ザ・コールデスト・ゲーム_緊迫感が凄い【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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陰謀
陰謀

(2019年 ポーランド)
1962年のキューバ危機を背景に、チェスの米ソ親善試合と諜報戦を組み合わせたというごった煮感が凄く、多少の粗さは感じました。ただし肝心の諜報戦には緊張感が張り詰めており、上映時間もコンパクトで見やすく、最初から最後まで一気に見せられる良作でした。

あらすじ

1962年、元数学教授のマンスキーはニューヨークの酒場で賭博をして稼いでいたが、ある夜、元教え子を名乗る女性からの接触を受けた直後に、睡眠薬を打たれて輸送機に乗せられた。到着したのはワルシャワのアメリカ大使館であり、数日後に開催されるチェスの米ソ親善試合にチェスプレイヤーとして参加するようにと言われる。実は親善試合の裏側では米ソの諜報戦が繰り広げられており、キューバ危機の最中において、アメリカ政府はジョン・ギフトと呼ばれるソ連の政権中枢にいる内通者と接触し、ソ連の核武装にかかる情報を入手しようとしている。

スタッフ・キャスト

監督・脚本はポーランド人のウーカシュ・コシミツキ

1968年ポーランド出身。元は撮影監督としてポーランド映画界で活躍し、その後に脚本も書くようになったという変わり種。脚本家としての代表作は『ダーク・ハウス/暗い家』(2009年)です。

主演は『インデペンデンス・デイ』の大統領ビル・プルマン

1953年ニューヨーク州出身。1980年代より多くの映画に出演してきたのですが、出演本数の割に観客の印象に残らない影の薄いイケメンでした。転機となったのは『インデペンデンス・デイ』(1996年)の大統領役で、ここで映画史上もっともかっこいい大統領演説をかまして人気を博したのですが、その後は再びよく見かけるが全然印象に残らない俳優に戻りました。本作では飲めば飲むほど強くなる『酔拳』のジャッキー状態の天才チェスプレイヤー役を演じています。

なぜ今ビル・プルマンなのかと思ったのですが、当初キャスティングされていたウィリアム・ハートが撮影数日目で足を骨折し、出演の継続ができなくなったために急遽プルマンが呼ばれとのことでした。その経緯も含めてプルマンらしいのですが、本作では意外と良い演技を見せています。

登場人物

アメリカ陣営

  • ジョシュア・マンスキー(ビル・プルマン):元プリンストン大学の数学教授で、天才的な頭脳の持ち主。アルコール中毒であり、現在はNYの場末の酒場での賭博で稼いでいる。アメリカのチェス王者コニグスバーグの突然死により、ソ連代表との親善試合への出場を急遽要請された。
  • エージェント・ストーン(ロッテ・ファービーク):所属は明らかにされないが、恐らくCIA。ワルシャワでのマンスキーのサポートと、裏での諜報作戦遂行を行っている
  • エージェント・ホワイト(ジェームズ・ブルーア):ストーンと同じく所属は明かされないが、恐らくCIA。
  • ドナルド・ノヴァク(コリー・ジョンソン):ワルシャワのアメリカ大使館付きの武官。

共産主義陣営

  • アレクサンダー・ガヴリロフ:ソ連のチェスチャンピオンでマンスキーの対戦相手。
  • クルトフ将軍:ソ連代表団の武官で、おとり捜査を指揮している。
  • 支配人:会場となるワルシャワの文化科学宮殿の責任者。表面上はソ連に従っているが内心ではアメリカを応援しており、酒を必要とするマンスキーにこっそり酒を提供するなど最大の協力者になる。

キューバ危機とは

本作は1962年に起こり、米ソが核戦争寸前にまでいったキューバ危機を背景としています。キューバ危機の概要は以下の通りです。

1962年10月から11月にかけて、ソビエト連邦がキューバに核ミサイル基地を建設していることが発覚、アメリカ合衆国がカリブ海でキューバの海上封鎖を実施し、米ソ間の緊張が高まり、核戦争寸前まで達した一連の出来事のこと。冷戦の一つのピークとなった事件である。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%90%E5%8D%B1%E6%A9%9F

感想

チェスはほとんど関係ない

チェスの東西親善大会を舞台にし主人公はチェスプレイヤーなので、トビー・マグワイヤ主演の『完全なるチェックメイト』(2014年)を思い出したのですが、同作が米ソの代理戦争の様相を呈したチェスの試合を題材にしていたのに対して、本作はチェスの試合を隠れ蓑にした諜報戦が描かれており、実際には似て非なるものでした。

これは脚本の妙なのですが、観客の関心がチェスに向きすぎないようにうまい設定が準備されています。主人公のマンスキー(ビル・プルマン)は実力でソ連代表ガヴリロフを圧倒しており、多少手を抜いても余裕で勝てるという設定にされているのです。この構図により、チェスの勝敗は作品において重要ではないという製作者達の意図がすんなりと視聴者側にも伝わってきました。

事情の入り組んだ諜報戦はやや複雑

本作の主題はキューバ危機を背景にした米ソの諜報戦です。

ソ連の政権中枢に通称ジョン・ギフトと呼ばれるアメリカへの内通者がいたが、アメリカ側にもソ連への内通者が居たらしく、情報漏洩を知ったソ連当局のおとり捜査によってジョン・ギフトからの連絡は途絶えるようになりました。

しかし時は米ソが開戦寸前にまでいったキューバ危機の真っただ中。強硬か宥和かの判断のためにもアメリカはジョン・ギフトの流す極秘情報を必要としており、第三国ポーランドで行われる米ソのチェス親善試合に紛れてジョン・ギフトと直接接触し、必要な情報を入手しようとしています。

ただし、アメリカの諜報機関にも内通者が居たことからジョン・ギフトは慎重になっており、おとり捜査時点で諜報活動に関わっておらず、絶対に内通者ではないと言えるチェスプレイヤーがジョンとの接触役になります。

なぜチェスプレイヤーがジェームズ・ボンドの真似事をしなければならなかったのかが論理的に説明された見事な設定ではあるのですが、少々ややこしくて理解に手こずります。この辺りは、まだ監督経験の少ない脚本家出身監督の弱みが出たように感じます。

二転三転する展開は面白い

ただし、設定さえ理解してしまえば二転三転する諜報戦はかなり面白く、東西冷戦時代のピンと張りつめた空気感や、共産圏特有の息苦しい空気の醸成にも成功しており、緊張感が最後まで途切れることはありませんでした。

ここで、ポーランド人が製作したポーランド映画であることの意義が出てきます。ソ連の軍人の傲慢さや暴力性は、もしハリウッドで作られていればステレオタイプ的として非難の対象にされたかもしれませんが、実際にソ連に支配され、その性質も理解しているポーランド人の映画だからこその説得力がありました。

主人公の危なっかしさが良いアクセント

もうひとつここでポイントになってくるのが、主人公が諜報戦のプロではなく、ただのチェスプレイヤーだということです。しかも主人公のマンスキーは脳の活動が活発すぎてシラフでは変人であり、酒を飲んで思考力が多少落ちたくらいで普通の人間と同じくらいになるという特殊な設定が置かれています。

酒を飲んでいない時は何をしでかすか分からない変人、脳が安定しているのは酒に酔っている時なので、これはこれで何をしでかすか分からないという非常に危なっかしい人物像となっています。

寸分のミスも許されない諜報戦に、こうした危なっかしい人物が入ってくると緊張感は余計に増します。なかなか面白い設定を考えたものだと感心しました。

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