(2022年 韓国)
航空パニック×バイオテロというサスペンスアクションの合い掛け状態で、前半の勢いには、それはそれは物凄いものがあったけど、ド演歌になる後半で映画ごと失速した。
感想
アマプラで配信されていたのを偶然見つけて鑑賞。
全然知らない映画だったけど、本国韓国では200万人の観客動員を記録した大ヒット作らしい。
イ・ビョンホンとソン・ガンホという国際的知名度の高い2大スター共演なので(2人が並んで移る場面はほとんどないものの…)、気合の入った映画だったということは十分に伝わってきた。
韓国発ホノルル行きの便でバイオテロが起こるが、目的地であるアメリカは当該機の着陸を拒否。ならばと韓国に引き返すが道中の日本も着陸を拒否で、ウイルス以上に人間は厄介ですねというのが、ざっくりとしたあらすじ。
イ・ビョンホン扮するパクは元パイロット。娘と共に乗客としてこの機に乗り込むんだけど、機長がウイルスにやられたことから、代わりに操縦桿を握ることとなる。
ソン・ガンホ扮するク・イノ刑事はネット上に流れる犯行予告動画を捜査しているんだけど、当初半信半疑だったその動画がホンモノだった上に、テロの標的とされた飛行機には奥さんも乗っていたものだから事件解決に奔走するという、何ともダイ・ハードな役回り。
上空と地上の両方に主人公を置く方式は『タワーリング・インフェルノ』(1974年)みたいだったし、あらすじは『大空港』(1970年)と『カサンドラ・クロス』(1976年)のハイブリッドだし、全体的には70年代パニック映画の香りがしてくる。
ウイルスを持ち込まれた旅客機というまったく同じコンセプトの『エアポート’78・恐怖の超音速旅客機/パニック・イン・SST』(1978年)もあったし。ちなみにこちらは本家エアポートシリーズとは無関係のTVMだけど、長ったらしいタイトルで参った。
序盤にて複数走っていたドラマを、航空パニックに向けて一つにまとめていく流れは「うまいなあ」と感心したし、中盤で突如訪れるパニック描写には度肝を抜かれた。
機内では体調不良者が続出し、時を同じくして不審者を発見。問い詰めると「致死率の高いウイルスをバラまいた」とだけ言い残し、そいつ自身もウイルス感染していたので死亡。
そんな機内劇の最中に突如飛行機が急降下を始める。機長もウイルス感染して急死したことが原因なんだけど、機内が無重力状態になり、乗客たちがガンガン天井に打ち付けられるという、『フライト・オブ・フェニックス』(2006年)を100倍強化したかのような見せ場には心底驚いた。
見せ場のクォリティといい、そのタイミングといい、実に完璧だったと思う。
ただし、そこから先はまぁダレる。
空飛ぶ厄介事と化した当該機は行く先々で着陸を拒否され、「倫理とは何ぞや」みたいな話に。
そのテーマの打ち出し方自体は悪くないんだけど、コロナ禍直後であることの弊害か、このパートをうまく娯楽に変換できておらず、140分もの長尺に渡ってダラダラと進捗の遅い人情劇を見せられる羽目になる。
端的に言うと、バイオテロに巻き込まれた人達は可哀そうだけど、もしもウイルスが機外に流出してしまうと旅客機一機分とは比較にならないほどの人命が失われますがというジレンマなのだけど、せめて着陸くらいさせてやっても害はないと思う。
終盤では、成田空港上空にやってきた旅客機の着陸を阻止せんと、航空自衛隊が戦闘機を発進させて威嚇射撃をしてくる。日本人目線からすると「自衛隊が一発撃つのがどれだけ大変だと思ってるんだ」と噴飯ものの描写だ。
この通り、後半になるとリアリティの線引きもおかしくなってくるので、余計にドラマへの感情移入が難しくなる。
本作の構造的な欠陥は、登場人物が当事者ばかりだという点にもある。
このジレンマで悩むべきは第三者であり、全体を守るために、どの程度の少数ならば見捨ててもいいのかという比較衡量こそが主題であろうと思うんだけど、本作には「冷徹な判断を下さざるを得ない立場の人」が出てこない。
強いて言えば韓国政府の国土交通大臣がこれに当たるのかもしれないが、彼女は被害者救出を最優先に考える良い人でしかなく、「国家を守るため必要ならば鬼にでもなる」と思い詰めたところがない。
その結果、全体が湿っぽい人情劇に終わってしまっているので、社会学的な議論が深まっていかない。そりゃ当事者だけ見てれば「助けてやれよ」って意見にしかならんでしょうが。
最終的には乗客たちが「他の人をリスクに巻き込まないためには私たちが死ぬしかない」と腹を括り始めたり、意図的に自分自身をウイルス感染させた刑事がワクチンの実験体になったりと、自己犠牲の押し付け合いになる。
この辺りのド演歌な展開も暑苦しくて堪らなかった。
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