ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書【7点/10点満点中_バランス感覚に優れた社会派作品】(ネタバレあり感想)

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(2017年 アメリカ)
1971年。ワシントン・ポスト紙はベトナム戦争を分析した国防総省の最高機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」を入手するが、これを記事にすることには法律違反になるというリスクがあった。国民の知る権利のためにどれだけのリスクをとるのかという決断が編集デスクと経営陣に迫られる。

7点/10点満点中 単純なジャーナリズム礼賛映画ではない

鑑賞前の不安

実は危険な映画とジャーナリズムの蜜月

私は報道記者を英雄視する映画にはあまり賛同できません。『インサイダー』とか『消されたヘッドライン』は完全に記者を英雄視する立場をとっていましたけど、それはそれで偏ってんじゃないのと思うのです(なぜか両作ともにラッセル・クロウ主演ですね)。報道だってミスを犯すし、ミスを追及される側に回れば歯切れも悪くなる。マスゴミと言って罵るつもりはありませんが、彼らも一民間企業なのだから取材力にも負える責任にも限界はあるし、読者・視聴者にウケるということも考えねばならない立場なので、公益性のみで働いているわけではないのです。

1998年のインタビューにて、ロバート・レッドフォードは自身が主演した『大統領の陰謀』でジャーナリストを英雄視しすぎたことを後悔する発言をしています。映画が彼らを持ちあげすぎたために、正義を笠に着てまともな裏取り取材もせずに暴走する記者が増えてしまったと。映画とジャーナリズムの蜜月は必ずしも良いことではないというわけです。

スピルバーグの入魂ぶりがちょっと怖かった

実は本作には長く食指が伸びなかったのですが、それはスピルバーグが本作をトランプ大統領へのカウンターとして作ったと公言しており、ジャーナリズムの英雄の物語であるとまで言っていたからです。本作の監督が決まったのは2017年2月頃。スピルバーグは脚本を読んで「今すぐに映画化すべき題材だ」と思ったといい、そこから大車輪で製作に取り掛かって撮り終えたのは11月。そのままの勢いでポストプロダクションも完了させて12月には全米公開という驚異の早技で仕上げてみせたのですが、そこまでの執念には不安を覚えました。ジャーナリストを持ち上げて政府を落とすだけの一方通行のつまらない映画になってるんじゃないかと。また、主演がアメリカの良心みたいな男・トム・ハンクスだった点も不安材料のひとつでした。

安直な政府批判映画になっていない

しかしその不安は杞憂であり、本作は善悪二元論のつまらない社会派作品にはなっていませんでした。マクナマラは「戦争に勝っている」という役人からの虚偽報告に陰では憤慨しながらも、政府関係者として公の場ではその虚偽報告を肯定する立場をとらざるをえなかったことなど、国民に対してウソをついてしまった側にもそうせざるを得ない背景があったことがきちんと説明されているのです。そして、政府との対決姿勢をとろうとする現場の編集者たちを必ずしも肯定的には描いていないという点も重要でした。

攻める者の意見の偏りが描かれている

編集者・ベンは攻める側の視点しか持っていないんですね。「情報を持っているのに国民に知らせないことはジャーナリズムの死だ!」と誰も言い返せないような正論を言って自分の主張をどんどん押し進めようとするのですが、役員や顧問弁護士といった会社を守る側の意見を全然聞いていません。

ジャーナリストの彼にとっては株式上場もリーガル上のリスクもどうでもいいことなのかもしれませんが、会社にとっては死活問題です。そうした現実問題を報道の自由という美名の下でうっちゃってしまうという、ジャーナリストの悪い面がドバっと出ています。前述した通りマクナマラも守る立場の人間であり、情報を隠す者・権力に屈する者にもそれなりの事情があるのですが、ベンはそうしたものを一切理解しようとしないバランスの悪い人間として描かれています。

ジェンダー論・意思決定論としても面白い

女性だからという理由で軽視されてきたメリル・ストリープ演じる社主・キャサリンの意見を無視する人間の一人がベンだったことも重要です。記事を出すかどうかの喧々諤々の議論の後、リスクをとって記事を出すのだという意思決定に至ったのですが、当初ベンはその決定を自分の手柄だと思っていました。しかし、もし記事が原因で会社が傾いたとしても、ベンはこの華々しい実績を手土産にして他の新聞社に移籍すれば済む話でしたが、社主のキャサリンは会社と共に沈むしかない立場にあり、本当にリスクをとったのはキャサリンでした。この点、ベンには守る側の論理が見えていなかったし、女性であるキャサリンを仕事上のパートナーとして見ていなかったので、彼女がいかに重要な意思決定を下したのかという点に当初は気付いていなかったのです。本作のこの視点には恐れ入りました。

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監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:リズ・ハンナ、ジョシュ・シンガー
製作:エイミー・パスカル、スティーヴン・スピルバーグ、クリスティ・マコスコ・クリーガー
出演者:メリル・ストリープ、トム・ハンクス、サラ・ポールソン、ボブ・オデンカーク
音楽:ジョン・ウィリアムズ
撮影:ヤヌス・カミンスキー
編集:マイケル・カーン
製作会社:ドリームワークス、アンブリン・パートナーズ、アンブリン・エンターテインメント、パスカル・ピクチャーズ、スター・スローワ・エンターテインメント、20世紀フォックス、パーティシパント・メディア
配給:20世紀フォックス(米)、ユニバーサル・ピクチャーズ(世界)、東宝東和(日)
公開:2017年12月22日(米)、2018年3月30日(日)
上映時間:116分
製作国:アメリカ合衆国

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