パトリオット_敵味方ともに戦法が汚い【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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中世・近代
中世・近代

(2000年 アメリカ)
大規模な戦闘場面が迫力の時代劇であり、スペクタクルの巨人ローランド・エメリッヒの手腕がいかんなく発揮されています。見て損はありません。ただし主人公の戦い方があまりにダーティなので英雄譚としてはスッキリしないものがあり、最後の最後では大きな疑問符が付きました。

作品解説

脚本は『プライベート・ライアン』のロバート・ロダット

本作の脚本は『プライベート・ライアン』(1998年)のロバート・ロダットによって執筆されました。

ロダットは近代ゲリラ戦の父と呼ばれ、米陸軍レンジャーズ部隊の創設にも貢献したといわれるフランシス・マリオンの伝記ものを執筆していたのですが、ストーリー性を重視してフィクションに変更し、マリオンをモデルにしたベンジャミンという架空のキャラクターを作り出しました。

当初よりロダットはメル・ギブソンを想定してベンジャミンの人となりを作り上げ、現実世界のメルギブが7人の子沢山だったので、これに合わせてベンジャミンも7人の子持ちということに。

ロダットは、決定稿ができるまで17本ものドラフトを執筆しました。

監督は『GODZILLA』のローランド・エメリッヒ

ソニーとは『GODZILLA』(1998年)でも組んだローランド・エメリッヒが就任。

これまでドラマ作品の経験がなく、しかも西ドイツ出身のエメリッヒがなぜ独立戦争の英雄を描く重厚な歴史ものに参加したのか、その理由は公式には説明されていないのですが、推測するに製作費を低く抑えるエメリッヒのスキルが決め手だったのではないでしょうか。

エメリッヒは技術に明るく、独自のVFX工房も持っていることからプロダクションの一括受注が可能であり、大作を安価に作ることで重宝されています。『インデペンデンス・デイ』(1996年)はたったの7500万ドルで作り上げました。

実際、共同制作を務めたディーン・デヴリンは「『パトリオット』は特殊効果の活用によって製作費を抑えた初のハリウッド大作」と発言しています。

本格的なセットの代わりにCGを使ってコストを抑えることは現在では常識ですが、90年代においてCGは高コストだったことから、むしろ製作費を押し上げる原因となっていました。

ディーン・デヴリンの言う通りであれば、その流れを変えたのが本作ということになり、実はエポックメイキングな作品だったのではとも思えてきます。

当時史上最高額だったメル・ギブソンの出演料(2500万ドル!)や、スミソニアン博物館監修の大規模戦闘シーンを内包する作品でありながら、1億1000万ドルで完成しました。

興行的には並程度

本作は2000年6月28日に全米公開されたのですが、ウォルフガング・ペーターゼンの『パーフェクト・ストーム』(2000年)に2倍近い金額差をつけられて初登場2位というイマイチな滑り出しでした。なお、メル・ギブソンは本作に出演するために『パーフェクト・ストーム』のオファーを断っています。

ただし2週目以降も粘りを見せてトップ10圏内に6週間留まり、全米トータルグロスは1億1333万ドルという中程度のヒットとなりました。歴史ものが大爆発することは少ないので、おおよそソニーの読み通りの結果だったのではないでしょうか。

国際マーケットでも同程度稼ぎ、全世界トータルグロスは2億1529万ドル。年間興行成績18位だったので、大作としては及第点の成績をあげました。

感想

眠れる獅子ベンジャミンの覚醒

主人公は元軍人で現在は農場を経営しているベンジャミン・マーティン。演じるメル・ギブソンはよく奥さんを亡くされる方ですが(『マッドマックス』『リーサル・ウェポン』『ブレイブ・ハート』、『サイン』)、例に漏れず今回も奥さんは鬼籍に入られており、男手で7人の子供を育てています。

ベンジャミンはフレンチ・インディアン戦争(1755-1763年)で武勲を挙げた英雄であり、折からのアメリカ独立戦争(1775-1783年)にサウスカロライナ植民地も参戦するかどうかを話し合う州議会に召集されます。

「イギリスなんかぶっ潰しちまえ!」という血気盛んな意見が多数を占める中、英雄であるベンジャミンも当然戦争支持かと思いきや、「戦争は悲惨だからやめときましょう。交渉という道もありますから」と後ろ向きな意見を述べます。

「なんで君がそんなこと言うの?だって英雄でしょ」と言われても、「あの頃の自分は若気の至りであんなことをしたまでで、決して褒められた人間ではありませんでした」と出所したての高倉健さんのようなことを言うベンジャミン。

英雄がそんなこと言うなんて白けるわぁという空気になりつつも、結局参戦派が多数で可決されます。

すると長男のガブリエル(ヒース・レジャー)が「大陸軍に志願する!」と言い出します。「さっきの『戦争は悲惨だから』の話聞いてなかったのか?」と慌てるベンジャミン。

平和ボケした日本人の私からしても、戦争に行きたがるガブリエルの心境はよくわからなかったのですが、『リンカーン』(2012年)でも南北戦争に行きたがる息子にリンカーンが手を焼く場面があったので、あの頃の若者というのは血気盛んだったんでしょう。

これは止めようがないというわけでベンジャミンはガブリエルの希望を受け入れるのですが、かつてのベンジャミンの上官だったバーウェル大佐(クリス・クーパー)が「俺の部隊で面倒見るわ」と言ってガブリエルを引き取ってくれることになりました。

2年後、傷だらけのガブリエルが実家に戻ってきます。戦場はすぐ近くで、ガブリエルは司令部への伝令を任されていたのですが、疲れと傷を癒すために戻ってきたとのこと。ベンジャミンはガブリエルの手当てをし、また農場で倒れていた兵士たちを敵味方問わず治療するのですが、そこにイギリス軍がやってきます。

兵士でありながら軍服を脱いでいたガブリエルをスパイと見なして処刑することに決定したイギリス軍は居留地まで彼を連行、それを阻止しようとした次男トーマスは家族の目の前で射殺されます。

その瞬間、ベンジャミンはかつて「ゴースト」と恐れられた殺人マシーンに豹変。地の利を生かして林道を先回りするとガブリエルを連行する小隊を待ち伏せし、まずは銃撃で、続いて斧とナイフで敵を血祭りにあげます。

この場面、アクション映画好きにとっては最高のカタルシスだったのですが、目の前で衝撃的な戦いぶりをする父親を見たガブリエルはドン引き。かつてベンジャミンが説いた戦争の悲惨さを思わぬところで目撃したのでした。

その後、吹っ切れたベンジャミンは再入隊し、「もう一人の息子まで亡くしたら構わんわい」ということでガブリエルを自分の部下にして、常にそばに置いておくことにします。

報われないタヴィントン大佐

そんなベンジャミン、ガブリエル親子にとっての仇となるのがイギリス軍のタヴィントン大佐(ジェイソン・アイザックス)。彼はガブリエル本人の言い分もロクに聞かず処刑を決定し、また次男トーマスを殺害した張本人でした。

騎馬隊を率いるタヴィントンは圧倒的な強さと残忍さで大陸軍からも恐れられる存在であり、その戦績はピカ一だったのですが、上官であるコーンウォリス将軍(トム・ウィルキンソン)からは疎まれています。

その戦い方にあまりにも容赦がないためイギリス軍の品位を著しく貶めているというのが低評価の理由であり、どれだけ頑張って実績を上げてもコーンウォリスから「お前のやり方はダメだ」と全否定され続けるタヴィントンがちょっと気の毒になってきました。

なぜタヴィントンがそんなに功を焦っているのかというと、本来は一流の家柄であるはずのタヴィントン家は、父の度を越した放蕩により没落寸前。そんな家の再興を図るべく、武勲をあげようとしているのでした。

そんな思いを背負っているキャラクターは、やはり応援したくなります。悪役でも。

汚い戦法の泥試合

一方、ベンジャミンはというと、物資も人員も不足しているため正規軍とは一線を画す民兵の募集を始めます。ゲリラ戦により敵の物資を奪い、兵力を徐々に削り取っていくことでその体力を奪おうとするのが作戦です。

その戦略は卑怯そのもので、地の利を生かした待ち伏せ、民間人に化けての不意打ちなど、タヴィントン並みに品位がありません。

ゲリラ戦法の何が問題って、攻撃された敵からすれば民間人を疑わざるを得なくなるということであり、結局ベンジャミンは同胞を危険にさらしているのです。

案の定、ベンジャミンの部隊に手を焼くタヴィントンは行く先々で街を焼き払い、住民を処刑するようになります。サイコパス気味のタヴィントンは喜んでやっている節があるのですが、状況を考えると彼の部下たちもタヴィントンを止められません。

で、タヴィントンの狼藉に怒り狂って、さらにゲリラ戦に精を出すベンジャミン以下民兵たち。

お互いが汚い戦法を取り合い、どんどん憎悪と被害が拡大していくという泥試合。ローランド・エメリッヒがどの程度まで意図していたのかはわかりませんが、このあたりになると独立戦争の英雄を描く作品とは到底思えない内容となってきます。

また出た!エメリッヒの愛国心いじり

そんなわけで「本当にベンジャミンを英雄として賞賛していいのだろうか?」とスッキリしない空気が漂う中で、映画は最終決戦へと突入していきます。

サウスカロライナ植民地とコーンウォリス将軍の雌雄を決する決戦を控え、ベンジャミン率いる民兵も正規軍に合流。

「民兵なんて頼りにならんだろ」と自軍からも心無いことを言われる中、ベンジャミンは大陸軍の先陣を切ることを提案します。

ここから始まる大決戦は壮絶の一言であり、スペクタクルを得意とするローランド・エメリッヒの手腕もあって、なかなかに目を楽しませてくれます。

ただし終盤で驚きの展開に。力負けした大陸軍は崩壊寸前なのですが、ベンジャミンが前線で星条旗を振ると「うぉ~!」と勢いを取り戻し、そのままイギリス軍を破ってしまいます。

戦略でも物量でもなく、星条旗の威光と気の持ちようで勝利するという驚きの結果。この映画、スミソニアン博物館監修でしたよね?

この終わり方にはずいぶんガッカリだったのですが、『インデペンデンス・デイ』(1996年)の大統領演説や、『ホワイトハウス・ダウン』(2012年)の旗振り少女など、エメリッヒってちょいちょいアメリカ人の愛国心をいじるので、確信犯だったのかなという気もします。

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