われらが背きし者【7点/10点満点中_濃厚なサスペンスとドラマ】(ネタバレあり・感想・解説)

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陰謀
陰謀

(2016年 イギリス)
英国人大学教授のペリーは旅行先のモロッコでディマというロシアン・マフィアと出会う。命を狙われているディマの家族を救うため、MI6への届け物を引き受けるペリー。そこからペリーは国際的な諜報戦に巻き込まれる。

7点/10点満点中 見ごたえある大人向けのエンターテイメント

■登場人物の背景や動機を端的に見せる要約の巧みさ

『裏切りのサーカス』や『ナイト・マネジャー』等の過去のジョン・ル・カレの映像化作品と共通する雰囲気を持った作品なのですが、要約の巧みさや語り口の簡潔さが本作固有の特徴となっています。

例えば序盤、入れ墨だらけの大男が女性を強姦している様を見るや、居ても立ってもいられなくなってこれを止めに入るペリー。その一部始終を見たディマは、正義感と向こう見ずさを併せ持つペリーの人物像を把握し、彼を自分と家族の命を託してもいい人物であると判断するのですが、上映時間にしてわずか1分程度でこの重要場面を見せてしまうという要約の凄さ。

また、ディマはテニスを口実にペリーを誘い出して家族と面会させます。家族の顔を見てしまったことで、根っからの正義漢であるペリーはディマ一家を助ける以外の選択肢を持てなくなるのですが、ペリー側の動機をこれまたわずかな描写のみで説明してみせた辺りに脚色や演出の妙を感じました。一般人が国際的な謀略に巻き込まれるという荒唐無稽な話の背景を、ここまで簡潔な導入部で説明してみせたのは結構な技だと思います。

■手に汗握るサスペンス

その他のジョン・ル・カレの映像化作品と同様に本作にはアクションがほとんどないのですが、他方でスポーツクラブでのディマとヘクターの面会や、ベルンでのディマ一家ピックアップ作戦など、敵にバレるのではないかと冷や冷やさせられるような見せ場はきっちりと作りこまれており、派手さがないことがかえって作品全体の質を高めています。

■魅力的な登場人物達

また、登場人物が魅力的であることも、本作の長所となっています。正義感の塊ではあるが決して正義の押し売りはせず、相手に寄り添う姿でこれを表現する主人公・ペリー。豪胆なヤクザ者のように見えて実は戦略家であり、自分の味方を正確に見極め、MI6が命に係わるチョンボをしても決してキレたりせずに今ある最善の選択肢をとり続けるディマ。私怨を出発点としながらも作戦にはきっちりと筋を通すヘクターなど、全員の人物像がとてもよくできています。

あと良いなと思ったのが、ペリーとディマの関係を男の友情のようなありがちな見せ方にしていないことです。ペリーは「あなたが見捨てれば、目の前の女・子供が殺されるよ」という立場に置かれて、その対象が好きか嫌いかということとは別次元の動機で動いています。ディマ側だって同様で、別にペリーが好きだからお願いしているのではなく、この状況を切り抜けるために藁にもすがりたい心境であり、一家の命運を託すのに最適な存在なのがペリーだったというだけです。その辺りのドライな関係性がちゃんと描けているので、サスペンス映画に必要なハードな雰囲気が映画全体に行き渡っています。

■国際政治に係る興味深い考察もあり

また、本作には国際政治論としても興味深い投げかけがあります。シティにロシアンマフィアの金が流れているとヘクターが上層部に訴えた際に、「そのことの何が悪い」という切り返しがあるのです。汚い金であろうが英国の資産として使えるのであれば、それはあっても良いものではないのかと。ロシアンマネーやチャイニーズマネーなど、えげつないことをして稼いだ金が今の世界を潤していますが、これを受け取らないという正義の他に、汚い金を受け取って正しいことのために使うという正義もあるのではないかという西側諸国の本音がさりげなく描かれています。この点も興味深く感じました。

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Our Kind of Traitor
監督:スザンナ・ホワイト
脚本:ホセイン・アミニ
原作:ジョン・ル・カレ『われらが背きし者』
製作:ゲイル・イーガン、スティーヴン・コーンウェル、サイモン・コーンウェル
製作総指揮:ジョン・ル・カレ、オリヴィエ・クールソン、ロン・ハルパーン、ジェニー・ボーガーズ、テッサ・ロス、サム・ラヴェンダー
出演者:ユアン・マクレガー、ステラン・スカルスガルド、ダミアン・ルイス、ナオミ・ハリス
音楽:マーセロ・ザーヴォス
撮影:アンソニー・ドッド・マントル
編集:タリク・アンウォー、ルチア・ズケッティ
製作会社:フィルム4、ジ・インク・ファクトリー、ポットボイラー・プロダクションズ、スタジオカナル
配給:ライオンズゲート(英)、ファントム・フィルム(日)
公開:2016年5月13日(英)、2016年7月1日(米)、2016年10月21日(日)
上映時間:107分
製作国:イギリス

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