エデン~楽園の果て~_ご近所トラブル@無人島【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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実録もの
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(2025年 アメリカ)
ロン・ハワード監督の新作が配信スル―になる時代が来たことには驚いたが、いざ見てみるとめっぽう面白くて二度驚いた。極限状態での人間ドラマ、クセつよキャラ達が繰り広げるサスペンス、そして文明考にもつながる深遠なテーマと、そのいずれをとっても良くできた一級品だった。

感想

アマプラにあがっているのを何気なく見たら、とんでもない豪華キャストなので驚いた。

ジュード・ロウ、アナ・デ・アルマス、ヴァネッサ・カービー、ダニエル・ブリュール、シドニー・スウィニーである。

しかも監督はロン・ハワード。

一昔前なら大規模ロードショーされたであろう作品が、こうして無料配信に直接送り込まれるというあたりに時代を感じた。

どうやら本国では興業的にも批評的にも伸び悩んだので、コストをかけて劇場公開するよりも配信公開にしてしまえという判断になったらしい。

けど、めちゃくちゃ面白かったぞ。

時は1930年代

ドイツ人哲学者のリッター博士(ジュード・ロウ)は、己の理論を完成させるべく恋人のドーラ・シュトラウヒ(ヴァネッサ・カービー)と二人でガラパゴスの無人島 フロレアナ島へ移住した。

がしかし、どうやら人類はポツンと一軒家に興味のある生き物のようで、博士の活動は世界で広く報道され、2組のフォロワーを生むこととなる。

一組はドイツ人公務員のウィットマー一家。

旦那のハインツ(ダニエル・ブリュール)は真面目な公務員だったが、第一次大戦後の荒れ果てた母国の将来に希望を持てなかったこと、病弱な息子に綺麗な環境を提供したかったこと、そしてやたら年の離れた妻マーグレット(シドニー・スウィーニー)との結婚を周囲からとやかく言われたことなどから、文明から隔絶されたこの島にやってきた。

もう一組は「男爵」を自称するおかしな女エロイーズ(アナ・デ・アルマス)と、彼女の恋人なんだが使用人なんだかよく分からない男2人。

エロイーズは富裕層向けの高級ホテルをこの地に建てると言っているのだが、どこまで本気なのかよく分からない。事業家としてプロジェクト管理をする姿勢は皆無で、毎日男どもをはべらせて遊び暮らしているだけだ。

こうして3グループが同居することとなるのだが、人が集まればトラブルは付き物、しかも三者三様全員が変わり者となれば、その争いも醜く苛烈なものになりますねというのが、ざっくりとしたあらすじ。

この物語は実話らしいのだが、史実を事前に予習しておく必要はない。

というか、最終的に誰が生き残ることになるのかというサスペンスを維持するためには、何の予備知識もなく鑑賞されることをお勧めする。

私自身、何も知らずに見たので凄く楽しめたし、半ば史実を知ってから見ると後半のサプライズが半減すると思う。

先に移住していたリッターとドーラからすると、隣人の存在によって静かな環境が奪われることが我慢ならない。

元来、無人島だったこの地を人が住める状態にしたのは自分達だという自負もあり、他人に上がりこまれることは権利の侵害だとも感じている様子。

とはいえ法的にこの島を所有しているわけでもないので、隣人を排除する根拠もない。

よって隣人たちには徹底した塩対応を繰り返す。

ウィットマーは、最初こそ憧れのリッターとの交流を期待する様子だったが、挨拶に行った際に全裸で対応されるなど(ジュード・ロウのフルチンが見られますよ!奥さん)、明らかに付き合って欲しくないオーラを感じたことから、以降は空気を読んでお付き合いは控えめにする。

真面目なウィットワーは自力での水源確保、農耕、酪農に成功し、リッターから一目置かれるほどの生活基盤を確立するに至る。

一方、ズケズケと踏み込んで島の人間関係を荒らすのがエロイーズ一行

ホテル建設という荒唐無稽な目標を掲げるが、そこに向かって精進している様子はない。

詐欺師タイプのエロイーズと、この女はおかしいと思いつつも、色香にほだされて言いなりになっている男二人、誰も現実を見ていないのだ。

エロイーズは、自分が誘惑すればどんな男も操れると考えているが、リッターもハインツも彼女にはなびかない。

ここで彼女の処世術が崩れたことも、問題を大きくする。

思惑通りに運ばないエロイーズは、男二人に窃盗を働かせ、ギリギリ維持されていた秩序を完全に破壊してしまうのだ。

演じるアナ・デ・アルマスは美貌のみでのし上がってきた嫌な女を見事に表現しているのだが、同時に、こいつはこいつで苦労した末に身に付けた処世術なのだろうという背景も感じさせるので、ただの悪女にはなっていない。この辺りは実にうまい。

そして、これは多様な捉え方のできる物語でもある。

現在ホットな移民問題と絡めて理解することもできるだろう。

先住者は権利を主張するのだが、その地の生活環境を整えたのは二番手。そして三番手は築かれた環境へのタダ乗りを試みる。

整備されればされるほどその社会への参加者は増加し、参加者が増えれば増えるほど多くの諍いが発生するようになる。これは世の真理だ。

作品の3世帯は、やがて殺し合いへと発展する。

最後は暴力に訴えるのもまた人間なのだ。

そして、最後には意外な人物が生き残る。

非力に見えたマーグレットが、最後にこの地の基盤を築くに至るのだ。

彼女が変わったのは中盤での出産場面。あれは壮絶だった。

旦那と息子が狩りに出かけた、まさにそのタイミングで産気づく。

しかも屋外には野犬が集まり、家の中にはエロイーズに指示されて食料品を盗みにやってきた男二人が潜伏している。

まさに四面楚歌どころではない状況で、彼女は出産をやり切った。

お産の苦しみの中で野犬を威嚇する場面は、母の強さを見せる名場面だった。

あれをやりきったマーグレットは、完全にこの地の住人となったのだ。

終盤、捜査官が殺人事件の捜査にやってくる。

生き残ったウィットマー家が疑われているのは明白だったが、マーグレットは一歩も引くことなく自分の主張を通し、屈強な男と対峙した状態で片乳を出して授乳する。

そのあまりの迫力に捜査官たちは退散するしかなくなる。

演じるシドニー・スウィニーは『マダム・ウェブ』(2024年)でスパイダーガールの一人を演じた若手女優だが、非力な幼な妻からぽつんと一軒家を守る肝っ玉母ちゃんまで、実に幅の広い演技で魅了してくれる。

そして驚いたのが最後に提示されるテロップで、事件後、マーグレットはフロレアナ島に小さなホテルを建設して彼女の子孫らが経営。

生涯、島での生活を送ったマーグレットは95歳の大往生だったというのだ。

リッターやエロイーズらクセつよが退場し、彼らが成し遂げようとした夢を実現したのは、騒動の最中でもっとも存在感の薄かったマーグレットだったという史実には震えた。

まさに事実は小説よりも奇なりである。

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