(2012年 アメリカ)
大量のアイデアがぶちこまれていて息をつく暇のないクライムサスペンスなのですが、その展開の多さが行き当たりばったりという印象に繋がっています。優秀であるはずの主人公が状況をコントロールできず、流されるがままに事態がどんどん悪化していくという展開は、設定との間で不整合を起こしていました。

あらすじ
かつて凄腕の運び屋だったクリス・ファラデイ(マーク・ウォルバーグ)は、今は足を洗い家族と共に平和に暮らしている。そんな折、妻ケイト(ケイト・ベッキンセイル)の弟であるアンディがコカイン密輸に失敗し、クリスは荷主であるブリッグス(ジョヴァンニ・リビシ)から70万ドルの損害の肩代わりを要求される。クリスは弁済資金を用立てるため、パナマからの偽札密輸計画を実行に移す。
作品概要
『レイキャビク・ロッテルダム』(2008年)のリメイク
本作はアイスランド映画『レイキャビク・ロッテルダム』(2008年)のリメイクで、同作に主演したバルタザール・コルマウクルが本作では監督を務めています。バルタザール・コルマウクルはマーク・ウォルバーグの次回作『2ガンズ』(2013年)も監督しました。
また、本作で主人公クリスの協力者であるオラフを演じたオラフル・ダッリ・オラフソンは、オリジナルにも出演しています。
リメイクにあたってタイトルは密輸品を意味する”Contraband”に改められましたが、邦題の「ハード・ラッシュ」は意味不明です。
感想
泥縄の犯罪計画
危機また危機の連続なのでつまらなくはないのですが、のめり込むような面白さでもありません。一つ一つのシチュエーションが作り込まれておらず、キレ者であるはずの主人公が泥縄の犯罪計画をやっているようにしか見えないので、設定と物語が不整合を起こしています。
パナマでのくだりなんて酷いもので、マーク・ウォルバーグ扮する主人公クリスが予定通りにブツを受け取りに行くと、準備されていた偽札は低品質で「これじゃいかん」となって、急遽、地元ギャングから別の偽札を仕入れることにします。
予約も何もしていないのに、フラっと行けば大量の偽札、しかも主人公が納得できる高品質のものを持ち合わせている地元ギャング。パナマでは偽札作りが流行っているんでしょうか。
何とか仕入の目途が立ったのも束の間、車で待たせていた義理の弟アンディが買い付け資金と共に消えてしまい、今度は支払ができないという別問題が発生します。
すると地元ギャングの親分から「ちょうど今から強盗に行くところだから、手伝えばタダでその偽札をくれてやる」と実に太っ腹な提案を受けます。って、このギャングは強盗に行く当日になっても必要人数を揃えていなかったのかと、そのことに驚いてしまいましたが。
仕方ないのでギャングの強盗計画に参加すると、思いのほか早く警官隊が到着してしまい銃撃戦が勃発。クリスを残してギャングは全滅したので、結局タダで偽札を仕入れます。
って、なんじゃこの話。振り返ってみると結構ひどい内容ですね。
※注意!ここからネタバレします。
倫理観のボーダーラインが曖昧
主人公クリスは善良な心を持つ元犯罪者という設定。
今回は義弟を救うために渋々密輸を引き受けるのですが、どれだけ頼まれてもドラッグだけは運ばないというこだわりを持っています。しかし偽札は運ぶわけで、この人は一体どこで一線を引いているのかが見えてきません。
加えて、闇マーケットで盗品を売った金で財を成してハッピーエンドという〆もしっくりきませんでした。主人公が生粋の犯罪者であればこの終わり方でもいいんですけど、犯罪行為に後ろめたさを感じている主人公が、結局犯罪行為でハッピーエンドというオチはどうなのかなと。
あと、J・K・シモンズ扮する貨物船船長が可哀そうすぎません?
船長自身は何も悪いことはしておらず、犯罪の匂いのするクリスを遠ざけていただけ。実際、クリスは密輸をしていたのだから船長の勘は当たっていたということになるのですが、そのことでクリスから逆恨みされ、最終的に自宅を麻薬取引の現場にされて、犯罪者と一緒に警察に逮捕されるという扱いは、さすがにあんまりでは。
この映画の倫理観は最後までよく分かりませんでした。
サプライズが機能していない
この映画の最大のサプライズは、クリスが全幅の信頼を置く友人のセバスチャンも実は敵だったということなのですが、これがサプライズとして機能していませんでした。
なぜなら、演じているのがベン・フォスターだから。
ベン・フォスターは裏切り者を演じることが多いので、この人が出ている時点で映画ファンはピンと来るわけですよ。むしろ、裏切ると見せかけて最後まで味方というサプライズなのかなと深読みしてしまったほどです。 ベン・フォスターを信用している時点で、クリスは本当に優秀なのかという疑念を抱いてしまいます。
このキャスティングは失敗でした。
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