未来を生きる君たちへ【5点/10点満点中_主張は素晴らしいのだが映画としての面白みに欠ける】

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5点/10点満点中

■スサンネ・ビア監督のアカデミー賞受賞作

テレビドラマ『ナイト・マネジャー』が素晴らしい出来だったことから全話の監督を担当したスサンネ・ビアに興味を持ち、本作に辿り着きました。アカデミー賞とゴールデングローブ賞をダブル受賞した名作という看板には期待をかき立てられる一方で、道徳の教材みたいな邦題にちょっと不安を感じさせられたりもしたのですが、暴力や復讐に対する考察にはオリジナリティがあって楽しめました。ただし主張の興味深さと映画としての面白さは必ずしも一致しないもので、映画としては面白くありませんでした。

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■暴力との向き合い方がテーマ

通常、この手の映画では「暴力とは空しいものであり、話せば分かり合えるものです」か「暴力に訴えても復讐の連鎖が始まるだけです」という落としどころとするのですが、そんな月並みな内容としていないのが本作の興味深いところです。いじめっこ、DQN、軍閥の全員に同情すべき点が微塵もなく、どうしようもなく悪い奴、決して分かり合えない奴は存在するのだという現実世界の理不尽さを前提条件として据えた上で、あなたはどうやってこんな人たちと向き合いますかということがテーマとされています。この切り口は面白いと感じました。

いじめっこによる嫌がらせや威嚇という子供の世界の暴力

いじめられっこエリアスと転校生のクリスチャンは学校でのいじめに遭遇しますが、クリスチャンはいじめグループのリーダーに的を絞り、壮絶な暴力に訴えることでいじめっ子という脅威を排除しました。この暴力に対しては、暴力による対抗が成果を上げます。「暴力や報復は何も生み出さない」という大人の世界の綺麗事よりも、「完膚なきまでに打ちのめせば、相手は仕掛けてこなくなる」というクリスチャンの主張の方が正しく、抑止のための暴力・守るための暴力の効果を本作は一定程度認めます。

アントンが運悪く街のDQNに絡まれるという大人の世界の暴力

公園での些細な子供同士のトラブルがきっかけで相手方の父親(DQN)が現れ、エリアスの父・アントンを殴るという事件が発生。アントンは殴り返すでもなく警察に届け出るわけでもなく、「ああいう程度の低い人間はほっときゃいいんだよ」という態度をとるのですが、その場にいたクリスチャンは納得できませんでした。

そこでクリスチャンは、こちらについても暴力に訴えることで復讐してやろうとするのですが、これが大失敗の元でした。逃げても追いかけてくる①のいじめっこの脅威という逼迫した問題とは違い、こちらについては復讐心を胸にしまい、DQNが居る場所を避けて通れば済むだけの話だったのですが。

遊び半分で他人を殺し、その死をあざ笑うという紛争地帯の暴力

アントンが働くアフリカの難民キャンプに、ビッグマンと呼ばれる軍閥の長が重傷の治療を求めてやってきました。このビッグマンは妊婦の腹を切り裂くという残虐行為を働くことで知られた極悪人であり、アントンは医師として救いの手を差し伸べるべきか、それとも生かしておく必要のない命として見殺しにすべきかという選択を迫られます。いったんは医師としての選択をしたものの、一命を取り留めてもなお犠牲者を口汚く罵るビッグマンの屑っぷりに我慢できなくなったアントンは彼を診療所から放り出し、ビッグマンは集団リンチを受けるのでした。

■共感可能な登場人物がいない

上記の通り、個別のエピソードはそれなりに面白いのですが、全体としてはイマイチという感想でした。その理由としては、見ていてイライラさせられる人物が何人かいたという点が考えられます。

学級委員長的な態度が鼻に付くアントン

アフリカの難民キャンプで働く医師という肩書が示す通り、アントンは良識に沿った判断を常に下し、「暴力はいけないよ。話し合えばわかり合えるんだから」みたいな薄甘いことを言う人なのですが、その主張があまりに行き過ぎているので私にはちょっと受け付けませんでした。

ビッグマンなんて彼の働いた残虐行為の履歴を考えれば活かしておくことが害悪でしかなく、「医師として彼を救うべきでしょうか」と逡巡するまでもない相手なのですが、アントンはひたすら悩むわけです。この悩みの時間が私には無駄に感じられました。

またDQNに絡まれた後の対応にも違和感がありました。目の前で父親が殴られたことを子供たちがうまく処理できていないようだから、もう一度子供たちと一緒にDQNのところに行って謝罪と説明をさせようとするわけですが、まともな大人ならこんなことしませんよね。求めたところで謝罪などしてくる相手ではないことは明確で、子供への教育上望まれる結果がもたらされないことは確実だから。しかもアントン、「あなたの暴力に私は納得できていません。説明してください」と学級委員長みたいな言い方でDQNをイラ立たせるものだから、バカにしか思えませんでした。あなたは小学生かと。

あと、これを受けたDQNの反応も中途半端で、彼はビンタをしてくる程度。現実世界でこの手合いに挑むとなれば、引きずり倒されて殴る蹴るの暴行を受け、周りが止めに入ってようやく収まるような修羅場を覚悟するところですが、この辺りの描写が物凄くマイルドで作り物っぽくなった点は大きなマイナスでした。監督が女性であるがゆえか、本当の暴力沙汰に巻き込まれたことのない人が撮ってるなぁという感じになってしまっています。

アントンのバカ嫁

息子のエリアスが重傷を負ったことでクリスチャンを恨む気持ちは理解できますが、そうは言ってもエリアスはクリスチャンと共犯関係にあって一方的な被害者ではないし、そもそも相手は子供です。こうした前提条件があり、かつ、クリスチャンが深く反省と後悔をしている状況で「エリアスは死んだ」などとウソをつくことは言葉の暴力です。実際、彼女の言葉はクリスチャンを自殺未遂にまで追い込みました。こういう無分別な人間は見ていて本当にイライラします。しかも、本人は被害者意識に凝り固まっていて、クリスチャンに対して悪いことをしたという認識すら持っていないのです。いじめっこやDQNを見ているよりも腹が立ちました。

In a Better World

監督:スサンネ・ビア

脚本:アナス・トマス・イェンセン

原案:スサンネ・ビア、アナス・トマス・イェンセン

製作:シセ・グラム・ヨルゲンセン

製作総指揮:ピーター・アールベーク・ジェンセン

出演者:ミカエル・パーシュブラント、トリーヌ・ディルホム、ウルリク・トムセン

音楽:ヨハン・セデルクヴィスト

撮影:モーテン・ソーボー

編集:ペニッラ・ベック・クリステンセン、モーティン・エグホルム

製作会社:Zentropa

配給:ロングライド(日)

公開:2010年8月26日(デンマーク)、2011年8月13日(日)

上映時間:118分

製作国:デンマーク、スウェーデン

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