(2024年 アメリカ・イギリス)
アメリカ内線をテーマにしたシミュレーション映画で、ビジュアルや音響は素晴らしいので確かに楽しめる。ただし政治的背景をあえて割愛しているのでどこか実感が湧かないし、ジャーナリスト精神を高らかに謳ったドラマも時代遅れ。
感想
T-joy品川のIMAXにて鑑賞。音響に拘りまくった映画なので、観るならなるべく設備の良い映画館で鑑賞されることをお勧めする。
タイトルのシビルウォーとは南北戦争を指しており、現代アメリカで南北戦争のような内戦が起こったら?というシミュレーションが本作の趣旨である。
監督のアレックス・ガーランドは、脚本を務めた『28日後…』(2002年)においても終末を迎えた社会の描写に拘っており、本作はそのブローアップ版だともいえる。
確かにシミュレーション映画としての完成度は高い。
NYにおいても電気や水の供給が不安定となり、同胞同士の戦争なのでゲリラ兵の潜伏にも気づきようがなく、正規兵同士がぶつかる最前線でなくとも、そこかしこで散発的な戦闘や破壊工作が行われている。
遠くに立ち上る煙、どこからともなく聞こえてくる銃声と、そうしたものに対して無関心になった人々。
これらの光景から「よく知る場所が戦場になったら?」というIFの恐怖を見事に描き出している。
白眉は中盤におけるジェシー・プレモンスの怪演により描かれる民族浄化である。
プレモンスが演じるのは所属不明の兵士で、常日頃から内に秘めてきたであろう人種的偏見を内戦に乗じて炸裂させて移民や外国人を殺しまくっている。
ただし彼自身は狂気を見せるわけでもなく、他人に銃を突き付けながら、殺すべき相手か生かすべき相手かをただ淡々と見極めている。
こいつにはこいつなりの理なり正義なりがあってやっているのだろうが、阿呆が好き勝手やれると大変なことになるという戦場の一つの真理がここでは描かれている。
他方で本作の問題は、戦場のスケッチに特化しすぎたことにある。
アメリカ合衆国に歯向かっているのはカリフォルニア州とテキサス州の連合軍。
カリフォルニアは民主党の牙城、テキサスは共和党の牙城であることから、この2州の連合関係にイデオロギーは関係していないということが分かる。
どうやら合衆国大統領が独裁化し、それに対して反旗を翻したのが南部2州という設定のようだが、この大統領が具体的にどんな悪事を働いたのかは定かではない。
ガーランド監督は、映画が必要以上に政治的性質を帯びないよう、意図的にイデオロギーを排除したのだろうが、その結果、背景がよく分からない戦争となっている。
一方で観客が期待するのは共和党州vs民主党州のやけくそのような大戦争なので、そこはかとなく漂うでコレジャナイ感・・・
戦争の背景に触れないなら触れないで、スピルバーグの『宇宙戦争』(2005年)のように戦火から逃げ惑う小市民を主人公にすれば良いものを、ジャーナリストを主人公にするものだから筋が通らないことになっている。
また独立系のA24製作であるがゆえか予算的にも恵まれておらず、NY上空にヘリの群れが飛来するというポスターに描かれていたような派手な戦闘もなかった。さすがにあのポスターはアサイラム製C級SF並みの詐欺である。
ストーリー的には、すでに多くの栄誉にあずかっているベテランジャーナリストのリー・スミス(キルスティン。ダンスト)と、彼女に憧れる戦場カメラマン志望の若者ジェシー(ケイリー・スピーニー)の師弟関係にスポットが当てられるんだけど、素人のスマホが決定的瞬間を捉える時代に戦場カメラマンを主人公にしたのは時代遅れな感じがした(この設定上の齟齬は監督も認識していたようで、この世界の住人たちは誰もスマホを持っていない)。
リーとジェシーは陥落寸前のワシントンDCで大統領インタビューを収録することを目的にはるばる戦場を旅するのだが、いざ大統領に会えると「最後に一言」で終わらせてしまう。お前らのジャーナリスト精神は一体どこへ消えたんだと。
この大統領は裁きを受ける機会すら与えられずその場で処刑。
劇中の人物たちは「こいつなら仕方ないか」みたいな態度なんだけど、彼がどんな悪事をしたのかを知らない観客からすると、不条理極まりない処刑だったこともマイナスだった。
コメント
予告を見て興味を持って特にあらすじを知らないまま仮想戦記だと思って見に行って、劇場で配られた自由の女神の松明の上に居座るスナイパーのポストカード(これも本編にない描写ですね)を見て興奮したのに中身がジャーナリスト主人公のロードムービーみたいでコレジャナイ感が強かったですね。
イデオロギー要素やリアリティを排除しているので敢えてなんでしょうけど戦況の説明もほとんどなかったのでフワフワした感じでした。テレビのニュース画面越しでいいので勢力図を見たかったです。
一方で私兵組織の処刑場面での緊迫感や恐怖の演出は見応えがありました。