リミット・オブ・アサシン_ラストの討ち入りは大迫力【6点/10点満点中】(ネタバレなし・感想・解説)

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エージェント・殺し屋
エージェント・殺し屋

(2017年 アメリカ・中国・南アフリカ)
話がとっ散らかっており、主人公の行動原理すら説明できていないので映画としての出来は悪いのですが、スタントマン出身監督の手腕でアクション演出がとにかく素晴らしく、アクションを見るための映画と割り切って鑑賞するなら全然いける出来でした。

©Saban Films

あらすじ

南アフリカに拠点を置く民間軍事会社レッドマウンテンは、戦争犯罪を告発しようとしている元従業員キースの暗殺を企てたが、インターポールのリン捜査官(シュイ・チン)からの反撃で失敗に終わる。

次にレッドマウンテンは引退した凄腕の殺し屋トラヴィス(イーサン・ホーク)を復帰させ、キースとリンの殺害を命じる。トラヴィスはリンに接近したが殺害を躊躇し、逆にリンに射殺される。

レッドマウンテンはトラヴィスの死体を蘇生させてリンとキースの居場所を聞き出し、その後にトラヴィスを殺そうとするが、ラボを逃れたトラヴィスはリンとキースをレッドマウンテンから守ることにする。

スタッフ・キャスト

監督はスタントマン出身のブライアン・スムルツ

監督のブライアン・スムルツは80年代よりスタントマンとして膨大な数のハリウッド大作に関わり、2000年頃からは第二班監督も務めるようになって『X-MEN』シリーズや『ダイ・ハード4』(2007年)などの大作に参加しています。

スタントマン出身の監督と言えば、ちょっと前だと『デッドコースター』(2003年)、『スネークフライト』(2006年)のデヴィッド・R・エリス、最近だと『ジョン・ウィック』シリーズのチャド・スタエルスキなどがいて、彼らに共通するのは撮影現場を知り尽くした者ならではのダイナミックなアクション演出にあるのですが、スムルツもまた、本作で見事なアクションを見せています。

同時に、お話の方がアレだということもスタントマン出身監督に共通する特徴なのですが、スムルツも同じ傾向を示しています。

脚本は『S.W.A.T.』(2003年)のコンビ脚本家

ロン・ミタとジム・マクレインが脚本を執筆しています。この二人はコリン・ファレルとジェレミー・レナーが戦った割にイマイチ盛り上がりに欠けた『S.W.A.T.』(2003年)の原案や、トム・ベレンジャーが10年ぶりにトーマス・ベケットに復帰したが前作とは比べ物にならないほど緊張感のなくなった『山猫は眠らない2 狙撃手の掟』(2002年)などで知られるコンビ脚本家。本作でも、さほどレベルの高くなかった過去作品とどっこいレベルの脚本を書いています。

抜群の作品選別眼を持つイーサン・ホーク主演

1970年生まれ。子役として活躍した後に学業で一時休止し、90年代に大人の俳優として復帰。純粋な娯楽作やメジャー作品に出演することは少ないのですが、『恋人までの距離(ディスタンス)』(1995年)、『ガタカ』(1997年)、『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年)、『プリデスティネーション』(2014年)など、中規模ながら映画ファンから愛される作品に多く出演しており、その作品選別眼はしっかりとしています。

ただし、本作はチョイスをミスっちゃったかなという感じですが。

共演は中国の国民的女優シュイ・チン

1969年北京生まれ。ってイーサン・ホークよりも年上だったのかと、この記事を書きながら驚きました。本作制作時点では47歳か48歳だったと思われますが、映画では30代前半にしか見えませんでした。

『人生は琴の弦のように』(1990年)でいきなり主演デビュー。2001年と2003年には中央電視台が選ぶ人気女優ランキングで1位を獲ったほど本国での人気があるようです。ライアン・ジョンソン監督の『LOOPER/ルーパー』(2012年)でハリウッドデビューし、本作がアメリカ映画2作目となります。

シュイ・チンさん
これで40代後半とは…

感想

導入部がまどろっこしすぎる

本作の導入部はこうです。

  • 主人公トラヴィスは凄腕の殺し屋だった
  • 妻子を失ったショックで戦う意欲を失くし、1年ほど休業状態にあった
  • 高額ギャラと引き換えに殺し屋業に復帰
  • 任務の過程で殺しを躊躇し、ターゲットからの反撃を受けて死亡
  • 生き返ると残された24時間で組織への反撃を開始

なんでしょうね、この行ったり来たり感は。殺し屋としてのスイッチが切れる/入るを都合2往復もしているので、とてもまどろっこしく感じました。

加えて殺し屋スイッチが切れた時の感傷的なモードにもさして観客の感情に訴えかけるものがないので、これならばずっとスイッチオンの状態で凄腕の殺し屋が組織への反撃を開始するというストレートな話にした方が全体の通りが良かったと思います。

そういえば昔ジェイソン・ステイサム主演の『アドレナリン』(2006年)という本作と似たような映画があって、面白そうな見せ場を繋ぎ合わせただけのバカ映画だとばかり思っていたのですが、あちらは明確な目的に向けて物語が一方向に進んでおり、実はよく考えられた映画だったことに本作を見て気付きました。

主人公の行動原理が整理されていない

導入部の行ったり来たり感にもよく表れているのですが、トラヴィスの行動原理がまったく整理されていません。

イヤイヤながらも自分なりに腹を括って殺し屋稼業に復帰したのに、なぜ土壇場でリン殺害を躊躇したのか。リンに殺されたのに、なぜ復活後にはリンを守るという行動に出たのか。復活後の持ち時間がたったの24時間しかない中で、あれほどイヤになっていた戦いに再度身を投じて残り時間を使い切ることにした心境の変化とは何だったのか。

最後まで見れば、主人公が組織に対して反撃すべきある事柄が明かされるのですが、それは主人公自身も終盤でようやく知りえた情報であり、組織への反撃を開始し始めた時点での動機にはなっていません。

アクションが素晴らしすぎる

そんな感じでお話は全然ダメだったのですが、アクションが非常に素晴らしく、この点で作品全体が救われています。

例えば改造された直後のトラヴィスがラボから脱出する場面。曲がり角から突然現れる敵兵の急所を的確に仕留める様はプロの暗殺者っぽかったし、バン!バン!という発射タイミングも耳に心地よいもので、派手さはないもののアクションを良く知っている人が撮ったんだなという抜群の安定感がありました。

中盤のギャングvs傭兵の銃撃戦は一瞬意識の飛んだトラヴィスの主観で描かれ、すべてがスローモーションで音も遠くに聞こえるという情緒的な表現でアクションが描かれます。

かと思えば、次の瞬間では意識を取り戻したトラヴィスが「追跡するぞ!」と言って、銃撃戦の場から逃れた敵車両を追いかけるカーチェイスが始まるのですが、スローモーションで描かれた銃撃戦との対比で、物語がクライマックスに向けて急加速するような高揚感がありました。

個々のアクションの完成度の高さ、そしてアクションにおけるテンポの作り方において、監督のブライアン・スムルツのセンスは卓越しています。そして、その頂点と言えるのがクライマックスの大銃撃戦でした。

至近距離から大量の銃弾を撃ち合うジョン・ウースタイルの銃撃戦が炸裂し、お懐かしい二丁拳銃も披露されるのですが、『男たちの挽歌Ⅱ』(1987年)の模倣としては過去最高とも言えるクォリティであり、この銃撃戦を見られて良かったなぁと心から感動しました。

21世紀に炸裂した二丁拳銃

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