からその事件を娯楽のように消費するようになっていきます。

直近で言うと、高速道路のあおり運転がそうですね。あおられた末に道をふさがれ、仕方なく停車した被害者が殴られるという怖い映像がテレビで繰り返し流され、今でも日本中が怒っています。確かにそうした事件があってはならないし、加害者は厳罰に処されるべきと思うのですが、世間は怒ることの快感、車を運転していてたまに出会ってイヤな思いをさせられるマナーの悪いドライバーに対して内心抱いていた怒りを吐き出す気持ち良さへと移っていっているような気がします。

利用されたジャーナリズム

加えて、藤井の記事がもたらした負の成果にまで踏み込んでいきます。

記事により社会と警察を動かし、裁判で証言台にも立った藤井は、今や事件の当事者の一人です。彼は正義を為したつもりでいたのですが、その目の前に現れたのは罪の意識から解放された須藤でした。須藤は紛れもなく殺人犯であり、木村を逮捕させたところでその罪が軽くなるわけでもないにも関わらず、須藤はスッキリした顔をしています。藤井に事件を話したことが須藤の心を軽くしたようで、以降はキリスト教に入信し、詩を書くようになり、生きる実感を得るようになったとまで言います。

良心の呵責に悩む死刑囚の最後の訴えに乗ったつもりでいた藤井は罪の意識から解放された須藤の姿に憤り、「あなたは生きてちゃいけない人だ」と叫ぶのですが、須藤は涼しい顔をして「神様は生きて償えと言ってるよ」と答えます。藤井の行動は告発者たる死刑囚をある面で正義の側に置き、勘違いさせ、付け上がらせてしまったのです。これは完全な誤算でした。

実際の事件での後藤は、三上への復讐ではなく己の生への執着から告発に踏み切ったと言われています。後藤はすでに宇都宮監禁殺人事件で死刑判決を受けていましたが、別件で係争中なら死刑の執行がなされないという制度の穴を突いたのではないかと。そして、対象が3件もの殺人事件であり、しかも死体すら出てきていない難しい事件であれば、裁判での引き伸ばし工作を延々と図る余地もありました。後藤はそこにかけ、見事に目的を達したのでした。この点だけに注目すれば、殺人犯にジャーナリズムが利用されたと言えます。

まとめ

とにかく怖い怖い映画で、須藤と木村の起こす事件の数々には並みのホラー映画をも越えるほどの不快感がありました。加えて、観客に対岸の火事と思わせないような仕掛けまでが組み込まれており、瞬発力のある場面と周到な構成が組み合わされた、きわめて完成度の高い映画だと感じました。 あとは主演3人の演技力の凄さですね。本作と『全裸監督』を見ると、この3人さえいればどんな映画でも撮れるんじゃないかというほどの見応えでした。ピエール瀧さんはいろいろありましたが、私は復帰を望みます。

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