(2000年 アメリカ)
娯楽アクションとして面白く、ドラマ面でも充実しているという、映画とはこうあって欲しいと思う理想形のような作品。リドリー・スコットの演出は普段に増してキレッキレで、ラッセル・クロウ、ホアキン・フェニクスからはキャリア最高の演技を引き出せている。
感想
ラッセル・クロウがアカデミー賞受賞
公開時に劇場でみたけど、あまりの面白さに2回見に行った。
24年ぶりの続編が来週公開されるのであらためて鑑賞したけど、やっぱり面白い。
無欲だが能力と人徳に溢れたローマの大将軍マキシマス(ラッセル・クロウ)が、その圧倒的魅力とカリスマ性ゆえに望まぬ政治闘争に巻き込まれる。
妻子は殺され、自身も処刑寸前で逃亡。生きる意欲を失いボロボロになったところを剣闘士として売られるが、これまた圧倒的な剣術スキルでメキメキと頭角を現す。
その名声はついに首都ローマにまでおよび、スター選手としての人気と知名度、元将軍としての影響力から、再び政治闘争の渦中に巻き込まれるというのが、ざっくりとしたあらすじ。
冒頭、ゲルマン人との最終決戦に向けてテキパキと戦術を指示し、また演説によって部下達を鼓舞するほんの数分で、マキシマスの男ぶりが伝わってくる。
当時のラッセル・クロウはネクストスター枠の筆頭だったと思うが、ファーストカットの時点から溢れるオーラとカリスマ性で、マキシマスという人物を見事に体現して見せる。
クロウは本作でアカデミー主演男優賞を受賞したが、その評価にも納得である。
なおマキシマス役の有力候補として当時の大スター メル・ギブソンの名前も上がっていたが、ギブソンは2500万ドルという記録的な出演料をソニーから受け取って、ローランド・エメリッヒ監督の『パトリオット』(2000年)に主演した。
作品のハイライトともいえるのがコロッセオでの初戦で、マキシマスら田舎の剣闘士は、ヤラレ役として最低限の盾と槍だけを渡されて闘技場のど真ん中に立たされる。
そこに襲い掛かってくるのが戦車に乗り、弓で武装した都会の剣闘士たち。
「殺せ!殺せ!」と盛り上がる観衆。
しかしマキシマスは冷静だった。味方に指示して素早く防護陣形を作り、出会い頭の攻撃を跳ねのけることで敵側の調子を乱した後は、隙に付け入る形で敵を一人ずつ切り崩していく。
「え?あいつらがヤラレ役じゃなかったの?」としばし呆然とする観衆たちだが、そのうち「あの田舎の奴らかっこいい!最高!」とマキシマスらの活躍に熱狂し始める。
圧倒的不利からの逆転と、それに反応する大衆たち。
何度見ても気が狂いそうになるほど燃える名場面である。
ホアキン・フェニックス、圧巻の小物ぶり
そしてマキシマスを陥れるのはホアキン・フェニックス扮するコモドゥス。
五賢帝の一人として名高いマルクス・アウレリウス・アントニヌス帝を父に持ち(なんて長い名前なんだ)、ゆくゆくは尊敬する父の後を継いで皇帝の座に就きたいと思っている可愛い奴だが、問題は資質に欠けていることだった。
父からはっきりと「お前には後を継がせん」と言われたことで激高し、密室で父を殺害。
「臨終で僕が皇帝に指名された」とウソをついてちゃっかり帝位を手中に収めるも、周囲からは「んなわけねぇだろ」と思われている。
そして致命的だったのが、直前にマキシマスが帝位継承の打診を受けていたことだった。
はっきりと疑いの目を向けるマキシマスと、「ヤベェ・・・」と焦りの表情を見せるコモドゥス。絶体絶命のピンチである。
が、こういうタイプは自己の安全に関わることにだけは素早くかつ的確に反応するもので、父帝殺害容疑でマキシマスが動き出すよりも先に行動し、逆にマキシマスを不敬罪で処刑する。
かくしてマキシマスvsコモドゥスの図式が完成するのだが、父の愛情を得られなかった不憫な息子という点が泣かせる。
父がマキシマスの勝利に喜んでいる様子なら、翌朝には早起きして武芸の稽古を始める律儀な性格なのだが、生まれ持っての凡庸さゆえに、何事も一流にまで極められない。
なんやかんやで帝位に就いた後にも、部下達が明らかに自分を見下しているのが分かる。
議員たちは「そんなことも知らないんですか」とでも言いたげに、あえて小難しい話を振ってくる。
皇帝に指名されないのも嫌だったが、なったらなったで役割を果たせず孤立し、より大きな自己嫌悪に苛まれる。自分で蒔いた種とは言え地獄だ。
コモドゥスには「お前は悪くないよ」と声をかけてあげたくなった。
そんなコモドゥスは「パンと見世物」に活路を見出す。
「帝位継承記念!100日間ぶっ通し大剣闘ショー」は好評を博し、大衆からの支持はなんとか取り付けた。
あとは小うるさい元老院さえ解散しちゃえば何とかなるんじゃないかと考えるコモドゥスだったが、そこに戻ってきたのがマキシマスだった。
マキシマスがスター選手として人気を博すにつれ、コモドゥスとの因縁も大衆に知られるところとなり、「皇帝が何したか知ってる?マジ最悪~」とそこら中でひそひそ話をされる始末。
何から何まで裏目にでるコモドゥス役の候補はジュード・ロウだったが、この役に惚れ込みフルスロットルでオーディションに挑んだホアキン・フェニックスが最終的に勝ち取った。
ホアキンが演じたことでコモドゥスはより屈折した人物像となり、また隠し切れない小物感からは物の憐れを感じる(褒めてますよ)。
一方隠し切れないオーラとカリスマ性で何をやっても上に行ってしまうマキシマスとは対照的なキャラクターをモノにしており、クロウと並んでホアキンがアカデミー賞にノミネートされたのも納得の評価だった。
エクステンデッド版の方が面白い
批評的にも興行的にも大成功を収めた本作だが、「もうひと稼ぎ!」と言わんばかりに2005年には17分のフッテージを追加したエクステンデッド版がリリースされた。
現在まで続くディレクターズ・カット版リリースの源流ともいえる『ブレードランナー』(1982年)のリドリー・スコット監督なので、本作における別バージョンリリースも必然っちゃ必然だったのだが、どうにも今回は様子がおかしい。
冒頭でリドリー・スコット監督が「あくまで劇場公開版がディレクターズカット」と宣言するような中途半端な立ち位置で、作品ファン的にも扱いに困るような代物だったのだ。
が、今回エクステンデッド版で見てみると、これが面白いではないか。
追加されたのは政治劇部分で、コモドゥスはパンと見世物を維持するために穀物の備蓄を売り払っており、数年後には国庫破綻と飢饉に見舞われる可能性が指摘される。
またマキシマスの元部下だが速攻でコモドゥス側に寝返ったクィントゥスと、彼の率いる近衛兵団が暴力装置として首都ローマを跋扈しており、反皇帝派議員への締め付けがどんどん厳しくなっていっているという状況も説明される。
作品は復讐劇とクーデターの二軸で走るのだが、エクステンデッド版ではクーデターの線がより強調され、コモドゥスを倒さないとローマ全体がえらいことになるという切実感が補強された。
その他、マキシマス処刑をミスったことを隠蔽した部下が処刑される場面も追加されており、細かい部分にも目配せが利いている。
現在ではセル版ソフトに標準装備されているバージョンなので、時間に余裕があればぜひ見ていただきたい。
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