ペインレス【4点/10点満点中_ホラーとしては成功しているがドラマの畳み方が雑】

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得体の知れない脅威
得体の知れない脅威

[2012年スペイン]

4点/10点満点中

■観客の神経を逆撫でする描写の数々

冒頭、自分の腕に火を点けて遊んでいる少女。ちょっとの悪ふざけかなと思っていたらそこそこの時間に渡って火が点きっぱなしで、少女が呑気な顔をすればするほど、「早く消さないと腕が使い物にならなくなっちゃうよ!」とこちらはハラハラさせられました。また、「面白いからお前もやってみろや」と他の少女の頭にも灯油をかけるのですが、手に火を点けた少女が灯油を扱うという危なっかしさと、案の定、頭にも火が燃え移って火だるまになる場面のエグさと言ったらありませんでした。他にも自分の体を食べる子供や、暇つぶしに生爪を剥がして遊ぶ子供など、この映画は観客に生理的嫌悪感を抱かせる描写が実にうまく、ホラー映画としては極めてよくできています。

次の場面では髭面の中年・ダビッドが高級車を運転する現代パートに移るのですが、車線を守らずフラフラ運転している上に、「連続オペで寝てないんだ」発言、そして助手席からベラベラと話しかけて運転中の旦那によそ見をさせる奥さんと、この後事故が起こりますというフラグがぶっ刺さった状態でしばらく会話が続くので、危なっかしくて見ていられませんでした。いきなり事故を見せるのではなく、事故になりそうな光景をしばらく見せて観客にイヤな汗をかかせるという演出がとにかく憎くて、こちらも観客の神経を逆撫でする術をよく心得ていると思いました。

■ミステリーとして上々の滑り出し

幸いなことにダビッドは一命を取り留めたものの、精密検査によって白血病であることが発覚。ご両親から骨髄移植を受けなければ死にますよ、あなたの赤ん坊一人を残してこの世を去るんですかという状況に置かれます。しかし、人格者っぽい風貌にも関わらず父・アダンは「お前に骨髄移植はしてやれん。理由は聞くな」の一点張り。そこでダビッドは自身の出生の秘密を探り始めます。この序盤の引きの強さ、観客もダビッドと同様に真相を知りたくなるという煽りのうまさはなかなかのものだったと思います。

■予想可能な真相と、不自然な人間ドラマ

ただし、同時進行で描かれてきたもう一つの物語の主人公であるベルカノがダビッドの父親でしたという真相があまりにも予想通りで、ミステリーとしてはもう一捻り欲しいところでした。

また、終盤に入って突然畳まれていくドラマがどれも不自然で、例えば20年以上に渡って拷問マシーンとして生きてきたベルカノが、ダビッドの母親となる女性にのみ心を許した展開があまりに唐突でその愛情の深さを観客が測りかねたり、ベルカノを人間扱いしてこなかったアダンが、なぜベルカノの血を引く赤ん坊を我が子として引き取る気になったのかがよく分からなかったりと、愛憎にまみれた部分がことごとく雑に片付けられたという印象を持ちました。

■ベルカノは生身の人間なのか人外なのかが不明確

ベルカノは基本的には生身の人間という描写だったのですが、彼がどうやって生存していたのかがよく分からない展開が二つありました。一つ目は、ホルツマン教授を殺害した後に独房に監禁され、鍵も捨てられた状態で4年間放置された場面。二つ目は、アダンに赤ん坊を差し出した後に扉をレンガで塞がれ、地下での生活を余儀なくされた場面。そのどちらの場面についても、どうやって食糧を調達していたのか、排泄などはどう処理していたのかがサッパリ読み取れず、普通なら数週間で死に至るはずのところをなぜベルカノは何年も生き永らえ続けたのかが分かりませんでした。

また、ついにダビッドと再会したベルカノは80歳を過ぎる高齢のはずなのに、若い頃と変わらない筋肉質なボディとツヤツヤのお肌を維持。さすがに人間を越えています。

もし監督がベルカノを人外として描きたかったのであれば、彼が人間ではないという描写をもっともっと入れておくべきでした。完成した作品では彼の属性を示す描写が致命的に不足しているために、人間として彼を見ていたら、人間離れした展開があまりに多くて彼の行動をどう捉えればいいのかが分からなくなったという状態になっています。

■観客に何を感じて欲しいのか分からない結末

ついに父親を発見したダビッドと、タビッドを息子だと認識したベルカノ。ダビッドの目的はベルカノの骨髄なので、さあ、どうやってベルカノに状況を伝えるんだと思っていたら、ダビッドの落っことしたろうそくにより地下室全体が火に包まれ、ベルカノは防腐処理して大事に守ってきた奥さんの遺体と共に炎にまかれます。そうして、何も解決せずにダビッドの物語は終了。

ラストでは、ダビッドから赤ん坊の息子に対する「強く生きろ」みたいなモノローグが挿入されるのですが、それまでのドラマがよく分からない感じで終わってしまったために、文面だけ見ると感動的なこのモノローグもどういう心境で受け止めればいいのかがわからず、ポカーンとした状態で映画はエンドクレジットに入っていきました。

グロ描写やいかがわしい時代の雰囲気など作り込みは決して甘くない作品だったのに、なぜドラマパートがここまで雑に片付けられてしまったのかが不思議でならない映画でした。

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