スパルタカス_ドラマも見せ場も面白みに欠ける【2点/10点満点中】

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古代
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(1960年 アメリカ)
共和制ローマ時代。トラキア人のスパルタカスは警備兵とのトラブルが原因でリビアの鉱山で磔にされていたが、その姿が剣闘士養成所を経営するバタイアタスの目に留まり、剣闘士としての訓練を受けることになる。才覚を発揮し始めるスパルタカスだったが、命令不服従を理由に処刑される仲間や、恋仲になった女奴隷ヴァリニアが売られていく様に怒りを覚え、武装蜂起を開始するのだった。

珍しいキューブリックの雇われ仕事

プロデューサーも務めるカーク・ダグラスと衝突してアンソニー・マンが解雇されたことから、ダグラスとは1957年の『突撃』で仕事をしていたキューブリックに監督依頼が舞い込んだ作品なのですが、クランクイン後の参加だったためにキューブリックがコントロール可能な部分がそもそも少なかった上に、大勢のビッグネームが関与する現場において大作経験のない若干30歳のキューブリックの言い分が通るはずもなく、脚本の書き換え要求は却下され、現場もカーク・ダグラスに支配されてキューブリックは手も足も出ない状態でした。彼は現場では終始謎の人物として扱われ、周りから好かれず、恐れられず、尊敬もされなかったと言われています。

キューブリックは本作の経験から現場の主導権を握ることの重要性を学び、その後は作品のコントロールに偏執的にこだわるようになりましたが、皮肉にも本作の興行的・批評的成功こそがスタジオに対する彼の交渉力を強め、以降の作品におけるビジョンの実現を可能にしたという側面もありました。そういった意味で、本作はキューブリックのキャリアの大きな転換点になった作品だと言えます。

作品を拒絶し続けたキューブリックの気持ちが理解できる

キューブリックは死ぬまで本作を自分の作品だとは認めませんでした。また、彼の前任者であるアンソニー・マンが現場を去った作品でもあるし、リドリー・スコットが『グラディエーター』制作にあたって関係者に50年代から60年代の史劇を見せた際に、もっとも評判が悪かったのがこの『スパルタカス』だったという逸話も残っています(『グラディエーター』公開時のインタビューにおいて、同作の撮影監督ジョン・マシソンがそう話していました)。

このように、公開時の興行的・批評的成功に対して悪評も多く聞かれるのが本作なのですが、確かに私も駄作であると感じました。後述する通りスパルタカスは絶対正義の人物で人格面でのリアリティや面白みに欠けるし、剣闘場面のチャンバラは鈍重でスリルに欠き、これだけの大作であるにも関わらず大規模な合戦が描かれるのは終盤のみ。ドラマとしてもスペクタクルとしても見どころが少なく、長い長い上映時間の大半は退屈させられました。

スパルタカスの成長過程が描かれていない

13歳から鉱山での強制労働に従事し、ローマ兵とトラブった際には相手の足を噛みちぎるほどの狂犬ぶりだったスパルタカスが、剣闘士になって以降は女性に対して親切に接し、詩を愛する紳士に変貌します。当時の娯楽作の常識として主人公は心清き人でないといけなかったのかもしれませんが、現在の目で見ると本編中のスパルタカスには闇の部分が少なすぎて面白みに欠けるし、その人格の変貌過程が描かれていないために、ドラマが断絶しているようにも感じました。

また、彼は数万人に膨れ上がった軍団を束ねるリーダーとなり、世界最強のローマ軍と渡り合う戦略家となり、国外脱出にあたっては海賊を抱き込むタフネゴシエーターとなり、国中の奴隷に理念を与える精神的支柱となるのですが、本来は脳筋に過ぎなかったスパルタカスがいかにしてこれらの才能を開花させたのかという成長過程がバッサリと省略されており、主人公特権行使しまくりという状況となっているために、スパルタカスの物語は総じてつまらないものとなっています。

スパルタカスとヴァリニアのロマンスは蛇足

「童貞のお前が女をうまく抱けるかな」とヴァリニアとの恋路をバカにされたことがスパルタカスの蜂起の一因ともなっており、二人のロマンスは本編中かなりの比重を持って描かれているのですが、一目会った瞬間から理由もなく惹かれ合い、くっついた後の二人の関係に大した波風が立つこともないために、恋愛映画として単純に面白くないという状態になっています。

むしろ、蜂起の原因にロマンスという要素が入ったことは自由への渇望という奴隷の切実さを薄める方向にも作用しており、これはない方が良かったのではないかと思います。

元老院のパワーゲームは面白い。途中までは…

本作で褒められる点があるとすれば、それは元老院のパワーゲームではないでしょうか。そもそも牽制し合っていた貴族出身の大物・クラッサスと、庶民派の大物・グラッカスが、スパルタカスの蜂起という重大事件やカエサルという有望な若者を挟んで相手への攻勢を強め合うのですが、双方が大義名分を語っているようでいて真意は別のところにあるというやりとりは非常に面白いと思いました。

ただし、これも最終的には勧善懲悪の方向へと流れていくのですが。スパルタカスを制したクラッサスを悪者として描きたかったのか、終盤に入るとその政敵であるグラッカスが突如として奴隷の身を案ずる善意の人に変貌し、ヴァリニアを自由民にする書類を作成するなど、それまでとは同一人物とは思えない行動をとり始めます。こちらでもドラマの断絶が発生していてガッカリでした。

ダルトン・トランボの思想に引きずられすぎたか

本作はローマ共和国や貴族階級といった権力を無条件で悪く描きすぎだし、他方でそれに虐げられる者を良く描きすぎであり、あまりにも対立構造が単純であることが、作品全体から面白みを奪っているように感じました。

この点は、共産主義者であり、赤狩りでハリウッドを締め出された経験を持つダルトン・トランボが、史劇という形をとりながらも実態としては現在の思想を反映させ過ぎたためではないかと思います。キューブリックが脚本の書き換え要求をしたことも当然のことだと思うのですが、当時は年齢も実績も遥かに上だったトランボには勝てなかったのですが。

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