ベン・ハー(1959年)【5点/10点満点中_勧善懲悪の物語と宗教的テーマが乖離した歪な名作】

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古代

[1959年アメリカ]

5点/10点満点中

■時代を感じさせない見応え

製作年度を考えると驚異的としか言いようのない作品。クラシックと呼ばれる作品の大半が骨董品としての価値に留まっている中で、60年後の観客にも感嘆を持って受け入れられる作品はそう多くありません。本作が製作されたのは昭和34年ですよ。テレビ朝日が開局した年ですよ。第一回レコード大賞があった年ですよ。その時代に、これだけの見せ場を持った作品が製作されたことには敬意を抱きます。

■本質は宗教映画

ただし” a tale of the Christ”の副題が示す通り本作はド直球の宗教映画であり、その宗教臭さはハンパなものではありませんでした。主人公のジュダ・ベン・ハーよりも先にイエスの誕生が描かれ、オチもキリスト教ネタ。キリスト教徒でもなければ信仰心もない私にとっては、なかなかキツイものがありました。ベン・ハーとメッサラの因縁に決着が着いてからの1時間なんて拷問に近く、何度も寝落ちしかけました。

本作はハリウッドが製作したからこそ歴史に残る評価を受けているのでしょうが、他の宗教がこれと同種の作品を作れば、信者にしか楽しめないカルト扱いされていたはずです。

■テーマと物語が不整合を起こしている

作品は、イエスの磔刑を目にしたジュダがその教えに心奪われ、信仰心が起こした奇跡によって家族ともども救われる展開で幕を下ろします。作品のテーマはここにあったと考えられるのですが、他方で物語の骨子は復讐劇であり、中盤で我々はジュダがメッサラへの復讐を遂げたところで留飲を下げたにも関わらず、その直後に「汝の敵を愛せよ」と説かれたことには相当な違和感がありました。中盤までの展開と終盤がまったく繋がっておらず、どう思いながらこの映画を見ていいのかを私は見失いました。

「目には目を歯には歯を」から「汝の敵を愛せよ」に変化したジュダの心境の移り変わりや、激しい怒りの中でかつての親友・メッサラを殺してしまったことへの後悔といった、物語とテーマを繋ぐためには必要だった描写が欠けているために、同一作品内で主張の断絶が発生しているように見えているのです。これは大失敗だったと思います。

■勧善懲悪の物語で寛容を説くという矛盾

また寛容を説く宗教映画であるにも関わらず、憎まれ役のメッサラが純粋悪として描写されている点もおかしいと感じました。支配者側のメッサラと被支配者側のベン・ハーでは論理も大儀も違うわけで、結果的にベン・ハーにとって苦しい沙汰が下されたとしても、その判断主体であるメッサラが100%悪いわけではなく、そこには両者の立ち位置の違いが大きく影響しています。しかし、作品はそんなメッサラ側の事情をほぼスルーし、ベン・ハーのみに思いっきり擦り寄るものだから、テーマと物語が乖離しているように感じるのです。

物語の起点となる瓦がローマ軍に落ちてしまったという件にしても、あれは人が死ぬかもしれなかったハー家の過失だった上に、当時の国際情勢を考えればテロを疑われても仕方のない状況はあり、ローマ帝国やメッサラだけが非難される筋合いの件ではなかったように思います。こうした双方向的な視点のなさが、作品のリミッターになっているような気がしました。

■ベン・ハーの行動もちょいちょいおかしい

また、ベン・ハーの行動にも所々に違和感があり、こちらでも感情移入が難しかったです。世継ぎを失ったローマの大将軍の養子になりながら「やっぱ自分はユダヤ人なので、国に帰ります」と言って義理の親父の元を離れるくだりなんて、なんという恩知らずだと思ってしまいました。安否の分からない実の家族と、恩のある今の家族との間での葛藤を描けばひとつの山場になったものを、こういう面白くなりそうな部分を切り落としているのだからもったいない限りです。

Ben-Hur
監督:ウィリアム・ワイラー
脚本:カール・タンバーグ、マクスウェル・アンダーソン(表記なし)、クリストファー・フライ、ゴア・ヴィダル(表記なし)、S・N・バーマン(表記なし)
原作:ルー・ウォーレス
製作:サム・ジンバリスト、ウィリアム・ワイラー(表記なし)
出演者:チャールトン・ヘストン、スティーヴン・ボイド、ジャック・ホーキンス、ヒュー・グリフィス、マーサ・スコット、キャシー・オドネル
音楽:ミクロス・ローザ
撮影:ロバート・L・サーティーズ
編集:ジョン・D・ダニング、ラルフ・E・ウィンタース
製作会社:MGM
配給:MGM/ロウズ・シネプレックス・エンターテインメント(米)、ワーナー・ブラザース(日)
公開:1959年11月18日(米)、1960年4月1日(日)
上映時間:212分
製作国:アメリカ合衆国

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公認会計士の理屈っぽい映画レビュー

コメント

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    ルー(ウィリアム)・ウォーレスは米史に残る有名人。彼が知事をしていた時代にビリー・ザ・キッドと係りをもっていたことがペキンパーの映画「ビリー・ザ・キッドとパット・ギャレット」にも描かれています。
    ルー(ウィリアム)・ウォーレス:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%82%B9

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    >洋画に用がありさん
    コメントいただき、ありがとうございます。原作者についてはあまり考えたことなかったのですが、そんなに有名な人物だったんですね。