イン・ザ・ベッドルーム_退屈だけど素晴らしいドラマ【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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人間ドラマ
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(2001年 アメリカ)
一人息子を殺された初老夫婦が思い悩むドラマで、トッド・フィールドによる思慮深い構成と、実力派俳優によるハイレベルな演技で高い完成度を誇る作品となっている。ただし冗長で面白くないということが欠点で、もうちょっと観客の生理に配慮して欲しいところだった。

感想

『TAR/ター』のトッド・フィールド監督のデビュー作

最近見た『TAR/ター』(2022年)が、退屈なんだけど素晴らしい考察もあり、なんだかんだで楽しめたので、トッド・フィールド監督が妙に気になり始めて監督デビュー作である本作にまで遡ってみた。

主演のトム・ウィルキンソンが2023年の年末にお亡くなりになったこともトピックだったし。

ソフト化直後にセル版DVDを購入していたんだけど、自分の感性にはまったく合わなかったので、その後特に思い出すこともなく、DVDは20年以上も自宅の棚に眠った状態だった。

それを引っ張り出しての再鑑賞となったが、感想は昔と変わらず。

トッド・フィールド監督のスタイルは、説明を極力排し、その場の状況や些細な仕草から登場人物の心境を観客に洞察させるというもので、ゆえにストーリーテリングは冗長になりがち。

158分もあった『TAR/ター』ほどの長尺ではないにせよ、苦虫噛み潰したような表情のトム・ウィルキンソンをひたすら眺める130分も相当に長かった。

医師のマット(トム・ウィルキンソン)と教師のルース(シシー・スペイセク)の初老夫婦は、田舎町で小さくも幸せな生活を送っていたが、ある日、大学生の一人息子フランクが交際相手の元夫からの逆恨みを受けて射殺される悲劇に見舞われるというのが、ざっくりとしたあらすじ。

トム・ウィルキンソンは王立演劇学校出身という演劇界のエリートで、『フル・モンティ』(1997年)で英アカデミー賞を受賞した名優だし、シシー・スペイセクはアカデミー賞ノミネート6回、授賞1回という、ハリウッドが誇る名女優だ。

そして息子の交際相手役には後のメイおばさんマリサ・トメイが名を連ね、出演者はなかなか豪華。

さらに息子のフランク役は『ターミネーター3』(2003年)でヘタレのジョン・コナーを演じて不評を買ったニック・スタール、交際相手の元夫役はトム・クルーズの従兄弟のウィリアム・メイポーザー、弁護士役に『レイダース失われた聖櫃』(1981年)のカレン・アレンと、知ってる人は知ってるが、知らない人にはなんのこっちゃ分からない面々が脇を固める。

ちなみに本作は、トム・クルーズのプッシュで実現した企画らしい。

まだ監督業を始める前のトッド・フィールドは、『アイズ・ワイド・シャット』(1999年)に出演した際に、ぜひ映画化したい小説があるんだけど、多分権利を取れないよなぁとトム・クルーズに漏らしていた。

一方、やる気・元気の塊のようなトム・クルーズからは「言い訳してんじゃねぇ」と叱責を受け、フィールドは映画化権獲得に向けて本気出したという経緯がある。

ウィリアム・メイポーザーが出演しているのはそうした経緯によるものなんだろう。

意外性と説得力と退屈さ

監督デビュー作の時点で自らのスタイルを作り上げ、俳優達からベストパフォーマンスを引き出し、作品をアカデミー作品賞ノミネートにまで導いたフィールドの手腕には舌を巻く。本作は確実に凄い映画だと言える。

このあらすじならば、一人息子を失った老夫婦が打ちひしがれ、やがて復讐劇になだれ込んでいくという激しいドラマを連想させられるが、物語は徹底的に静を維持し続ける。

唐突に息子を失った直後であるにも関わらず、夫婦は取り乱すことも、事件について語り合うこともなく、妻はぼんやりとテレビを眺め、夫は庭の芝刈りに精を出す。仕事にも早々に復帰、友人との交際も元通りに再開し、周囲から動揺されるレベルの立ち直りを披露する。

もちろん二人は息子の死がどうでもよかったわけではなく、むしろ悲しみが深すぎてどう向き合っていいのかが分からず、双方根っからのインテリなので理性で感情を抑え込もうとしていたのである。

ただし小さな町なので、そこかしこで生前の息子の痕跡に触れてしまうし、保釈された犯人ともばったり顔を合わせてしまう。

やがて感情を抑え込むにも限界が来るのだが、その果てに起こった夫婦喧嘩では「子供の頃に君があんな風に接したから」「あなたが交際相手に鼻の下を伸ばしたから」と、おおよそ射殺事件とは無関係としか思えないことでお互いを罵り合い、気持ちの整理がまったくついていなかったことが分かる。

肉親の死を描いたドラマにおいてはかなり斬新なアプローチと言えるが、「実際、こんな風になってしまうのかも」と思わせる迫真性がある。意外性と説得力という点で、本作には突出したものがある。

「このままでは俺たちは壊れてしまう」と感じたマットは、犯人を殺すことにする。

それで息子が生き返るわけでもないが、あいつがこの世からいなくなってくれれば、一応の気持ちの区切りにはなるかもしれないというわけだ。この辺りの心境もリアルだと感じた。仇討ちとはこういうことなのだろう。

しかし犯人宅に足を踏み入れたマットは、犯人側にも理があったのではないかという可能性に触れる。

階段には子供の絵が貼られ、夫婦の幸せそうな写真もある。ロクデナシの暴力夫と聞かされていたが、それはこちら側の思い込みであって、実は自分の息子こそが平和な家庭を破壊し、殺したいほど憎まれる間男だったんじゃないかという。

トッド・フィールド監督は、後の『リトル・チルドレン』や『TAR/ター』においても善悪が混濁としたドラマを描いたが、本作はとりわけ強烈だ。クライマックス近くで善悪が転換するという展開には舌を巻いた。

ただし、勿体ぶったフィールドの演出だと伝わりづらいのよ。

実はこの展開、一回目の鑑賞では完全に見過ごしていた。当時の私の映画鑑賞眼がなさ過ぎたと言えばその通りなんだけど、それにしても観客に対してインパクトを与えるということを、もっと大事にしてもいいんじゃないだろうか。

また時間の使い方も歪に感じる。夫婦が悩み苦しむ様に全体の3/4の時間をたっぷり使い、残り時間で一気にドラマを畳んでいくので、核心部分を素通りしそうになってしまう。

もうちょっと観客の生理に配慮した構成にしてくれれば驚くような傑作になったかもしれないけど、この出来だと「よく見ると凄い映画」止まりでしょうな。

なんやかんやありつつも、マットは復讐をやり遂げる。

手伝いに来た友人から「なぜ予定の場所に着く前に殺したんだ」と尋ねられ、「こいつが逃げようとしたからだ」と答えるけど、違うよね。

もうあと数分も経てば、自分はこいつを殺せなくなる。そうすると私たち夫婦が苦しみから解放される手段を永遠に失ってしまうという、実に自己中心的な理由で犯人を射殺したのだ。

新たな悩みを抱えて帰宅するマットに対し、ルースは「コーヒー飲む?」と聞いてくる。

善悪にこだわりすぎるとキリがないので、私たちの物語はここらで終わりにしましょうということなのだろうけど、人ひとり手にかけた後にこの発言。しかも発言したのがシシー・スペイセクだったこともあって、このくだりは怖かった。

返す返すも、もっと面白ければと思う映画だった。

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