ブルータル・ジャスティス_タランティーノを継ぐのはザラーだ!【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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クライムアクション
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(2019年 アメリカ)
贔屓にしているS・クレイグ・ザラー監督の最新作ですが、今回も最高でした。メル・ギブソンをマーティン・リッグスとしか思えないキャラで起用し、実にリーサル・ウェポンな戦い方をさせた時点で満点。また会話の妙や暴力のイヤ~な部分を描いたいつものザラー節も炸裂しており、大変面白く充実した作品でした。

作品解説

打率100%!S・クレイグ・ザラー監督の長編3作目

本作の監督はS・クレイグ・ザラー。1973年マイアミ出身で、元はブラックメタルバンドで作詞とドラムを担当していた人物です。

その後に映画脚本を書くようになって高評価を獲得し、西部劇とホラーのハイブリッドである『トマホーク ガンマンVS食人族』(2015年)で長編監督デビューを果たしました。

一見するとイロモノにしか感じない『トマホーク』ですが、実はしっかりとした構成と、情け容赦のないゴア描写に支えられた一級の作りとなっており、ネタ映画として見た私は度肝を抜かれました。

2作目は本作にも出演しているヴィンス・ヴォーン主演の『デンジャラス・プリズン』(2017年)で、終盤に向かってタガが外れていくバイオレンスや、常軌を逸したゴア描写など、こちらもエッジの立ちまくった作品でした。

長い長い会話や独特のユーモアなどのザラースタイルは『デンジャラス・プリズン』から顕著になってくるのですが、続く本作『ブルータル・ジャスティス』(2019年)では、そのスタイルの継承発展がはかられています。

今のところ監督した全作品が面白いという奇跡的な打率を誇っており、もしこのペースであと数作品をリリースすれば、「知る人ぞ知るインディーズ監督」から「名の知れ渡った名監督」レベルになっていくのではないかという期待値もあります。

感想

タランティーノを継げる男ザラー

『トマホーク ガンマンvs食人族』はシリアスな『フロム・ダスク・ティル・ドーン』であると感じ、また『デンジャラス・プリズン』の乾いた笑いとバイオレンスにはタランティーノ初期作品の香りを感じたのですが、本作でいよいよザラーはタランティーノの後継者であることを確信しました。

本作の上映時間は2時間39分と極めて長く、それが批判の対象となることも多いのですが、これだけ長いのは特殊なキャラ描写をしているため。

ただ飯を食ったり、テレビを見たりといった何も起こっていない様子を映し出すことで登場人物達の特徴が描かれて行きます。

そうした映画全体にとっては何の意味もない描写が多くを占め、話が完全に止まっている時間すら存在しているのですが、それこそがタランティーノ的なんですね。

キャラクター主体で物語を展開させ、直接的な説明台詞ではなく「こういうことに関心を持っている人物である」という周辺情報から、起こっている物事を間接的に観客に理解させるという。

特に『ジャッキー・ブラウン』(1997年)との類似が目に付いたのですが、ジャッキー・ブラウンも監督にとっては3作目に当たります。3作目というのは監督のスタイルが円熟するタイミングなのでしょうか。

その他、BGMには並々ならぬ拘りを持っているのだが、ドラマの劇的な部分では音楽を使わないというスタイル、突然噴出する暴力、情感を伴わないその顛末など、タランティーノが監督したと言われても違和感がないほど、それっぽい作品となっています。

しかも90年代に多発した粗雑なタランティーノフォロワーの類ではなく、水準的には本家と同等レベルなのだから大したものです。

タランティーノは10作目となる次回作での引退を表明しており、映画ファンからは「もっと撮って欲しい」との声も聞かれますが、タラの空いた穴はザラーが埋めてくれるものと私は期待しています。

あと、3作目にして常連俳優が確立してきたことや、盛りを過ぎた俳優の再生工場となっている辺りもタランティーノっぽいですね。

ヴィンス・ヴォーンを始めとして、ドン・ジョンソン、ウド・キアー、ジェニファー・カーペンターらはどれだけ小さな役柄であっても出演させたいというこだわりが見えるし、まともな映画に出演できなくなったメルギブを主演待遇で迎えたことには、彼のファンとしてありがたい気持ちでいっぱいになりました。

なお、『ジャッキー・ブラウン』(1997年)でロバート・デ・ニーロが演じた役柄は、当初スタローンにオファーされていたものであり、落ち目のアクションスターに枯れかけた役を当てるという点でも、本作とジャッキー・ブラウンは共通しています。

くたびれたメルギブが最高すぎる

で、主演のメルギブは久方ぶりの輝きを見せます。

ここんとこのメルギブと言えば『マチェーテ・キルズ』(2013年)や『エクスペンダブルズ3』(2014年)など悪役が多く、彼を使いたいのは山々なんだけど、ネガティブなイメージを考えると正攻法では使えないからという業界関係者の葛藤が透けて見えてくるような微妙な扱いばかりで、全盛期のメルギブを知る者としては悲しい限りでした。

そこに来て本作は堂々たる主演として起用。しかも人情味を十分に感じられる役柄なので、久しぶりにメルギブらしい役柄を見られたなぁと嬉しくなりました。

メルギブ扮するブレット・リッジマンは晩年ヒラのベテラン刑事。検挙率は高いのでクビにこそならないものの、乱暴な捜査が時代に合わなくなってきており、組織内での冷遇が止まりません。

暴走刑事メルギブと言われて思い出すのが『リーサル・ウェポン』のマーティン・リッグス。

そして、27歳から昇進していないと言うリッジマンの現在の設定年齢は59歳で、差し引くと32年間は組織内で塩漬け状態ということになります。で、本作が公開された2019年から32年前と言えば『リーサル・ウェポン』の第一作が公開された1987年なので、「やっぱりリッグスなんだ!」と一人で興奮してしまいました。

しかも彼の上司はドン・ジョンソン、『特捜刑事マイアミ・バイス』や『刑事ナッシュ・ブリッジス』で知られるテレビ界の名物刑事です。

現在では上司と部下という関係ではあるものの、二人は若い頃にコンビを組んでいたと言います。マーティン・リッグスとソニー・クロケットがコンビで活動していたという裏設定にも燃えるものがありました。

そして、ドン・ジョンソンからは時代に合わせてうまく振舞えないことがリッジマンの冷遇の原因であると指摘されるのですが、これがまんまメルギブ本人の境遇を示している辺りがまた感慨深い。

そりゃ自分に問題がなかったとは言わないが、職業人としての実績に着目すれば、いつかみんな分かってくれると思って頑張ってきたというリッジマンの嘆きは、まさにメルギブの人生そのものです。

人種差別発言やアルコール依存症、DV疑惑といったネガティブな話が多すぎて俳優という人気稼業ができなくなったのは仕方ないとして、監督としてメルギブは頑張ってきたわけです。

『パッション』(2004年)は製作費の20倍も稼ぐ大ヒットになったし、『アポカリプト』(2006年)は歴史アクションの傑作だし、『ハクソー・リッジ』(2016年)ではアカデミー賞にもノミネートされた。

芸術に対してこれだけの貢献をしているのに、それでもいまだに陽の目を見せてもらえないんだというメルギブの嘆きが、リッジマンのセリフには込められているわけです。

そして、仕事を干されてはいるが守るべき家族のあるリッジマンは、そうは言っても稼ぎが必要だというわけで犯罪行為に手を染めることとなります。

ただし犯罪者を襲って金を奪う計画なので社会正義に真っ向から背くわけではなく、いざという時には金を奪うことよりも人命保護優先であるという方針も明確にし、今まで尽くしてきた職業倫理を裏切らないギリギリのところは守っています。

こうした葛藤もまたリッジマンの魅力であり、暴力刑事を演じてきたメルギブというキャスティングの強みもよく出ています。

本筋とは無関係な会話の妙

そして、リッジマンはヴィンス・ヴォーン扮する相棒のトニー刑事を計画に誘います。

トニーはリッジマンと違って所帯持ちではないものの、安月給の刑事にとっては不相応に社会的ステータスの高い恋人と交際しており、彼女へのプロポーズを考えています。

ただし彼女のステータスに合わせて高価な婚約指輪を買ったりしているうちに、俺のプロポーズは断られるんじゃないかと不安になってきており、彼女との格差を埋めるためにはやっぱり金が必要だとして、リッジマンの計画に乗ります。

かくして二人の襲撃計画が実行されるわけですが、『L.A.大捜査線/狼たちの街』(1985年)のようなタイトなアクションとはいかず、ターゲットとなる犯罪者のマンションをひたすら張るという地道な内容となります。

で、張り込み中の二人の会話が中盤の見せ場となるのですが、サンドウィッチをむしゃむしゃと食べるヴィンス・ヴォーンがかなり長めに映し出された直後に、うんざりした顔のメルギブが「その音と匂いに付き合わされた俺の気持ちにもなれ」と言い出すなど、二人のやり取りが笑いを誘います。

と同時に、こうした意味のない会話で彼らの人となりやコンビの関係性を見せるあたりの監督の手腕は光っています。

加えて、犯罪者の動きから起こっていることを推測するリッジマンとトニーの会話から、二人がとんでもない腕利きであることが分かるという見せ方もうまく、やはり会話の妙とキャラの見せ方がよくできています。

アクションとゴア描写も一級

ついに強盗団による銀行強盗が始まると、ザラー監督のもう一つの持ち味である容赦のない人体破壊描写が炸裂します。銃で撃たれた拳から指が吹っ飛ぶなど、ありそうでなかった描写の連続には度肝を抜かれました。

その後、現場から遠く離れたアジトに到着した強盗団と、やさぐれ刑事2人の銃撃戦が始まるのですが、このアクションも実に最高。

強盗団のバンは防弾仕様、タイヤもエアレスなのでパンクさせることができず、リッジマンとトニーが乗っている普通のセダン車では対抗できません。

そこでリッジマンは、車高があるため倒れやすいというバンの欠点を突き、横から突っ込んでその機動性を奪うことにします。倒れて動けなくなったバンは強盗たちにとっては抜け出すことが困難な棺桶と化し、防弾仕様という堅牢さがメリットからデメリットへと転じます。

この頭の良い戦い方も最高でしたね。

しかもリッジマンは人数でも武装でも負けていることを認識しているので、バンを倒すとすぐにセダン車をバックさせて距離を空けます。

バンに閉じ込められてほぼ視界のなくなった強盗団に対し、こちらは離れた場所からその動きをつぶさに観察し、しびれを切らして出てきた犯人を一人ずつ狙撃するという作戦をとるわけです。現在わが方にあるメリットを最大限に生かしてパワーバランスをひっくり返すというこの作戦にも燃えました。

刑事の車になぜスナイパーライフルが積まれていたのかはよく分かりませんが、その無理にさえ目を瞑れば実にクレバーで素晴らしい見せ場となっています。さすがは元リーサル・ウェポン。

暴力の帰結は無情 ※ネタバレあり

ただ犯人も一方的に追い込まれるだけではなく、遅ればせながらこちらも知略を巡らせてきます。

念のため取っておいた人質を「家族を殺す」と言って脅し、刺客としてリッジマンとトニーの元に送り込むのですが、女性で、しかも下半身が裸という直感的に無防備さを感じさせる姿なので、刑事二人の警戒心も下がってしまい、まんまとその罠に嵌ってしまいます。

その結果、トニーが撃たれ、リッジマンの反撃によって人質女性は死亡するのですが、この辺りの胸糞な展開もザラーらしかったですね。

ちょっと前まで素晴らしい見せ場の連続に盛り上がっていたものの、やっぱり暴力ってイヤなものだなと冷や水を浴びせられました。

で、トニーは最後にスマホで恋人に電話をかけ、婚約指輪の隠し場所を教えてその反応を聞き出すのですが、結果は”ノー”。最愛の彼女からプロポーズを断られることを確かめてから死ぬという、こちらも夢も希望もない終わり方でした。

その後、リッジマンと強盗団のドライバーだけが生き残るのですが、二人とも家族のための金を欲しているだけの善人であり、ここは平等に手柄を分けて平和的に別れようという思いで一致します。

が、目の前に大量の金塊があって、手元には銃という状況で、ついさっきまで情け容赦のない暴力の渦中にいた相手を完璧に信用しきることもできず、「恐らく良い奴なんだろうけど、とはいえ相手がどう出るかは分からない」という些細な不信感が最後の殺し合いへと繋がっていきます。

こちらもまた、金や武器が人を狂わせ、それが無ければ起こるはずのなかった悲劇を起こすという、一般的な教訓にもなっていました。

こうした含蓄の深さも本作の魅力ですね。素晴らしい作品でした。

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