アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場【8点/10点満点中_唯一の正義はない中で迫られる決断】

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戦争

[2016年イギリス]

8点/10点満点中

数多く映画を見ていると、現実世界でのモノの見方をも変えられてしまうような作品に出会うことがありますが、私にとって本作はその一本です。

昨今話題のドローン戦争を舞台にした作品なのですが、同様のテーマを扱いつつも「戦争は悲惨です。人の心を蝕みます」という紋切り型の主張のみで面白みに欠けていたアンドリュー・ニコル監督の『ドローン・オブ・ウォー』とは対照的に、本作はドローン戦争、ひいては現代の対テロ戦争に係る認識を一変させるほどの深く複雑な考察に溢れています。

■犠牲を出さねば救えない場合の意思決定

ドローンによる空爆と言えば、アメリカ国内の空調の効いた部屋にいるパイロットが、生のリアリティも感じないままに地球の裏側の人々を無差別殺傷するというイメージがありますが(この辺りは本作よりも『ドローン・オブ・ウォー』の方が詳細です)、実際の現場はそう単純ではないようです。

自爆ベストを着て、まさに無差別テロを実行しようとしているテロリストを発見。今ここでドローンによるミサイル攻撃をするしか彼らを止める方法はないが、かなりの高確率で一人の少女を攻撃に巻き込んでしまう。テロが発生した場合に予想される死者80名余りと、目の前の少女1名のどちらの命を選びますかという、とんでもないお題が観客にまで突き付けられます。しかも事態は刻一刻と推移していき、すぐにでも決断を下さなければならない。「ドローン戦争は非人道的な汚い戦争」という単純な認識を持っていた私のような観客は、ここでガツンとやられるわけです。

これはよく否定される論理ではありますが、やはり軍事力には「レッサー・イーブル(最善の悪)」という側面もあるのです。一人も殺さずに済むに越したことはないが、現実世界はそれほど穏やかではない。イラクやアフガンで一般人を無差別攻撃する映像が流出し、米軍や英軍は殺人狂扱いされることも多いのですが、その映像の裏側ではまさにこのような苦渋の選択を迫られているのかもしれません。

■軍人だって戦争の悲惨さは知っている

ラスト、ミサイル攻撃後の凄惨な現場をモニター越しに目撃した役人が涙ながらに戦争の悲惨さを説きます。攻撃命令を出した軍人への非難とも捉えられる言いぶりなのですが、これに対するアラン・リックマン扮するベンソン中将の反論がこれまた深くて考えさせられました。自分はテロ後の現場には何度も訪れており、その悲惨さを十分に知っているからこそ、これを未然に防いだのだ。あなたは片側の事実を見ただけですべてを知った気になっているようだが、多くの修羅場を経験してきた軍人相手に講釈するのはやめてくれと。これって、悲惨な現場を見ただけで思考停止し、その裏側で何が起こっているのかという点をまるで顧みない一般大衆やマスコミに対する言葉でもあるんですよね。私は非常に重く受け取りました。

■軍隊のズルもちゃんと描いている

さらに本作が優れているのは、上記の通り全体としては軍隊寄りの姿勢をとりながらも、軍隊側のズルもちゃんと描いている点です。少女の存在を理由に攻撃命令が下りそうにないという状況において、ヘレン・ミレン扮するパウエル大佐は被害予測を改ざんさせます。本作においては小さな舞台でデフォルメされていますが、これって軍隊全体がやってるインチキなんですよね。都合の悪い情報は過小評価して、とりあえずやりましょうという方向に仕向けていく。

また、この情報を受け取る政治家や役人も、これが数字遊びだということは半ば分かった状況にあります。このシチュエーションおいては少女を死なせる覚悟をして撃つしかないことはみんなわかってるのに、「その程度の予測であれば、後々の説明もつくか」という感じでその情報に飛びつきます。このような茶番までが容赦なく描かれているのです。これには驚きました。

■報復の連鎖は簡単には止められない

さらにさらに凄いのは、テロリスト側の論理までがきちんと盛り込まれている点です。ミサイル攻撃後、瀕死の状態となった少女を発見した父親は周囲に助けを求めます。そこには地元過激派組織の民兵達も居るのですが、彼らはどうするのかなと思って見ていると、銃を置いてみんなで少女を病院まで運ぶのです。西側諸国にとっては邪悪な存在でしかない過激派組織の構成員達にも人道主義はある。彼らがテロを起こす際にも、今回の英軍指令室と同様に多くの葛藤を抱えながら、それでもやるしかないと判断して過激な行動をとっているのかもしれないということがこの短い場面から推測できるため、観客は余計に胸が苦しくなるのです。

さらには、この少女の父親はテログループの一員になり、もしかしたら自爆テロを買って出るのかもしれないのですが、その行動を一体誰が責められるでしょうか。こうした単純な善悪では括れない悲しい終わり方をする点が、戦争の悲惨さを余計に強調しています。

Eye in the Sky
監督:ギャヴィン・フッド
脚本:ガイ・ヒバート
製作:ゲド・ドハティ,コリン・ファース,デヴィッド・ランカスター
製作総指揮:ザヴィエル・マーチャンド,ベネディクト・カーヴァー,クローディア・ブリュームフーバー,アン・シーアン,ガイ・ヒバート,スティーヴン・ライト
出演者:ヘレン・ミレン,アーロン・ポール,アラン・リックマン,バーカッド・アブディ
音楽:ポール・ヘプカー,マーク・キリアン
撮影:ハリス・ザンバーラウコス
編集:ミーガン・ギル
製作会社:エンターテインメント・ワン,レインドッグ・フィルムズ
配給:エンターテインメント・ワン(英),ファントム・フィルム(日)
公開:2016年4月8日(英),アメリカ合衆国の旗 2016年4月1日(米),2016年12月23日(日)
上映時間:102分
製作国:イギリス

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公認会計士の理屈っぽい映画レビュー

コメント

  1. SECRET: 0
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    これは現実的で 現代戦争の苦悩を描いており
    私は大好きな映画でした

  2. SECRET: 0
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    >ドキドキ感さん
    コメントいただき、ありがとうございます。
    観客に現実問題について考えさせる内容だし、しかもサスペンスとして見ても面白いし、本当に充実した映画ですよね。

  3. ミチロウ より:

    SECRET: 0
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    いいねをありがとうございました。
    私もこの映画観ました。
    サスペンスのような展開を彩ったBGMのベースの音がものすごく印象に残っています。
    考えさせられる映画でもあり、見応えはかなりありましたね。

  4. SECRET: 0
    PASS:
    >ミチロウさん
    コメントいただき、ありがとうございます。
    観客を蚊帳の外に置かない映画でしたよね。あなたならどうしますかということを問われているような緊張感が常にあって、終わり方のやるせなさも現実感に繋がってました。