ハードコア(2015年)【6点/10点中満点_革新的なPOV作品だがジャンルの限界も露呈させた】

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[2015年ロシア・アメリカ]

6点/10点満点中

■監督はロックバンドのフロントマン

監督のイリヤ・ナイシュラーという人はその名が示す通りロシア人であり、本業は映画監督ではなくバイディング・エルボーズというロックバンドのフロントマンで、自身で監督したバンドのPVが話題になったことからティムール・ベクマンベドフ監督から声がかかり、本作の制作が始まったという経緯があります。

企画の特殊性から通常ルートでの出資が集まらなかったのか、それとも口出しされずに自由に作りたかったからなのかはわかりませんが、本作の制作費はクラウド・ファンディングで集められているのですが、特筆すべきはそのバジェットの少なさであり、たったの200万ドルで制作されています。後述する通り本作の見せ場のバリエーションは豊富であり、中規模レベルの予算がかかっているようにしか見えないのですが、VFXにはオープンソースのアプリケーションを使ったり、物事の全体像を見せずに済むというPOVの特性をフル活用したりといった創意工夫により、少ないリソースでも豪勢な作品に仕上げています。

■POV作品の最高峰

POVとはPoint of View(直訳すると”視点”)の略であり、登場人物の一人称視点で作られた映画が一般的にPOV作品と呼ばれています。『クローバーフィールド -HAKAISHA-』や『REC』により大ブームとなり、前述した通り物事の全体像を映し出す必要がないため低予算映画にとって好都合な手法であったことから、2000年代後半から2010年代前半にかけてこの手の作品は世界中で大量に制作されました。

『クローバーフィールド -HAKAISHA-』や『クロニクル』を初めて見た時にはその臨場感に感動した覚えがあるのですが、本作はそうした過去作品とは別次元ともいえる驚異のレベルに到達しており、現状におけるPOV作品の最高峰にして、これを越えるものは未来永劫現れないのではないかと思うほどの完成度となっています。個々の見せ場のすごさも然ることながら、どうすれば観客が没入感を味わえるのかという映画全体の建付けから工夫されており、POVのポテンシャルを最大限に引き出した作品となっているのです。

■見せ場のバリエーションのすごさ

同じような絵面の反復になることが多いPOV作品では例外的に、本作は見せ場のバリエーションが異常に多くなっています。劇中に似たような場面の繰り返しはなく、すべての見せ場が固有の魅力を放っているのですから、その手数の多さには恐れ入りました。

  • パルクールでの壁のぼり
  • 中ボスとの1対1の格闘
  • 街中での全力疾走
  • 車の屋根を飛び移りながらのカーチェイス
  • 娼館の狭い廊下でのサーチ・アンド・デストロイ
  • 押し寄せる武装集団をスナイプ
  • 同型サイボーグとの1対多数の大乱闘
  • 超能力者との最終決戦

本編ではこれだけのことが起こります。特に、中盤における車の屋根を飛び移りながらのカーチェイスはどうやって撮ったのかがサッパリ分からないほどのオンリーワンな見せ場となっており、この場面を見るだけでも鑑賞の価値はあったと言えます。

■とにかく酔う

ただし、究極の臨場感の代償はひどい画面酔いでした。とにかく酔います。私は家のテレビで観ましたが、それでも酔いました。映画館では最後までは観られなかっただろうと思います。体に重大な負荷をかける鑑賞というのは、やはり娯楽作としては致命的だと思います。

■結局ゲームでいいじゃないかという結論

これは監督が意図的にやっていることなのですが、観客との一体感を高めるために主人公・ヘンリーには記憶喪失という設定が置かれ、さらには言葉も話さないしクライマックスまで顔も見せません。まったく個性を与えられていない空っぽの存在が主人公なので、そこにドラマ性は皆無です。よって映像こそ凄いものの、果たして長編でやる必要のあった話なのかという点には大いに疑問符が付きます。

テレビゲームは実写に近づこうと努力に努力を重ねてきたのですが、今度はそのゲームのルックスを実写作品が模倣しようとする倒錯した構図が物語っている通り、この企画自体に無理があったとしか言いようがありません。「すげぇ!『コール・オブ・デューティ』みたいだ!」と感動したものの、だったら自分でコール・オブ・デューティをプレイすればいいじゃないかという冷めた視点も同時に発生してしまうのです。

この素材で90分間やりきってみせたというチェレンジ精神や創意工夫こそ買うものの、結局、このジャンルは長編でやるべきものではないという証明にしかなっていないような気がします。

Hardcore Henry

監督:イリヤ・ナイシュラー

脚本:イリヤ・ナイシュラー

製作:ティムール・ベクマンベトフ、イリヤ・ナイシュラー、インガ・ヴェインシュタイン・スミス、エカテリーナ・コノネンコ

製作総指揮:シャールト・コプリー、ウィル・スチュワート、カリーナ・シネンコ、マリヤ・ザトゥロフスカヤ、アレックス・A・ギンズバーグ、トニー・リー、ワン・チョンジュン、ワン・チョンレイ、ジェリー・イェ、ドナルド・タン、ロバート・シモンズ、アダム・フォーゲルソン、オーレン・アヴィヴ

出演者:シャールト・コプリー、ダニーラ・コズロフスキー、ヘイリー・ベネット、アンドレイ・デミエンティエフ、ダーシャ・チャルーシャ、スヴェトラーナ・ウスティノヴァ、ティム・ロス

音楽:ダーシャ・チャルーシャ

撮影:セルゲイ・ヴァルヤエフ、アンドレイ・デメンティエフ、イリヤ・ナイシュラー、パーシャ・カピノス、Vsevolod Kaptur、Fedor Lyass

編集:スティーブ・ミルコヴィッチ

製作会社:華誼兄弟傳媒、バゼレフス、ヴァーサス・ピクチャーズ

配給:STXエンターテインメント(米)、クロックワークス(日)

公開:アメリカ合衆国の旗 2016年4月8日(米)2017年4月1日

上映時間:96分

製作国:ロシア、アメリカ合衆国

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