(1973年 日本)
義理人情を重んじる侠客という従来のヤクザ映画のフォーマットを破壊し、卑怯者、臆病者も大勢いるというカオス状態を描き切った名作。腹の探り合いや組織内の秩序維持など一般社会にも通じるテーマが多いので、ヤクザ映画に抵抗がある人ほど楽しめるのではないでしょうか。
感想
本当に仁義がないヤクザ達
主人公 広能昌三(菅原文太)は復員兵で、正義心から暴漢を殺害したことで服役。そこで地元ヤクザ土居組の若頭である若杉寛(梅宮辰夫)と知り合いになり、その脱獄を助けたことから兄弟分となります。
で、出所後の広能は土居組と親しい関係にある新興の山守組に入るということが物語の序盤。
脱獄した梅宮辰夫が警察から追われるでもなく娑婆で普通に生活しているなど、なんといういい加減な時代なんだと思うのですが、いい加減さではヤクザ達も負けてはいません。
親しかったはずの土居組と山守組ですが、市議選に絡んで仲違いをして殺し合う関係となります。ヤクザとは血の盃を交わし、その縁を一生大事にするものだとばかり思っていたのですが、事情が変わればすぐに殺し合いをする変わり身の早い人々だったようです。
そして山守組幹部なのに裏切って土居組に付く者が現れるなど、状況はかなり混迷します。
山守組を裏切った神原(川地民夫)は悪人扱いされて最終的には殺されるのですが、土居組幹部でありながら山守組に肩入れする若杉だって、見ようによっては裏切り者だし。
そんなわけで知り合い同士で敵だ味方だと言って殺し合いをするのですが、最終的には山守組長(金子信雄)が組員を集めて「誰か土居の首をとってきてくれ」と懇願し、これを引き受けた広能が殺しを成功させたことで山守組勝利に終わります。
ただしそこに至る山守組内のやりとりがまた噴飯もので、親分が子分に対して泣いて懇願するわ、やりたくない子分達は目をそらしたり言い訳したりするわで、広能を除く全員が侠客らしからぬ態度をとるわけです。
ヤクザといっても本当に仁義を通せる者などごく少数であり、平気で身内を裏切れる者、大きな喧嘩に怯む臆病者も大勢いるということが明らかにされます。
なお土居組組長殺害後に広能は再度服役するのですが、ここで第二作『広島死闘篇』(1973年)の主人公 山中(北大路欣也)との兄弟関係ができます。
統制が効かなくなった山守組
かくして土居組を打倒した山守組は呉市の覇権を握り、我が世の春を謳歌します。
そんな中で起こったのが内部分裂。若頭である坂井鉄也(松方弘樹)のグループが組内の主流派なのですが、幹部の一人 新開宇市(三上真一郎)のグループが分け前を巡って不満を募らせ、兄貴分である坂井の命令を聞かずヒロポンに手を染めます。
ドラッグビジネスはヤクザにとってはまさに鬼門で、『ゴッドファーザー』(1972年)でもファミリーが分裂する原因の一つとなりました。
簡単に収益を上げられる反面、ヤクザから見てもダーティービジネスなので組の看板が汚れる、地域社会への悪影響が大きすぎるため社会から爪弾きにされるという恐れから、古参幹部はこれを嫌がります。
しかしそんな重要な理念に関することまで、組織内で徹底できないほど統制は乱れていたというわけです。
で、ここで輝いているのが渡瀬恒彦扮する有田。彼は新開の子分なので、坂井はおじさんに当たるのですが、そんな格上に対してもまったく怯みません。というかほぼ喧嘩腰。
昼間っからヒロポンでもやってんじゃないのかというほどのヤバイ目付きをしており、彼の子分達もみんな元気で、身の危険を感じた坂井がその場から退散したほどでした。
残念ながらこの有田というキャラクターは本作限りの登場なのですが、第2作目以降にも出ていれば相当な人気キャラになったのではないかという逸材でした。
あんたぁ最初からワシらが担いどる神輿じゃないの!
改革の必要性を感じた坂井は、山守組長に組の分け前を子分に対して平等に分配するという案を提示するのですが、守銭奴の山守はこれに乗らないばかりか、坂井が新開から取り上げたヒロポンを流して利益を得ていたことも判明。
ついにブチ切れた坂井は、今の今まで我慢していたことをついに口に出します。
あんたぁ最初からワシらが担いどる神輿じゃないの!組がここまでなるのに、誰が血ぃ流しとるんや!神輿が勝手に歩ける言うんなら、歩いてみいや!のう!
山守組のそもそもの起源から、その中心人物は坂井でした。ただし若かった坂井達では地元の長老からの信任を得られそうになかったので、年長者で顔が利く山守を担ぎ出して組を作ったというわけです。
今までそのことに触れてはこなかったのですが、いよいよ怒りがピークに達した坂井は、親に対して言っちゃいけないことを言います。
無能な親分に対する痛烈な一言に、実に胸のすく思いがしました。松方弘樹、カッコ良すぎです。
が、よくよく考えてみればこれはこれで仁義を著しく欠いた発言でもあります。尊敬に値しない人物であるとはいえ、坂井達は山守組長の顔と名前を借りることで組を作ることができたこともまた事実。
現在の繁栄にしても、土居組組長殺害を山守が決定して広能にやらせたからこそ実現したわけで、山守は客観的な功績を残せています。そうしたことをすべて忘れて「あんたは何もしていない」と坂井が主張するのはおかしくないかと。
そしてさらに根本的な問題として、山守と坂井の間には親子の盃があり、坂井は自らの意思で山守の子分になったのに、都合が変わったからと言って親に居なくなってもらっても構わないということは、やはり傲岸不遜な態度とも言えます。
今回の件では山守組長が悪いが、果たして坂井が山守の権威を全否定できる立場にあるのかと言われると疑問符が付きます。それも含めて『仁義なき戦い』なのでしょうね。
≪仁義なき戦いシリーズ≫
仁義なき戦い_内容は一般的な組織論【7点/10点満点中】
仁義なき戦い 広島死闘篇_まさかのラブストーリー【8点/10点満点中】
仁義なき戦い 代理戦争_人を喰わにゃあ、おのれが喰われるんで【8点/10点満点中】
仁義なき戦い 頂上作戦_小林旭がかっこいい【7点/10点満点中】
仁義なき戦い 完結篇_蛇足だけどそこそこ面白い【6点/10点満点中】
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