伝説巨神イデオン_壮大かつ壮絶な大傑作【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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宇宙
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(1980年 日本)
今まで気になってはいたが見たことのなかった『伝説巨神イデオン』をようやっと見たのだが、噂以上の壮大さと壮絶さで、完全にハマってしまった。『機動戦士ガンダム』を越える富野由悠季の最高傑作との声にも納得である。

イデオンに初接触して驚いた

最近、家族でコロナ感染したのだが、本当に病気らしかったのは最初の2日だけだった。

にも拘わらず我が区の設定する隔離期間は10日間もあって暇を持て余したので、今まで気にはなっていたが一度も見たことのなかった『伝説巨神イデオン』を全話鑑賞することにした。

『伝説巨神イデオン』とはアニメ監督 富野由悠季(当時は喜幸)が『機動戦士ガンダム』の次に手掛けた巨大ロボットアニメであり、1980年5月から1981年1月にかけて全39話が放送され、1982年7月には完結編となる劇場版も公開された。

テレビ放映時には視聴率が伸び悩み、最終4話が製作されずに打ち切られるという不遇を受けたものの、その高度な作劇と壮大なテーマからコアなファン層を形成し、80年代における最重要アニメの一つともなっていったらしい。

なんだが、テレビシリーズ全39話+3時間の劇場版ともなるとかなりのボリュームだし、後述する通り鑑賞手段もそう多くはない作品なので気軽にチャレンジもできず、名前は知っているが見たことがないという状態が続いていた。

それを今回ようやっと挑戦し完走したのだが、事前の期待を遥かに上回るドラマ性とメッセージ性には完全に打ちのめされた。

表面上はロボットアニメなのだが、そこで描かれるのは人間性に対する普遍的な考察であり、製作から40年以上の時を経てもなお、色あせている部分がほとんどない。

そして劇場版ではSF作品としての大風呂敷を広げまくるのだが、曖昧に終わらせずちゃんと落とせていることも凄い。

これだけ豪快に振っておきながらよく落とせたものだと感心した。

イデオンのここが素晴らしい!

戦争のメカニズムを端的に表現

未来、ソロ星で異星人文明の遺跡を発掘していた人類は、バッフ・クランという別の異星人と接触。バッフ・クランの戦闘機から放たれた一撃をきっかけに戦闘が始まる。

技術でも物量でも劣る人類の入植地は完膚なきまでに破壊され、生き残りたちは異星人文明の遺物である宇宙船ソロシップと巨大ロボ イデオンに乗り込みバッフ・クランから逃れるというのが、ざっくりとしたあらすじ。

逃げるソロシップと追うバッフ・クランが戦闘を繰り広げるというのが毎回の流れで、弱者が強者の追撃をかわしつつも目的地を目指すという、アドベンチャーとしての王道ストーリーが置かれている。

そんなわけでストーリー自体はありふれているのだが、勧善懲悪という発想を完全に切り捨てている点が本作の特徴となっている。

ソロシップ目線だとバッフ・クランは悪者なのだが、バッフ・クランはバッフ・クランで、イデオンに拘らざるを得ない事情がある。

彼らの母星は十数発の隕石衝突に見舞われており、それらすべてがソロ星付近から放たれていることから、イデの無限エネルギーの解明をすることは安全保障に直結する問題なのである。

しかしソロシップのメンバーたちはイデオンを持って逃げていくものだから、どこまでも追いかけざるを得なくなる。

そもそもバッフ・クランには人類を攻撃する意図などなかったのだが、司令部の忠告を聞かずソロ星に降り立ってしまったカララ嬢(戸田恵子)を守るため、人類側の武器らしきものを排除せざるを得なくなったことが、開戦の発端だった。

その後も、彼らはソロシップとイデオンを引き渡せばクルーの身の安全は保障するという条件を切って場を収めようとするのだが、初戦でソロ星入植地を破壊してしまったものだからソロシップ側から信用されず、和平交渉がまとまらない。

こうして戦況がどんどん泥沼化していくのだが、積極的に戦争したがっている者はいない、当事者たちはどうやって終わらせようかを真剣に考えているのに、それとは逆方向に進んでしまう。

人間の持つ不信感がいかにして災いを生み出すのかという戦争のメカニズムを端的に描いているのが、本作の特色である。

情け容赦のない作風

そして、ソロシップに対してつらく当たるのは敵より味方だったりもする。

ソロシップは当然のことながら身内である人類に助けを求めるのだが、当初は言っていることを信用されない。彼らが異星人に追われていることが分かると、今度は厄介ごとを持ち込む疫病神のような扱いを受け始める。

命からがら地球に到着しても「ここに居てくれるな」と言われて追い出され、しかし利用価値がありそうだと見るや軍隊に編入すると言われ、言うことを気かなさそうだとなるとバッフ・クランに突き出されそうになる。

敵味方双方からここまで酷い目に遭わされる主人公グループというものは前代未聞じゃなかろうか。

『機動戦士ガンダム』だっていろいろ大変だったが、それでもホワイトベースは武勲をあげていく中で連邦軍内で英雄視され、相応の名声は獲得していった。

一方本作のソロシップはというと、どれだけ頑張っても称賛されないどころか、そのことが新たな批判へと繋がっていき、完全なはぐれもの集団になっていくのである。

ここまで一片の救いもなく、情け容赦のないアニメは他に見たことがない。あまりの重さに胃もたれしそうになった。

戦記ものから神話的スケールへの拡大

かくしてソロシップは追い込まれていくのだが、彼らがピンチに陥れば陥るほど力を増すイデオン。

そのうち惑星を真っ二つにするなどあり得ない力を発揮するようになり、「バッフ・クランよりもイデオンの方がヤバイんじゃなかろうか」「我々はイデオンの力をコントロールしきれないのでは」ということになっていく。

ここから作品は戦記ものから「イデとは何か」という壮大なSFへと進化を遂げ、イデが求める「善き心」を我々は持ちうるのかという哲学的なテーマ性を帯び始める。

これらの大きな流れが神話的スケールの物語を形成するのだが、その壮大さには完全に飲まれた。

エヴァに影響を与えまくっている

テレビアニメ終盤と劇場版を見て思ったことは「エヴァと同じ話ですね」ということだった。製作順を考えるとエヴァが豪快に本作の影響を受けたということになるのだが。

人によってはエヴァが本作をパクったと感じるほどの激似具合なので、やはり本作の先見性や影響力にはすさまじいものがある。

富野由悠季氏の代表作と言えば『機動戦士ガンダム』なのだが、その構成要素はシリーズ内で循環し続けており、他人の創作物への影響は意外と大きくない。

そう考えると本作の影響力はガンダムを凌駕しているのではないかと思う。

ここがヘンだよイデオン

前半は誰にも感情移入できない

と、基本的には素晴らしい作品なのだが、アラがないわけではない。

富野作品の特徴として完璧な人格者を登場させないということがあり、それが最も徹底されたのが本作だと思う。

ソロシップクルー達も当初は寄せ集めで、彼らが旅の中で成長し、連帯していくことがドラマの大きな流れだっただけに、まだ全員が未熟である前半部分は見ていてしんどかったりする。

船長は一方的に命令しているだけだし、イデオンのパイロットたちは「そんなに偉そうに言うのなら自分でやったら?」と言って命令を無視したりする。

そして研究者のシェリルに至っては他人を批判するだけのただただ嫌な奴で、見ていてフラストレーションしか感じなかった。

監督が意図してやっていることとはいえ、前半部分で感情移入できるキャラが皆無と言うのはかなりしんどかった。

『機動戦士ガンダム』におけるリュウ・ホセイのような、視聴者からの共感を得られるキャラを一時的に置いてみても良かったのではないかと思う。

イデオンのデザインはもっと頑張れなかったのか

あと、主人公機イデオンのデザインが全然神話的ではないのも辛かった。

顔面はジムそのものであり、一部には「ジム神様」と揶揄されているほど。『機動戦士ガンダム』におけるジムがやられ役だったことを知る人ほど、イデオンが強いという設定には何となく違和感を持ってしまうのである。

また合体前のメカのかっこがよくないことも厳しかった。

特にビークル形態での単なる直方体というデザイン性のなさは如何ともしがたい。ソル・コンバーなんて下半身そのものだったし。

バッフ・クラン軍のメカが無個性

敵対するバッフ・クランのメカは、イデオンに輪をかけて魅力的ではなかった。

手足の細長いエイリアンチックな外観に、ギラン・ドウだのドグ・マックだのという覚えづらい名前。

何度聞いてもメカの見た目と名前を覚えられないし、それぞれのメカのスペック差なども説明されないので、「いよいよバッフ・クランも主力を出してきたか!」みたいな盛り上がり方ができなかった。

メカの扱いは『機動戦士ガンダム』から完全に退化したと言える。

鑑賞手段が限られている

そしてこれは作品自体の問題ではないのだが、鑑賞手段が限られていて容易に見られないことも欠点と言えば欠点だ。

Blu-rayは出ているが、テレビシリーズが定価60,060円、劇場版が定価21,780円。よほどのファンでない限りは手の出ない金額である。

動画配信においても、ネットフリックスやアマゾンプライムの見放題ラインナップには入っていない。

ガンダムシリーズの一部がこれらのサービスにおいて見放題で見られることと比較すると、あまりに間口が狭すぎる。

では私はどうやって見たのかと言うと、バンダイチャンネルに入会してテレビシリーズを見た。

しかしバンダイチャネルにも劇場版は入っていなかったので、こちらはアマゾンプライムの有料レンタルで鑑賞した。値段は330円×2本(接触篇+発動篇)。

コスト的には大したことなかったが、ユーザー側にここまで手間や負担をかけさせる作品というのは如何なものかと思う。

バンダイさんももう少し広く開放して、新たなファンを獲得する努力をすればいいのに。

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公認会計士の理屈っぽい映画レビュー

コメント

  1. 匿名 より:

    ジム神さまいいですね    確かにイデオンが強そうに見えないのは
    ガンダム脳の影響が大きそうです

    • イデオンのデザインはどうしてあんなにいい加減なんでしょうね

      • 匿名 より:

        イデオンのデザインに関しては、元々スポンサーの玩具会社主導で作成されて「これでアニメ作ってね」と制作側へ提出されたもので、それを見た富野監督が「こんな酷いデザインは古代人の遺物でもないと有り得ない」となって(スポンサーへの嫌がらせも込めて)イデオンのストーリーを作ったそうです
        ちなみに分離時のメカのモチーフはバスやタンクローリーといった一般車両で、玩具会社としてはレスキューロボ的な活躍を想定していたとか