実話をベースにしたフィクション
「ナルコ」とはスペイン語で密売人の意味で、タイトルの『ナルコス』はその複数形です。本作はメデジンカルテルを形成して世界7番目の富豪にまで上り詰めた実在の麻薬王・パブロ・エスコバルの半生を題材にした作品であり、一応はフィクションということになっているのですが、本作のエピソードの大半は80年代に実際に起こったもの。
その内容は政府要人の暗殺、旅客機爆破、最高裁判所襲撃、連続爆破テロなど、もはや犯罪者の枠を超えた悪事の連続であり、「こんなことが現実にあったのか」と驚かされました。なお、1994年の映画『今そこにある危機』に登場した麻薬王のモデルはパブロ・エスコバルということです。
ブラジルの社会派・ジョゼ・パジーリャ監督
本作のプロデューサーであり、第1話、第2話では監督も務めたのはブラジル出身の映画監督ジョゼ・パジーリャ。2007年の監督作『エリート・スクワッド』でベルリン映画祭金熊賞を受賞した経歴が示す通り、現実の社会問題をモチーフにした娯楽作を得意とした監督であり、2014年のリメイク版『ロボコップ』でも素晴らしい手腕を披露していましたが、そのキャリアでも最高の作品と言えるのがこの『ナルコス』シリーズです。
歴史的事実を学ぶ教材としても、麻薬王とDEAとの死闘を楽しむ娯楽作としても十分に通用する堂々たる仕上がりとなっており、さらには地上波放送でもケーブルテレビでもないNetflixという独特の媒体の特性を活かし、本作のバイオレンス描写はフルスロットル。惨たらしい描写が多い上に、資料映像として本物の死体の山が映されたりするため、ドラマの迫力が違います。
感想
パブロ・エスコバルが良すぎる
本作最大の収穫は、パブロ・エスコバルの人物造形が素晴らしすぎること。商才があり、危険回避術や人心掌握術に長けた反社会的人格者という多面性を見事に描写できており、パブロが少しでも顔色を変えるだけで場に緊張感が走ります。
これを演じるワグネル・モウラは『エリート・スクワッド』で社会正義に燃える隊長役をやっていた人ですが、本作では体重を増やして悪のカリスマになりきっており、「ある方向へ極端に振り切れすぎた人」を演じさせるとピカ一の役者さんだと感じました。
ただしピカレスクロマンとしては作られていない
ジョゼ・パジーリャはパブロ・エスコバルの魅力に飲み込まれておらず、一貫して彼を唾棄すべき悪人として描いています。この手の題材を手にするとたいていのクリエイターは悪人の魅力にハマってしまい、その繁栄を面白く描いてしまうものなのですが、パジーリャは決してそのような描写を許していません。
本作ではエスコバルが密売人として大成するまでの過程が駆け足で処理されており、彼が絶頂から転落し始めた辺りから本筋が開始されるのです。これは評価に迷う点であり、ジャーナリスト出身であるパジーリャの高い道徳心に感銘を受けつつも、モウラ演じるエスコバルが非常に良かっただけに、前半パートでは『スカーフェイス』のようなピカレスクロマンとしてその成功をじっくり描くという方法を選択しても良かったのではないかと思います。
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