スパイダーマン:ホームカミング_バルチャーだけが良かった【5点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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(2017年 アメリカ)
アベンジャーズの内紛にあたってトニー・スタークにその能力を見出されたピーター・パーカーは、地元NYで悪者退治をしていた。ある時、ATM強盗団がチタウリのテクノロジーを流用した高性能の武器を持っていたことから、ピーターはその出どころを追い始める。

5点/10点満点中_スパイダーマンらしくないスパイダーマン

©Sony Pictures Entertainment Inc.

スタッフ・キャスト

監督のジョン・ワッツって何者?

ソニーのスパイダーマンは、大作経験は乏しくとも光るところのあるインディーズ監督の起用が恒例となっていますが、ジョン・ワッツもこの系譜に連なる人物です。

1981年生まれ。短編映画やテレビ界での演出を経て、ホラー映画『クラウン』(2014年)で長編監督デビュー。翌年のスリラー『COP CAR/コップ・カー』(2015年)がちょいと話題になっての本作起用だったのですが、インディーズ映画界のトップに君臨していたサム・ライミ、『(500)日のサマー』(2009年)が批評家に絶賛されたマーク・ウェブら前任者と比較すると明らかに見劣りする経歴であり、よほどプレゼンが優れていたのかな、などと思ってしまいます。

コンビ脚本家3組

本作の布陣で独特に感じたのはコンビ脚本家3組を起用していることであり、多分これは意図的ではあると思うのですが、何の意図があってコンビ脚本家のみにこだわったのかは謎です。起用されたのは伸び盛りの気鋭脚本家ばかりで、原案も手掛けたジョナサン・ゴールドスタインとジョン・フランシス・デイリーのコンビはDCの『ザ・フラッシュ』(2021年公開予定)の監督に抜擢されたし、クリス・マッケナとエリック・ソマーズのコンビは数年でヒット作を量産する期待のコンビであり、物凄い布陣を整えています。

  • ジョナサン・ゴールドスタイン& ジョン・フランシス・デイリー :ゴールドスタインは1990年代末よりテレビ界で脚本を書いている中堅で、デイリーはフォックスのテレビシリーズ『BONES』にレギュラー出演していた俳優。コンビで『モンスター上司』(2011年)、『くもりときどきミートボール2』(2013年)の脚本を書きヒットさせました。現在はDCで『ザ・フラッシュ』(2021年公開予定)の共同監督をしています。
  • ジョン・ワッツ&クリストファー・フォード:『クラウン』(2014年)、『COP CAR/コップ・カー』(2015年)で組んできました。
  • クリス・マッケナ& エリック・ソマーズ :2000年代末よりテレビ界で脚本を書き、2017年とかなり最近になって映画界に進出してきたコンビなのですが、この短期間で手掛けた作品が『レゴバットマン ザ・ムービー』(2017年)、『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』(2017年)、『アントマン&ワスプ』(2018年)と、物凄いことになっています。『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年)にも引き続き起用されており、今後の娯楽映画界を席巻する脚本家に成長する可能性のある注目の逸材です。

登場人物

ピーターの周辺人物

  • ピーター・パーカー/スパイダーマン(トム・ホランド):NYの下町クィーンズで叔母のメイと二人暮らしをしている高校生。もはやその描写すら本編にはないが、クモに噛まれてスーパーパワーを身に付けた。自主的に自警団活動をしていた際の動画が目に留まり、トニー・スタークにスカウトされた。トニーから一人前には見られていないことが不満で、実力を示してアベンジャーズに入ることを目標にしている。
  • メイ・パーカー(マリサ・トメイ):ピーターと二人暮らしをしている叔母。クィーンズ界隈では美魔女として有名で、トニー・スタークもその魅力の虜になった。しかしメイはトニーを快く思っていない。
  • ネッド・リーズ(ジェイコブ・バタロン):太ったアジア系の高校生で、ピーターの親友。かなり早い段階でピーターがスパイダーマンであることを知り、良き相談相手となった。また機械の扱いやプログラミングが得意で、スターク・インダストリーズのセキュリティを突破するほどの腕前を見せてスパイダーマンをサポートした。
  • ミシェル・”MJ”・ジョーンズ(ゼンデイヤ):ピーターとは同じ部活で、常にピーターに嫌味を言っているが、ピーターの行く所どこにでも現れることから、彼に好意を抱いていると思われる。
  • ユージーン・”フラッシュ”・トンプソン(トニー・レヴォロリ):ピーターと同じ部活のグアテマラ系。金持ちで学園内でも一定の人気を誇っている様子だが、ピーターに対しては高圧的に振る舞う。
  • リズ・トゥームス(ローラ・ハリアー):高校のマドンナ的存在で、ピーターとは同じ部活。ピーターが恋焦がれる相手で、後に両想いとなるが、直後にバルチャーの娘であることが判明し、二人の恋も終わった。
  • エイドリアン・トゥームス/バルチャー(マイケル・キートン):残骸を処理する中小企業の経営者で、『アベンジャーズ』(2012年)におけるチタウリとの決戦後のNYで大量の残骸の後片づけを市より受託していたが、スターク・インダストリーズと政府が設立したダメージ・コントロール局に仕事を奪われた。家族と従業員を食べさせるためには新たな収益源が必要ということで、回収したチタウリの残骸から特殊な兵器を作り上げ、闇市場で売って財をなしていた。自身は当該テクノロジーを利用したウィングスーツを着てバルチャーとなり、邪魔者の排除を行っている。

スターク・インダストリー

  • トニー・スターク/アイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr.): 自警団活動を行うスパイダーマンの動画を見て目を付け、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)にてアベンジャーズが分裂した際に、助っ人としてピーターを使った。しかし、高校生であることが分かるとピーターの扱いに慎重になり、スターク社製のスパイダーマンスーツを提供するものの、機能をセーブした補助輪モードで使わせている。また、スーパーヴィランの類は相手にせず、街のコソ泥だけを追いかけていろとピーターに指導している。基本は放置だが、言いつけを守らなかったピーターが事態を悪化させた際には、その収拾へと向かうという親心も見せる。
  • ハロルド・”ハッピー”・ホーガン(ジョン・ファヴロー):トニーの運転手兼警備責任者であり、トニーの命によりピーターのお目付け役をしている。ただしピーターの世話にはあまり乗り気ではなく、大して役に立っていない。
  • カレン(声のみ/ジェニファー・コネリー):スターク社製のスパイダーマンスーツに内蔵されているA.I.で、カレンという名はピーターが付けた。声を演じるジェニファー・コネリーは、『アイアンマン』シリーズで人工知能J.A.R.V.I.S.の声を演じ、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015年)以降は J.A.R.V.I.S. が実体化したヴィジョン役も演じているポール・ベタニーの奥さん。

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スパイダーマンらしからぬスパイダーマン

定番をことごとく外した異色作

ヒーロー業と私生活の間で苦労し、スパイダーマンであるということを言えない中で、「なぜいつも不在にしているのか」などと周囲の人達から怒られて悩むピーター・パーカーの図というものがスパイダーマンの特色なのですが、本作はこうした定番をことごとく外してきています。

親友のネッドはかなり早い段階でスパイダーマン=ピーターであることを知り、良き理解者としてピーターのメンタル面を支えます。クライマックスでは情報集約とナビゲート役という形でスパイダーマンの戦いにも協力し、本作のピーターは孤独ではありません。

加えて、ピーターが不在にしても周囲がイラつくという展開はなく、大事なクイズ大会の本番でチームの主戦力であるピーターが不在にしても、「別にいいよ、勝ったから」といった感じで、誰も彼を責めません。一時的にピーターと恋仲になるリズにしても、彼女はホームカミング・パーティでピーターに置き去りにされるのですが、そのことに怒るような反応は示しません。サム・ライミ版であれば大事になっているところなのですが、そうした展開が見事にスルーされている点が、かなり独特に感じました。ヒーローならではの孤独や葛藤といった要素がスッパリと落とされているのです。

MCUという世界観から導き出された合理的な物語

なぜこのような作品になったのかと考えたのですが、単独ヒーローではなくMCU内のヒーローの一人であるというあり方の変化から、こうせざるをえなかったんだろうという結論へと至りました。

2002年の『スパイダーマン』第一作でのベンおじさんの名言「大いなる力には大いなる責任が伴う」が象徴的なのですが、原作や旧映画版のピーターは好きこのんで自警団活動を行っているのではなく、彼には偶然得た特殊能力があり、その能力を使えば救える人が目の前にいる時、その行使をしないことは罪であるという責任感から動いていました。ただし、この構図はスパイダーマンが唯一の存在であるからこそ成り立つものであり、ヒーローが普通に存在しているMCU内では、ピーターがここまで思い悩む必要がありません。スパイダーマンよりも強いヒーローがゴロゴロ存在している世界なのだから、ピーターがやらなければ誰もやる人はいないという状況でもなく、葛藤を抱えてまで戦う必要がないのです。だからこそ、本作はピーターを追い込み過ぎていません。アイアンマンから強い敵とは戦うなとまで言われているような状況であり、彼はアベンジャーズに憧れ、その輪に入れて欲しくて自主的にヒーロー業を行っています。

スパイダーマンの匿名性にこだわっていない点についても、アイアンマンのように顔出し実名出ししている別のヒーローが存在している世界において、知人に嘘をついてまでヒーロー業をひた隠しにする意義を観客に説明できなかったためだと思います。もしMCUにおいてサム・ライミ版のようなまどろっこしいドラマをやると、観客は大変なフラストレーションを抱えたと思うので、こうした判断は実に合理的だと感じました。

もうひとつ大きな変化として、NY市民がスパイダーマンをさして大きく扱っていません。アイアンマンやキャップのようなキャラ立ちしたヒーローのいる世界なので、スパイダーマンのような小物にはスポットライトが当たっていないのは当然であり、こちらもまた世界観に併せた改変だと思います。

『スパイダーマン』の醍醐味は失われた

ただし、ここまで定石を外してきて、果たしてスパイダーマンとして成立しているのかという新たな問題が発生しています。トラブルメーカーではない寅さんで『男はつらいよ』は成立するのか、怠け者ではないのび太で『ドラえもん』は成立するのかということですね。私は、そこにあるべきドラマがすっ飛ばされていくので見応えを感じなかったし、かと言って見せ場の迫力など別の誘因が訴求されているわけでもなく、何だか中途半端なものを見せられたという感覚を持ちました。

加えて、スパイダーマンがNY市民の応援を受けるヒーローではなくなっており、旧映画版ではスパイダーマンの登場に歓喜するNY市民の存在が観客側のエモーションも高めていたのに対して、本作ではオーディエンス不在で人知れずスパイダーマンが戦っているという構図となっているので、かなり物足りなく感じました。

やはりオリジンは定石通りにスタートさせ、スパイダーマンがヒーローとしてある程度成熟したところでアベンジャーズに合流させるという流れがもっとも良かったのだろうと思います。すなわち、アンドリュー・ガーフィールド主演の『アメイジング・スパイダーマン』シリーズを継続させ、その流れの中でMCUへの参画がベストだったんでしょうね。いろんなしがらみでそうもいかないのでしょうが。

バルチャーが良すぎる

そんなわけでピーターの物語には不満が残ったのですが、対するバルチャーが良すぎたので、バルチャーが出ている場面のみ気に入りました。

彼は大企業スターク・インダストリーに仕事を奪われた中小企業の経営者で、家族や従業員を食わせるにはここで手を引くわけにもいかないからと、闇の稼業に手を染めた親父という設定が泣かせます。野望の実現とか人を傷つけるといった大それた目的はなく、大事な人達の生活を守るためにできることが武器の密造だったという湿っぽい設定には、従来のスパイダーマンのような香りがしました。

加えて、その影響も考えずに強力な武器を売っている経営者という点では『アイアンマン』第一作(2008年)のトニー・スタークとも共通しており、スパイダーマンのメンター役であるアイアンマンと、敵として立ちはだかるバルチャーがネガとポジの関係にあるという点も興味深く感じました。有り余る資産を持つトニーだからこそ兵器産業からの撤退がスムーズにできたのですが、果たして街の経営者にそんなことができるのだろうか。悪いことだと知りつつも、もうやるしかない状況というものが存在してしまうという世知辛い現実が明確に描かれていることにも意義を感じました。

まとめ

スパイダーマンらしさがここまで失われた作風で良いのだろうかという点が終始気になった作品でした。旧シリーズの最高傑作がドクターオクトパスというおっさん一人を相手にした『スパイダーマン2』(2004年)であることが示す通り、このヒーローにはド派手なスペクタクルよりも湿っぽいドラマが似合っているのですが、なんだか方向性を間違えているような気がします。

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ソニーとスパイダーマンの関係(余談)

ここからは完全に余談なのですが、ソニー・ピクチャーズがスパイダーマンに対してかける情熱の根源について備忘的に記載しておきます。

非メジャースタジオを彷徨った映画化権(1970年代末~1995年)

マーベル・スタジオが金の卵を産むガチョウとなった現在からは考えられないのですが、マーベル・コミックスの実写化企画は長年に渡ってB級の域を脱していませんでした。スパイダーマンの映画化権についても、1970年代にはB級映画の帝王ことロジャー・コーマンが実写化権を取得し、1980年代にはメナハム・ゴーランがそれを引き継ぐような状況でした。そこに変化の兆しが現れたのが1990年代で、ブロックバスターを連発して当時の映画界の台風の目だったカロルコがジェームズ・キャメロン脚本・監督で『スパイダーマン』製作に乗り出したのです。『トゥルー・ライズ』(1994年)の撮影が終了する頃にはキャメロンの脚本は仕上がっており、それは原作者のスタン・リーが絶賛するほどの出来栄えだったようなのですが、1995年にカロルコは倒産して企画は白紙になりました。

映画化権を巡る法廷闘争(1996年~1999年)

この時点でキャメロンの脚本はカロルコの権利を包括的に引き継いだMGMに移り、MGMは当然にスパイダーマン映画化権も継承されたと認識したのですが、他方でマーベル・コミックスは企画中止という契約不履行によってスパイダーマンの映画化権が自社に戻ったと認識したことから、MGMとマーベル・コミックスのどちらが権利を保有しているのかよくわからない状態となりました。ロジャー・コーマン、メナハム・ゴーラン、マリオ・カサールといった山師のようなスタジオ経営者の手元を転々としたことの反動で、過去の契約がどこまで有効なのかという点が争点となりました。

加えて、当時のマーベル・コミックスは破産状態にあって経営再建中だったことから、スパイダーマンのような有望コンテンツを自由には動かせないという社内事情も抱えていました。スパイダーマンを製作したければ、7億ドルの負債を抱えたマーベル・コミックスを会社ごと買い取るしかないと言われていたほどです。1998年には一応マーベル・コミックスに権利が帰属するという判決が下されたものの、権利問題は完全には解決しませんでした(ここまで『プレミア日本版 1998年11月号』を参照)。

この流れにソニー・ピクチャーズが本格的に加わるのは1999年で(ソニーによるコロンビア映画買収直後の1989年頃から関心は持っていた)、1998年の判決に基づいてマーベル・コミックスはソニー・ピクチャーズ傘下のコロンビア映画へ『スパイダーマン』の製作を許可しました。しかし、これに異議を唱えてきたのがMGMでした。そして、ソニーとMGMは『007』の映画化権を巡って長年に渡り争ってきた不倶戴天の仇という関係にありました。

ソニーは、創業者の盛田昭夫がジェームズ・ボンドにソニー製品を持たせたいという願望を持って以来、『007』を自社製作することに躍起になっていました。1996年には『007/ゴールデンアイ』(1995年)を大ヒットさせたジョン・キャリーを傘下のコロンビア映画の社長ポストに引き抜き、リーアム・ニーソン主演で『ネバーセイ・ネバーアゲイン』を製作しようとしたのですが、本家シリーズの権利を持つMGMに裁判を起こされて007に係るすべての権利を白紙にされたという苦い経験がありました。

晴れてソニーに映画化権が帰属(1999年~現在)

そんなこんながありつつも、007とスパイダーマンを巡る両者の権利争いは、1999年3月に劇的な和解を迎えました。ソニーは長年の夢だった007の権利を放棄し、またMGMはそれまで死守してきたスパイダーマンの権利を放棄し、両社は一連の権利闘争を終結させたのでした。

007に対するソニーの思いがいかほどだったかをさらに説明すると、その後、2005年にMGMが経営難に陥った際に6,000億円で同社を買い取り、会社ごと007の権利を飲み込んでまで『007/カジノロワイヤル』(2006年)を製作したほどでした。そして、そんな007への夢を一時的に諦めてまでスパイダーマンの権利を獲得したのだから、こちらにもまた大変な思いがこもっているということが分かります。

この時点よりソニーの『スパイダーマン』(2002年)は本格始動。そして公開直後にはその後4年間破られないほどの驚異的なオープニング興収を叩き出し、最終的には『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』『スター・ウォーズ エピソード2』『ハリー・ポッターと秘密の部屋』といったライバルを大きく引き離し、年間興行成績でぶっちぎりのNo.1を獲得するという大ヒットによって長年の労が報われた形となりました。

権利獲得までの苦労や、その苦労が期待を上回るほどの成果として表れたという成功体験が、現在に至るまでのスパイダーマンに対するソニーの情熱の根源となっています。

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