(2024年 日本)
主演の草彅剛の雰囲気は良いんだけど、後半にいくにつれて粗さが目立ってくる脚本で台無しだった。古典落語の人情噺が原作らしいが、オリジナルで不足していた細部を補うという作業が不十分だったように思う。
感想
Amazonプライムにあがっていたのを鑑賞。
今年5月に劇場公開されたばかりの新作が、9月にはもう見放題配信。仕事の速さでは定評のあるAmazonさんの面目躍如と言ったところか。
監督を務めたのは『凶悪』(2013年)、『孤狼の血』(2018年)の白石和彌で、先週見たネットフリックスの『極悪女王』(2024年)と連続でのレビュー投稿となる。
このうえさらに11月には『十一人の賊軍』(2024年)も公開予定とのことで、白石監督の多作ぶりには驚かされる。
草彅剛が演じるのは浪人の柳田格之進。
貧乏長屋に娘のお絹(清原果耶)と二人暮らしの格之進だが、囲碁においては名人級の腕前を誇り、また美術品への造詣も深い。なおかつ仏のような清らかな心を持っており、貧しくとも徳の高い生活を送っているのだった。
そんな格之進に絡んでくるのは、阿漕な商売で定評のある「ケチ兵衛」こと萬屋源兵衛(國村隼)。
囲碁の腕前に自信を持つ源兵衛は格之進に挑み、いったんは勝利するのだが、違和感を持ったことからリターンマッチを挑み、こちらが勝負に頓着しすぎるあまり、格之進から勝利を譲られていたことを知る。
また散々悪態をついた自分を別件で救われたことから格之進の人格に感銘を受け、囲碁での交流を通じて源兵衛もまた良き商人として生まれ変わるのが前半の部分。
ミステリアスな雰囲気を醸し出す草彅剛と、芸域の広い國村隼のコラボレーションが素晴らしく、格之進と源兵衛の心の交流がゆったりと描かれるこのパートはなかなか楽しめた。
このまま映画が終わってもいいよ!と思えるほどの心地の良い時がしばし流れた後に、事態は大きく動く。
格之進の元部下である左門(奥野瑛太)という侍が訪れ、格之進にかけられていた掛け軸窃盗疑惑が晴れたので、藩にお戻りくださいと言うのだ。
ここまでならば”めでたしめでたし”なのだが、続けて左門は要らんことを言い出す。
掛け軸を盗んだ真犯人は、元々格之進とソリの合わなかった柴田兵庫(斎藤工)という侍なんだけど、その上さらに、こいつが格之進の妻を強姦して自殺の原因を作ったと言うのだ。
当然ブチ切れる格之進。
汚名がそそがれた喜びなど一瞬で吹き飛び、いまだ逃亡中の柴田をぶっ殺す!という話になる。
ちなみに終盤では柴田自身の口からも格之進の妻絡みの話が語られるのだが、それは左門の強姦説とはまったく別の話だった。
事の真相がどっちだったのかは結局分からずじまいではあるが、当事者の方が真実を語っている可能性が高く、かつ柴田が嘘をつくような話の流れでもなかったことから、伝聞情報を真に受けた左門の手落ちと見るべきだろう。少なくとも、伝えるべきかどうか熟慮は必要だったと思う
兎にも角にも放ってはおけぬ話を耳に入れてしまったことで、仏の格之進は復讐の鬼と化し、装備を整えて翌朝には出発しようとする。
格之進のボルテージが最高潮に達したまさにこのタイミングで、さらに悪いことが起こる。
昨夜、萬屋で50両もの大金がなくなり、源兵衛と一緒にいた格之進が事情を知ってるんじゃないかということで店の若い衆 弥吉(中川大志)が格之進の元にやってきたのだ。
弥吉「もしご存じでしたら・・・」
格之進「俺を盗人だと言うのか!」
弥吉「そうはいっても、十両でも打ち首になるような大金ですから・・・」
格之進(う、打ち首・・・)
打ち首というパワーワードに怯んだ格之進は、そのまま家へと帰っていく。で、その夜は普通に就寝。
・・・妻の復讐はどうなった?
そして翌朝、50両もの大金を準備できないと気に病んだ格之進は切腹しようとする。
???
あくまで事情を聞かれたのであって盗人と決めつけられたわけではないし、だいたい格之進と源兵衛の仲であれば、弥吉とトラブった足でそのまま萬屋に行って解決を図れば良かっただろ。
なぜそうした考えうる当たり前の対応策をとらないのだろうか。
そこにお絹がかぶせてくる。
自分が遊郭に身売りすることで50両を用立てるのだと。
???
百歩譲って、昨日からいろいろ大変だった格之進が正常な判断力を失っていたのは仕方ないとしても、お前までそんなことを言い出してどうするんだ。「萬屋さんの所に行って誤解を解きましょう」という一言がなぜ出てこないのだろう。
兎にも角にも娘を風俗に落としてまで作った金を握りしめて弥吉の元を訪れた格之進は、もしも50両が出てきてこちらの濡れ衣が晴れた暁には、弥吉と源兵衛の首をもらい受けると宣言する。
分かりましたと答える弥吉。
いやいや、お前の首は仕方ないとしても源兵衛の首まで約束しちゃいかんでしょ。
で、この生返事を受けた格之進は格之進で、源兵衛本人に覚悟のほどを問うでもなく、足早に萬屋を出て行く。
登場人物たちがそうせざるを得ない背景をもっと作り込んで欲しいのに、あるべき構図に無理やりに落とし込んでいくので、この辺りから物語への興味がかなり失せた。
後半では善悪に係る興味深い考察があるにはあるのだが(清廉潔白すぎた格之進が人を苦しめていた等)、50両のやりとりがあまりに出鱈目すぎて、その頃にはどうでもよくなってしまっていたし。
原作が古典落語なので雑な部分、粗い部分もあるのだろうが、2時間の映画というメディアに落とし込むにあたっては、話の解像度を上げて欲しいところだった。
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