フォードvsフェラーリ_ドラマも見せ場も素晴らしすぎる【9点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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実話もの
実話もの

(2019年 アメリカ)
笑いと湿っぽいドラマの絶妙なバランス、そしてド迫力のレースシーンとすべての要素が高いレベルで完成されており、文句なしの傑作と言えます。2020年中にこれを越える映画が現れるのかと不安になったほどです。

©Twentieth Century Fox

あらすじ

1963年、販売不振にあったフォードは若者受けするためにはスポーツカーが必要であると考え、経営難にあったフェラーリを買収しようとするが土壇場で破断した。これに激怒した社長のヘンリー・フォード2世は欧州勢に押されっぱなしだったル・マン24時間レースに出場し、優勝することを目標に掲げる。

登場人物

  • キャロル・シェルビー(マット・デイモン):ル・マンでの優勝経験のある唯一のアメリカ人レーサー。心臓の持病が原因で引退後はレーシングカーを製造するための会社シェルビー・アメリカンを設立し、ル・マン制覇を目指すフォードからの業務を受託した。
  • ケン・マイルズ(クリスチャン・ベール):カリフォルニア在住のイギリス人レーサー。トップクラスのレーシング技術を持つが気難しい性格のためにスポンサーがつかず、自動車整備工場を経営して生計を立てつつレースに出ている。旧知のシェルビーからの誘いでフォードのプロジェクトに参加した。
  • ヘンリー・フォード2世(トレイシー・レッツ):自動車王ヘンリー・フォードの孫で、フォード社長。エンツォ・フェラーリから受けた酷い言葉が原因でル・マンでの打倒フェラーリという目標を掲げた。
  • リー・アイアコッカ(ジョン・バーンサル):フォード社マーケティング担当役員。ベビーブーマーの心を捉えるためには大衆車ではなくスポーツカーが必要と考え、財政難にあったフェラーリの買収話を進めたが、フィアットへの身売りの当て馬に使われたのみという散々な結果に終わった。
  • レオ・ビーブ(ジョシュ・ルーカス):フォード社副社長。腰巾着タイプの人物であるため、一匹狼タイプのケン・マイルズを嫌っている。

感想

ド迫力のレースシーン

主人公の一人キャロル・シェルビーが優勝したル・マンのレースから映画は始まるのですが、レーシングカーの助手席にでも座っているかのようなアングルとカメラワークに、マシーンのあげる轟音と、これまで見たどの映画よりも迫力のあるレースシーンに仕上がっていました。

劇中ではこうした迫力あるレースシーンが何度も登場し、その度に思わず力が入ってしまうのですが、これは映画館の大スクリーン・大音量で見てこそ。私はIMAXで鑑賞しましたが、なるべく設備の良い映画館で見ることをおすすめします。

説得力ある語り口

脚本は数年に及ぶ開発秘話を2時間20分にまとめているのですが、非常に説得力ある語り口が目を引きます。

例えばフォードのプロジェクトに参加する前のケン・マイルズが出場する国内レースの場面。それを観戦するキャロル・シェルビーが口頭で「今は抑えろ」「ここでスピードアップ」などとつぶやいているのですが、実際にコースを走っているケンがその通りの動きをしている。この場面を見れば、ケンが優秀なレーサーであることが観客にも伝わってきます。

また、最初のル・マン敗退後にシェルビーがフォードの組織の弱点を役員達に説明する場面。彼が待合室に居る時にたまたま見かけた秘書や事務員たちの書類のやりとりを例に出して、社長が見る前に何人もの部下が書類を見て判断を下している。こんな組織ではリーダーシップなど発揮できず、リーダーシップのない組織では戦争には勝てないという旨の発言をします。これもまた、当時のフォードの状況を示すにあたっての分かりやすい説明となっています。

設定や状況を観客に飲み込ませるための小エピソードの組立がめちゃくちゃによくできており、ドラマがうまく流れていました。

不器用な男ケンのドラマが感動的

ケンは、腕は良いのだが態度の悪さが祟ってスポンサーがつかず、庶民的な生活を送りながらなんとか費用を工面して国内レースに出場し続けているレーサーです。レース後には破産寸前の財政状況にまで追い込まれ、自身が経営する自動車整備工場を税務署に取られたりもしました。

こんな苦しい状況にも関わらず、シェルビーからの誘いにはなかなか乗らないので「なぜこんなにもトゲトゲしくしているんだろう」と思うのですが、なんやかんやあってシェルビーのチームに入ってからは職人的な仕事でチームに貢献し、純粋に車を愛している人なんだということが伝わってきます。

そして、車を愛してもいないのに口出しをしてくる大企業の役員が苦手だということも見えてきます。従前のトゲトゲしさはここに端を発していたのです。実は深い愛情を持っているのだが、不器用さゆえに周囲に誤解を与えている人物。こういう人を見ていると、何だか切なくなってきますね。

そんな彼も、ル・マンに出たい、勝ちたいという熱い思いの中でチームワークを覚えていきます。この過程は王道ながらもよく出来ており、この中年男のドラマには感動させられました。

※ここからネタバレします。

タイトルがミスディレクションだった

クライマックスのル・マンは意外な展開を迎えます。フェラーリ全車がレース途中でリタイアし、フォードチームは敵失するのです。史実を予習せずに見に行った私はフォードがフェラーリを下す話だとばかり思って見ていたので、途中で敵が姿を消すという展開には呆気に取られました。それと同時に、まだレースは続く中で、この映画は一体何を描くんだろうかと不安になったのですが、ここからがドラマの本番でした。

勝ちが決まったフォードの重役達は「フォードのチームは3台横並びでゴールしよう」と訳の分からんことを言い出し、ダントツトップを走っているケンに対してゆっくり走れとおかしな指示を出してきます。さぁここでケンがどう判断するのかというところで観客の関心を引き、心の成長を果たしたケンがとった優しい選択肢が皮肉にも彼から栄光を奪ってしまいます。

レースで勝利するというさわやかな終わり方ではなく、レースに勝つのは難しくなかったが、その先に待っていたのはハッピーエンドではなかったという重苦しいドラマを迎え、予想とのギャップにしばし呆然としてしまいました。

『フォードVSフェラーリ』というタイトル自体が、観客に対するミスディレクションだったわけです。映画全体を貫くこの大仕掛けには脱帽させられました。

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