[2003年フランス]
6点/10点満点中
■アレクサンドル・アジャについて
本作の監督はアレクサンドル・アジャ。1978年生まれであり、本作制作時点では25歳というスピルバーグレベルの早熟なのですが、なんと彼は18歳で短編映画を作ってカンヌ映画祭で上映させるという偉業も成し遂げています。
ちなみに彼の父親も映画監督で、初期作品では父のバックアップを受けており、若い頃から活躍できていたのは環境に恵まれていたおかげもあるのですが、後にハリウッドに渡って世界的なホラー監督の地位を確立したのですから、実力はちゃんと伴っていたと言えます。
■21世紀フレンチホラーの発火点
2007年の『フロンティア』、2008年の『屋敷女』『マーターズ』と21世紀のフレンチホラーは強烈な残酷描写と鬱展開によって熱い注目を集めたのですが、その発火点となったのが2003年に製作された本作でした。
フレンチホラーの特徴は、死体の数こそ控え目であるものの、殺すというよりも人体破壊という言葉がふさわしいほどの残酷描写の数々と、殺人鬼側の深い深い情念を孕んだ動機、そして子供や動物といった通常のホラー映画では助かることの多い存在にまで手をかける容赦のなさが挙げられるのですが、本作はそうした特徴を網羅しており、ジャンルの開祖的作品であると言えます。恐らくは映画史上初の試みであろうお父さんの棚ギロチンに始まり、お母さんの首切りからの手首切断や、チェーンソーで車ごとドライバーを切断したりと、本作のワンパクぶりには目を見張るものがありました。
また、殺人鬼から逃げるヒロインという鬼ごっこ方式ではなく、殺人鬼に存在を悟られていないヒロインが身を隠しながら反撃の機会を伺うというかくれんぼ方式はなかなか新鮮であり、監督の高い演出力もあって緊張感が全編を貫いていました。
※注意!ここからネタバレします。
■筋の通っていないオチ
90年代末から2000年代前半にかけて大流行していた本人オチが本作でも炸裂するのですが、本作の場合はちょっと強引で筋が通らない部分もあることから、蛇足だったと思います。
- 序盤に出てくる生首フェ〇の犠牲者は一体誰だったのか。というか、あの時点で主人公はまだあの土地に居ないのではないか。
- そもそも、犯行に使ったトラックはどこから来たものなのか。
- 殺人鬼がトラックにガソリンを入れている最中にヒロインが店員に助けを求めに行くという場面では、一体どういう動きをしていたのかが分からない。主人公の体は一つしかない中で2つの行為を同時にこなすことは、さすがに不可能ではないか。
- 終盤のカーチェイスでは主人公が2台の車を同時に運転したことになってしまう。
上記のうち1,4は主人公の妄想ということにすれば強引に解釈できるのですが、実際にモノが存在している2と、第三者を巻き込んでいる3では、さすがに説明がつかなくなってしまいます。
本作はオチなしでも十分よくできていたのに、わざわざ観客の評価を下げるオチをくっつける必要はなかったんじゃないのと思います。
■ちょっとだけ弁護
『マーターズ』DVDでのパスカル・ロジェ監督のインタビューによると、ホラー映画が人気ジャンルであるアメリカや日本と違い、フランスでは年に数本しかホラー映画が製作されないので企画実現にまで持っていくことが本当に大変とのことでした。長編映画を過去に一本しか撮ったことのなかった当時若干25歳のアレクサンドル・アジャがこの企画を通すためにはただのスラッシャー映画ではパンチ不足であり、差別化のための何かが必要だったのだろうと思います。そう思って見ると、蛇足でしかないオチも好意的に見ることができるようになりますね。
Haute Tension
監督:アレクサンドル・アジャ
脚本:アレクサンドル・アジャ、グレゴリー・ルヴァスール
製作:アレクサンドル・アルカディ、ロベール・ベンムッサ
出演者:セシル・ドゥ・フランス、マイウェン、フィリップ・ナオン
音楽:フランソワ・ウード
撮影:マクシム・アレクサンドル
編集:バクステール
製作会社:アレクサンドル・フィルム、ヨーロッパ・コープ
配給:ファントム・フィルム(日)
公開:2003年6月18日(仏)、2006年8月26日(日)
上映時間:91分
製作国:フランス
コメント
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ぅわ!!!
この映画観た時の気持ちがよみがえりました!
フレンチホラーにハマっていた時があって
マーターズもいまだにトラウマです…
アメリカ版リメイクは甘すぎ…というか
テイストがまるで違うなーと。
ハイテンションのラストも私は
え?!と、まんまとハマってしまいましたがw
そんな矛盾点が!!面白い!!!
忘れかけてるので
もう一回見てみようと思います♪
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>ダウニーさん
はじめまして。コメントいただき、ありがとうございます。
仰る通り、マーターズのアメリカ版リメイクは緩くなってましたよね。やはりフレンチホラーの異様な雰囲気は移植が難しいものなんでしょうか。