(2019年 アメリカ)
水と油だったスティーヴン・キングの『シャイニング』とスタンリー・キューブリックの『シャイニング』を繋いだという点では優れた企画だったとも言えるのですが、如何せんホラー映画として面白くなかったことが問題でした。辻褄合わせとファンサービス以外のものがない凡作だったと言えます。
あらすじ
『シャイニング』(1980年)から40年後。父ジャック同様にアルコール中毒に苦しむダニーが、同じ能力を持つ少女とともに新たな戦いに身を投じていく。
作品概要
原作はスティーヴン・キング著『ドクター・スリープ』(2013年)
本作の原作はスティーヴン・キング著『ドクター・スリープ』(2013年)。同じくスティーヴン・キング著『シャイニング』(1977年)の40年後を描いた続編小説であり、父親と同じくアルコール中毒に苦しむ中年期のダニーが、幼少期の自分を救ったハロランの立場となって同じ能力を持つ少女と新たな戦いに身を投じていくという内容でした。
『シャイニング』(1980年)の39年ぶりの続編
また、本作にはスタンリー・キューブリック監督作品『シャイニング』(1980年)の続編という性格もあります。ここで問題だったのは、キューブリックは小説版『シャイニング』の内容を相当いじっており、小説版と映画版はほぼ別物と言える作品になっているということでした。
小説版『シャイニング』は良い父親であろうとするものの心が弱い主人公が悪霊に憑りつかれ、意に反して愛する息子に危害を加えてしまうという内容であり、この主人公には売れない物書きだったスティーヴン・キング自身の葛藤が多分に反映されていました。
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他方、映画版では雪山で精神に異常を来した主人公が妻子を殺そうとする話に変更されており、オーバールック・ホテルで起こる怪奇現象もおかしい人間が見た幻覚として処理できる構造とされました。また、ダニーの特殊能力を示す『シャイニング』というタイトルにもほとんど意味がなくなりました。
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つまり本作の製作に当たっては、小説版『ドクター・スリープ』を忠実に映画化すれば映画版『シャイニング』(1980年)とは繋がらなくなり、映画版『シャイニング』の続編として製作すれば小説版『ドクター・スリープ』(2013年)から離れざるをえなくなるという、困難な状況があったのです。
感想
キング版とキューブリック版の折衷に成功した奇跡的な続編
キング版とキューブリック版をどうやって繋ぐのかという問題を抱えた作品であり、私はキューブリック版を捨ててキング版に寄せた話にするのだろうと予測していたのですが、意外なことにどちらにも仁義を切った作品になっていました。
物語は概ねスティーヴン・キング準拠であり、キューブリックが切り捨てたシャイニングという超能力が本作のテーマとなるのですが、要所要所にキューブリックのビジュアル意匠を織り込み、キューブリック版との繋がりも主張しています。このバランス感覚が絶妙であり、本来水と油だったキング版『シャイニング』とキューブリック版『シャイニング』のどちらの続編にも見えるという奇跡を成し遂げています。これには驚かされました。
ヒーローものに様変わりした前半
主人公ダニーはその能力ゆえに一般社会に馴染めず、中年になっても酒と女に溺れ、限界を感じれば転居して住まいも仕事も一新するというウルヴァリンのような根無し草生活を送っています。そんなダニーが、仕事や住まいの世話をしてくれる底抜けに良い人ビリーや、その癒しの能力に気付いてホスピスでの仕事を与えるダルトン医師、同じく能力者であるアブラと出会うという前半部分は『X-MEN』(2000年)とまったく同じ流れでした。
また、前作で命を落としたハロランが霊体となってダニーを導いているという構図は『スター・ウォーズ』におけるジェダイの師弟関係のようでもあります。
さらに、何世紀も他人の精気を吸いながら生きている悪の超能力者軍団は、さながら『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年)のようだし、『スキャナーズ』(1980年)のようでもありました。
これだけたくさんの作品名が挙がるということは、それだけ本作にオリジナリティがないということでもあります。既視感溢れる設定とキャラクター描写。どこかにエッジの立った部分があれば良かったのですが、どこにも突出した部分がないために前半には退屈させられました。
ホラー映画なのに怖くない後半
悪の超能力者軍団と戦うダニー&アブラは最終決戦の地としてオーバールック・ホテルを選びます。あのホテルに巣喰う幽霊たちの力を使って敵を倒そうという目論見であり、懐かしの音楽と空撮の元、オーバールック・ホテルに向かう場面には上がりました。また、ダニーがホテルに足を踏み入れると広がる見慣れた風景にも「おっ」と思いました。
ただし感慨深かったのは数分のみであり、段々と「名作の威を借りた二次創作物感」が漂ってきます。キューブリックの偏執的なこだわりの中で作られ、すべてのカットに異常な熱量が込められていたオリジナルと比較すると、本作はただそれをなぞっているだけという味気ないものとなっています。
また、現在の技術があればCGで若い頃のジャック・ニコルソンを動かすこともできたところを、ニコルソンの肖像権をクリアーできなかったのか別の俳優がジャック・トランスの幽霊を演じているのですが、こいつがジャック・ニコルソンに似てもいないし、顔面力も演技力も遠く及んでおらず、ジャックとダニーの40年ぶりの再会という感慨深い場面が全然活きていません。
そこからのラストバトルは、もうグダグダ。ホラーなのに怖くもないし、ハロラン&ダニーの関係性がダニー&アブラに反映されているとすると、捨て身のダニーが自分の命と引き換えにギリギリの勝利を掴む展開になるんだろうかと予想すると、それをまったく裏切らない式次第通りの結末を迎えるので面白くもありませんでした。