悪魔はいつもそこに_スパイダーマンvsバットマン実現【8点/10点満点】(ネタバレあり・感想・解説)

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クライムサスペンス

(2020年 アメリカ)
ズラっと揃った豪華キャスト、因果に溢れた濃厚なサスペンス、信仰の問題点を突いたドラマと見どころが多く、実に面白いサスペンスドラマでした。

あらすじ

オハイオ州の田舎町ノッケンスティフ。18歳のアーヴィン・ラッセル(トム・ホランド)は少年期に両親を亡くして以来、この町で祖母や血縁のない妹レノラ(エリザ・スカンレン)と暮らしているが、新任の若い牧師(ロバート・パティンソン)がレノラを孕ませた上に捨てたことから、惨劇の当事者となる。

登場人物

ラッセル家

  • アーヴィン・ラッセル(トム・ホランド):主人公。9歳の頃に両親が死亡したため、祖母の元で育てられている。家族思いで、家族に害を為す者には暴力を行使することも厭わない武闘派。
  • レノラ・ラファティ(エリザ・スカンレン):ロイ・ラファーティとヘレン・ハットンの娘だが、幼少期に両親が死亡したためラッセル家で育てられた。血はつながらないがアーヴィンとは実の兄妹のような関係。
  • エマ(クリスティン・グリフィス):アーヴィンの祖母。いろいろあってレノラを引き取ることになり、続いてアーヴィンも引き取り、貧しいながらも二人を育て上げた。
  • ウィラード・ラッセル(ビル・スカルスガルド):アーヴィンの父。第二次世界大戦への従軍経験があり、復員後に結婚しアーヴィンをもうけた。家族を持ったことで一時期失っていた信仰を取り戻したが、結局報われることはなかった。
  • シャーロット・ラッセル(ヘイリー・ベネット):アーヴィンの母でウィラードの妻。ウェイトレスをしていたところ復員直後のウィラードと出会い結婚し、アーヴィンを産んだ。

ヘンダーソン家

  • カール・ヘンダーソン(ジェイソン・クラーク):美人の妻サンディを餌に使って若いヒッチハイカーを襲い、その死にざまを写真に収めることが趣味という異常者。
  • サンディ・ヘンダーソン(ライリー・キーオ):カールの妻で、夫の少ない稼ぎを売春で補っている。カールに付き合ってヒッチハイカーを襲っているが、彼女自身に殺意はない。
  • リー・ボーデッカー保安官(セバスチャン・スタン):サンディの実兄。街の保安官だが売春組織と繋がっており汚職まみれ。妹サンディの素行の悪さが自身の評判を落とすのではないかと心配している。

その他

  • ヘレン・ハットン(ミア・ワシコウスカ):レノラの母でロイの妻。敬虔なクリスチャンだが、夫ロイの度を越した信仰には手を焼いている。
  • ロイ・ラファーティ(ハリー・メリング):レノラの父でヘレンの夫。敬虔な人物で布教師をしているが、神への愛情表現がかなり過剰。
  • ティーガーディン牧師(ロバート・パティンソン):病気を患った前任者と交代に街の教会に赴任してきた若い牧師。派手好きで無神経。美人の妻がいるが、教区内の少女達にも手を出している。

感想

複雑に絡み合ったドラマとサスペンス

田舎の貧困層を題材にしたサスペンスには独特の湿っぽさがあって大好きなのですが、本作には通常の3割増しくらいでそれが宿っています。

人々は現状にまったく充たされてはいないのだが、将来に向けて環境が改善される気配もなく、各人に進歩の気配もない。鬱屈した空気が何世代にも渡ってこの地に人々を縛り付け、顔を知り合った者同士がお互いに足を引っ張り合う。

そんな中で2つの家族の物語が描かれていくのですが、血縁や因果が複雑に絡み合った人間関係の先に起こる惨い事件というドラマとサスペンスの折衷が高次元で成し遂げられており、ヘビーだが実に見応えがありました。

よくよく考えてみればこんなに狭い世界でこうも頻繁に事件が起こるものかという気もするのですが、ストーリーテリングに力があったので見ている間にはさほどの違和感はありませんでした。

本作の脚色と監督を担当したアントニオ・カンポスという人は今回はじめましてなのですが、とんでもない才能を持った映画人が現れたと思います。

信仰の中にこそ宿る悪魔

本作の大きなテーマは信仰であり、信仰の明るい面を描くのではなく、その闇に足を踏み入れています。

それも信仰が生み出す歪みみたいなレベルではなく、キリスト教があるせいで世の多くの問題は起こってるんじゃないかレベルの手厳しい描写なので、敬虔な方々が見ると怒る内容だと思います。私は楽しめましたが。

タイトルの『悪魔はいつもそこに』とは、悪魔は超常的な存在ではなく、判断ミスを犯した人間の行為こそが悪魔的であるということなのでしょう。

作品には、愚直に神を信じても報われなかった者、神に近づこうとしておかしくなった者、信仰を隠れ蓑にして悪事をはたらく者の三種類の人間が現れます。

まず、愚直に信じても報われなかった者。これにはウィラード・ラッセル(ビル・スカルスガルド)、レノラ・ラファーティ(エリザ・スカンレン)が該当します。

彼らは困ると教会に行ったり祈ったりするのですが、結局そのことは目の前の問題に対して何らの影響も与えず、でも祈れば神様が何とかしてくれると思ってるものだから「信心が足らないのか」と思ってもっとハードに祈って、それでも何ともならずを繰り返してどんどん追い込まれていきます。

彼らには何かを良くしたいという思いがあり、その動機が善なるものである分、誤った手段に頼っていることが可哀そうにも思えてきます。

次に、神に近づこうとしておかしくなった者。これにはカール・ヘンダーソン(ジェイソン・クラーク)とハリー・メリング(ロイ・ラファーティ)が当たります。

彼らは自分を神と人間の中間に居る者くらいに考えているので、他の人間の存在は眼中にありません。それどころか、神のためだと思い込めば他人に対して危害を加えることに躊躇がありません。

もっとも危険なのは彼らのような存在だと言えます。

最後に、信仰を隠れ蓑にして悪事をはたらく者。これにはティーガーディン牧師(ロバート・パティンソン)が該当します。

彼は神学校を卒業した牧師でありながら神の存在を心から信じている様子がなくて、信仰の精神に反することを行っています。聖職者という社会的信頼度の高い地位を利用してやりたい放題し、追い込まれれば聖書の記載を都合よく解釈して言い逃れをしようとする。

敬虔な信徒達の信仰心に付け込んで私利私欲を充たしている分、悪質性が最も高いと言えます。

エロ牧師役のロバート・パティンソンが最高過ぎる

ただしこのティーガーディン牧師、演じるロバート・パティンソンの独特な雰囲気や演技力もあってかなりキャラ立ちしており、ムカつくんだけど面白いキャラとして仕上がっています。

初登場場面から田舎の牧師には似つかわしくない色男ぶりを披露。ネチっこい態度と喋り方で「あれ?この人なんかおかしくない?」という嫌な空気を漂わせます。

新任牧師を歓迎したい住民達が手作り料理を教会に持ち寄ってくるのですが、そこに貧しいエマ(クリスティン・グリフィス)が持ってきた安い鶏レバーを使った料理を見るや、「貧しいご婦人が鶏の内臓を使った料理を持って来ておられる。こんなみすぼらしい料理しか食べられない方のために、私は精一杯働きます!」と全員に向かって言いだします。

牧師本人には失礼なことを言っているという感覚がなく、むしろ名演説をしているくらいに感じている。その絶望的な感覚のズレがムカつくけど面白い名場面となっています。

その後、牧師は本領発揮して地元の少女達に手を出しまくるのですが、相手の少女が孕んだりすると「お前と関係なんて持ったことない!」「家族が泣くぞ。堕胎しろ!」など滅茶苦茶なことを言い出します。

この手の平返しの凄さ。相手に対する思いやりの一切ない対応。その素晴らしいヒールぶりは圧巻だったし、演じるロバート・パティンソンが中身の一切ない牧師役に完璧にハマっており、ひとつのキャラクターとして非常に充実していました。

トム・ホランドは脱坊ちゃんに成功

主人公アーヴィン・ラッセルを演じるのはトム・ホランド。MCUのスパイダーマン役として知られた若手俳優であり、童顔とナヨった雰囲気が従前の彼のパブリックイメージでした。

その童顔は本作でも健在であり、実年齢24歳でありながら18歳の高校生役に微塵の違和感をも抱かせません。

ただし今回違うのは家族を守るという意識を持つ芯の強い男であり、場合によっては鉄拳による解決も辞さないバイオレントな10代だということです。

ピーター・パーカーとは正反対の気質を持つ役柄なのですが、本作のトムホには触ると危険な空気がちゃんと漂っており、田舎のバイオレンス高校生として違和感がありません。その対応できる役柄の範囲は意外と広かったことに驚かされました。

アーヴィンがティーガーディン牧師と一対一で対峙する場面は旬な若手俳優同士の演技力の応酬戦となっており、静かなやりとりが次第に激しいぶつかり合いへと転化していく様には大変な緊張感が宿っていました。

考えてみれば、これはスパイダーマンvsバットマンという夢のカードでもあります。バットマンのダーティさにブチ切れるスパイダーマンという構図に置き換えてみても楽しめます。

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