(2003年 アメリカ)
訓練中のレンジャー部隊7名が嵐のジャングルで消息を絶ち、発見された3名は味方同士で撃ち合いをしていて、1名は救助隊の目の前で殺された。回収された2名に対して尋問を始めるが、証言は食い違っていた。
5点/10点満点中 複雑すぎてミステリーを楽しむゆとりがない
感想
監督はジョン・マクティアナン
アクション映画の名手ジョン・マクティアナン監督初のサスペンス映画なのですが、これが異様なまでに複雑な内容であり、なぜこれを当該ジャンルへの初挑戦に選んだんだろうと思いました。
総じて、マクティアナンの演出は失敗しています。情報の整理に失敗していて一度見ただけでは把握困難だし、どんでん返しが起こっても、「ええっと、それって凄いことなんだっけ?」と観客の側は驚きよりも疑問が余計に増えるような状況となっています。
得意としているはずのアクション演出にもキレがなく、誰かが銃を撃ったら次のカットで人が倒れているみたいな、本当にどうしようもないレベルになっています。『プレデター』や『ダイ・ハード』を撮った人がこんな仕事をするのかと驚かされたと同時に、あれってジョエル・シルバーの力だったのかなという気すらしてきました。
なお、本作はジョン・マクティアナンが最後に撮った作品となります。本作の後、彼は『ローラーボール』のプロデューサーに対する盗聴疑惑に係る捜査過程でFBIに対して偽証を行い、12か月の服役をしました。収監にまで至ったセレブというのはかなり珍しいケースですね。
救いは『パルプ・フィクション』コンビ
本作はジョン・トラボルタが主演で、共演がサミュエル・L・ジャクソン。映画はこの二人で持ちこたえています。
ジョン・トラボルタ扮するハーディ捜査官は、軽く見せかけておいて必要な場面では核心を突く一言をビシっと言うタイプなのですが、当て書きかと思う程トラボルタ自身が持つ魅力にハマっています。硬軟使い分ける策氏ぶりや、ソフトな場面での色気など、彼を見ているだけでも十分に楽しめました。
サミュエル・L・ジャクソン扮するウエスト軍曹は伝説の鬼教官。部下を徹底的にいびり倒す様は観客にも不快感や恐怖心を抱かせるレベルであり、こちらもまた、一時期は説教俳優と呼ばれたサミュエルの個性にハマっています。
登場人物
本作は様々な人物の裏の思惑が複雑に交錯している上に、ウソの情報も流されるために、各自の行動原理を整理しておかないと話がサッパリわからなくなります。特にレンジャー隊員達は、ロクに紹介場面もないまま事件の回想に突入し、話の度に人物の行動が変わることから、誰が何をしているのかをしっかり意識しながら見る必要があります。
主人公
- トム・ハーディ(ジョン・トラボルタ):元レンジャー隊員で現在はDEA捜査官だが、贈収賄容疑で停職中。レンジャー時代にはウエスト軍曹の指導を受けていた。軍にいた時代には凄腕の尋問官と評価されていた。同姓同名だが怒りのデスロードとは無関係。
基地関係者
- ビル・スタイルズ大佐(ティム・デイリー):基地の責任者で、ハーディとは同期。ダンバーの本国への送還が迫る中で、手詰まり状態を打破するために元レンジャーで尋問のプロであるハーディを呼んだ。
- ジュリー・オズボーン大尉(コニー・ニールセン):基地の警務隊長であり、唯一の尋問官。今回の事件の捜査に当たっているが、何も聞き出せていない。
- ピート・ヴィルマー(ハリー・コニック・Jr):基地内の病院の院長。ハーディの友人であり、オズボーンとは過去に交際していたことがある。
レンジャー部隊
- ネイサン・ウエスト軍曹(サミュエル・L・ジャクソン):レンジャーの訓練教官。鬼のしごきで有名。行方不明。
- レイモンド・ダンバー(ブライアン・ヴァン・ホルト):無傷の生還者でオズボーンの取調を受けているが、黙秘を貫いている。この基地以外のレンジャー隊員としか話さないと言ったことから、ハーディが呼ばれた。野球が嫌い。
- リーヴァイ・ケンドル(ジョヴァンニ・リビシ):負傷してダンバーに担がれているところを救出された。将軍の息子。彼が同性愛者であるというスキャンダルの発覚を恐れた父が本人を隔離しておきたくて、ウエストの訓練コースに入れられた。
- ミュラー(ダッシュ・ミホク):救助隊の目の前で殺された。
- パイク(テイ・ティグス):黒人。ウエストに目を付けられており、理不尽なしごきを受けていた。行方不明
- カストロ(クリスチャン・デ・ラ・フエンテ):行方不明
- ニューニエンス(ロゼリン・サンチェス):唯一の女性隊員。行方不明。
※ここからネタバレします。
食い違う証言
本作の前半は当事者間での証言が食い違う『羅生門』的なサスペンスなのですが、やたら情報が細かくて分かりづらいので、整理してみました。
ケンドルの証言:動機はウエストのしごきへの報復
- カストロ・ケンドル組が白煙弾を受けたウエストの死体を発見
- そこにニューニエンスが一人で現れ、相棒のパイクとはぐれたと言う
- 集合場所に遅れてパイクが現れ、自分が殺したと言う。
- パイクはミュラーとニューニエンスを殺害し、二人を軍曹殺しの犯人に仕立て上げて自分達は英雄になろうと他の隊員に持ち掛ける
- しかしダンバーが全員を殺害し、負傷したケンドルを自分に有利な証言者にするために連れ帰った。
ダンバーの証言:動機は基地内での麻薬取引の隠蔽
- ケンドルとミュラーは病院の薬を仲間に売っていた。薬を流したのはヴィルマー。
- 麻薬取引の発覚をおそれたミュラー・ニューニエンス・カストロがウエストを殺した上で、パイクに罪を着せようとしていた。
- 真相を突き止めたパイクはミュラーに殺され、口裏合わせに応じないダンバーとケンドルも殺されかけ、銃撃戦に発展した。
シベ超を上回るドンデン返しの連打
さらに本作を分かりづらくしているのが、ドンデン返しが5度も起こることです。目の前の話について行くことすらままならない状態で「実は〇〇は××でした!」みたいなことを5度もやられるので、驚きよりも「で、それがどうしたの?」という感覚の方が勝りました。
- 当事者達の証言が食い違う『羅生門』的なサスペンスと見せかけておいて、実はダンバーとケンドルは口裏合わせをしていた。
- ダンバーだと思っていた人物が、実はパイクだった。常日頃からウエストにしごかれ殺害の動機を持っていた自分が殺人犯にされると思ったパイクは、ダンバーに成りすましていた。
- ケンドル・ミュラー・カストロ・ニューニエンスの4人は軍の補給路を使ってコカイン密輸を行っており、それに気付いたウエストとの銃撃戦となった。ウエストを殺害したのはミュラー。
- 黒幕はスタイルズだった。ウエストの口封じをしたいスタイルズが、ケンドル・ミュラー・カストロ・ニューニエンスを使ってウエストを襲わせたことが事件の真相。
- ・・・ではなく、真の黒幕はハーディ。実はウエストとハーディは繋がっており、スタイルズから命を狙われていたウエストと隊員達の死を偽装して安全に脱出させるためにこの事件を起こした。そして、カストロ、ニューニエンスはシロ。
まとめ
確かに予測不可能なミステリーではあるのですが、観客を情報の洪水に遭わせて推測する隙すら与えなかったり、荒唐無稽なドンデン返しを何度も繰り返すことは、ちょっと反則に近いような気もしました。良質なミステリーに不可欠な、騙される快感や知的興奮というものがないのです。
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