先日『ロスト・ドーター』(2021年)という映画を見ていて、あらためて子育てとは大変なものだなぁと感じた次第なのですが、そんな辛い目に遭ってまで子供を持たなきゃいけない理由って一体何なの?という思いに至ったので、そんな話をつらつらと書いていきます。
比較の前提条件
比較するに当たって、いくつか条件を設けるので、それを念頭に置いて以下の記事を読んでください。
- 婚姻関係がある状態を前提とし、未婚というテーマには踏み込まない
- 主観的な幸福度(「子供はかわいい」「子供は生きがい」)は考慮しない
- 少子高齢化問題等の社会的な意義は考慮しない
子無しのメリット
自由に使えるお金が増える
子供を持つと、とにかく金がかかります。
内閣府が2010年3月に発表した「インターネットによる子育て費用に関する調査」によると、子供一人を0~22歳まで育てるのに、これだけのコスト(教育費+養育費)がかかります。
- すべて公立校に通った場合:2,694万円
- すべて私立校に通った場合:4,021万円
すべて公立校で済ませても余裕で2千万オーバー。
もしこれだけの金額を夫婦だけで使えたとすれば、いろんなことを楽しめますよね。子持ち夫婦では食べられないものを食べられるし、買えないものを買える。
子供を持たないことで浮くコストは122万円/年(2694万円÷22年)ですから、毎年のように夫婦で豪華な海外旅行へ行くということだって可能になります。
これって物凄いメリットですよね。
加えて、子持ちと比べて大きな家や車を持つ必要がないなど、間接的に節約できるコストも結構あるので、経済的には子無しが圧倒的に有利であるといえます。
自分の時間を持てる
子供を持つと自分の時間が無くなります。
金曜は夜更かし、土曜の午前は気が済むまで寝続けて、目が覚めても好きなことだけをやって、腹が減ったタイミングで適当にご飯を食べる。
これが独身時代の私の平和な週末の過ごし方でしたが、子供がいるとこんなことはできなくなります。
休日の朝は子供が普通にバタバタしているので、半ば強制的に起こされます。平日にはちゃんと起きないくせに、休日はちょっと早めに起きるんですよ、あいつら。
子供の相手をしなきゃいけない、何か用事があれば連れて行かなきゃいけないというわけで、何だかんだで子供のために時間を使い、彼らと同じタイミングでごはんだの風呂だのをやんなきゃいけない。
アニメだと、クレヨンしんちゃんやタラちゃんが一人で勝手に遊びに出て行きますが、現実世界でああいうことは許されませんから。
子供のやることには親が付き合わなきゃいけないのが21世紀の日本なので、昔以上に、子育てには親の手間と時間が費やされるようになっています。
もしこれらの時間をすべて自分のために使えるようになれば、どれだけ楽しいかと考えないことはありません。
夫婦仲が良くなる
子無し夫婦は経済的にも時間的にも余裕があるので、二人で趣味を楽しんだり、出かけたりと、親密な関係を維持しやすい傾向にあります。
かと思えば、相手の趣味を尊重する余裕もあるので、好みが合わないことは夫婦別々にやればいい。
これが子持ちとなると、多くの活動が「家族揃って」となるので、夫婦間の意見調整という厄介事が発生します。これが結構なストレスになり、喧嘩の元にもなりがちです。
離婚しやすくなる
上記「夫婦仲が良い」と矛盾するようですが、これもメリットとしてはあります。なぜなら、「この人と結婚する」と決めた時点での判断が、絶対に正しいという保証などどこにもないからです。
- 交際していた時には見えなかった相手の欠点に気付いた
- 相手に飽きた
- 結婚後に、別の運命の人に出会った
こうしたことは起こりえますからね。
で、結婚に係る判断ミスを正したいとなった時に、子供がいなければすんなりを身を引くことができます。これは大きなメリットだと思いますよ。
良い精神状態を保てる
嫌なことが起こった時、精神的な限界が訪れた時、みなさんはどういうアドバイスを受けるでしょうか?「いったん休もう」「逃げたければ逃げていい」、こう言われますよね。
しかし、どれだけ辛かろうが苦しかろうが、やめることを許されない活動が一つだけあります。それが子育てなのです。
子育ては世間で言われる以上に過酷なもので、若い親の精神を容赦なく削ってきます。私もしんどい時期があったし、嫁がノイローゼっぽくなった時期もありました。
しかし子育てをやめることはできません。やめると子供が死んでしまうから。
実際、好きな男の元へ行って子供を死なせた母親が罪に問われるという事件は起こっていますよね。
一度子供を持ってしまうと、もう逃げられないという重圧には凄まじいものがあるし、子供さえ持たなければ、たいていの社会的活動は「しんどければやめていい」という状態となるので、無理せず生きられるというメリットがあります。
子持ちのメリット
老後の安定装置になってくれる
人生100年時代とも言われる中で、老後資金や介護は切実な問題です。
一般的には現役時代の貯蓄で対処することとなるのですが、年金で足らない資金は一人数千万円とも言われています。夫婦二人だと5千万円以上ですからね。現役時代にこれだけの資産形成をするのは非常に困難なことです。
老後問題の何が厄介って、リタイア後に何年生きるのか分からないということです。
10年とか20年と決まっていれば必要金額の特定も容易なのですが、もしかしたらリタイア後30年以上も生き続けるかもしれない。資産形成の段階では、それが全く見えないのです。
また老々介護という問題や、配偶者と死別後に自分も動けなくなったらどうするのかという不安もあります。
その他、何かあった時に頼る先がないという漠然とした不安もあるでしょう。
こうした諸々に対して、子供の存在は有効な保険となるのです。
もちろん子供がいれば絶対に大丈夫ということではなく、親の面倒を見ない子供、親に迷惑をかける子供だっていますが、そうは言っても子供がいるのといないのとでは、老後に抱える不安の量は格段に違ったものとなります。
社会的には生き易い
この社会には子供を持っている人が多くて、社会福祉制度も子供を持つことを想定して構築されているものが多いので、みんなと同じようにしていれば大丈夫だということです。
こう言ってしまうとすごく後ろ向きな意見に聞こえてしまいますが、国家が想定するモデルにピタリと当てはまった人生を送るというのは、個人の生き辛さを解消するにあたっては非常に有効な戦略です。
「産めよ増やせよ」という言葉もあった通り、いかにして国民に子供を産ませるかということは国家的な課題であり、その点への優遇措置は講じられています。そこに乗っからない手はないよねという。
加えて、子供を持つ世帯は学術的な研究対象ともなってきたので、多くの悩みに対して解決策が準備されています。これが子無し世帯となると世界的にも研究が進んでいない属性なので、何か困難にぶつかっても個人で解決しなきゃいけないというリスクを潜在的に抱えることとなります。
また似たような人が多ければ社会的なコミュニケーションのハードルも下がる。これも生き易さに直結するメリットです。
統計を見れば一目瞭然で、結婚後5~9年の夫婦で一人以上の子供を持っているのは87%(国立社会保障・人口問題研究所 出生動向調査 2015年)。
現状、子持ちが圧倒的マジョリティであることは間違いなく、社会に同類が多いので生き易くなるというメリットは確実にあります。
離婚されづらくなる
これは「子無しのメリット」として挙げた「離婚しやすい」の裏返しですね。離婚しやすいということは、見方を変えれば離婚されやすいということでもあります。
ちょっと古いデータですが、厚生労働省の離婚に関する統計(2008年)によると、子どもの有無による離婚件数はこんな感じになっていました。
- 子どもあり:143,834件
- 子どもなし:107,302件
絶対数で見ると子持ち離婚の方が多いのですが、子無し世帯は全体の13%であるという上記データを加味すると、子無し夫婦の離婚率は子持ちの5倍近いという計算となります。
ではなぜ子無し夫婦の離婚率が高く、子持ち夫婦の離婚率が低いのかというと、夫婦以外に子供というメンバーも家庭の中にいるので、簡単に「さよなら」とは言えないという事情があるからです。
また親権や養育費等、社会的に曖昧にはしておけない事項を処理せねばならないという手続き的な煩雑さもあります。そのため、不満があっても婚姻を続ける方が楽という結論に流れることが多いのです。
加えて、そうした離婚のハードルの高さが不倫を抑止するという効果もあります。
離婚が容易ではないからこそ不倫に手を出しづらいし、仮に不倫をしたとしても本気にはなりづらい。ドラマでよく見る「ごめん、妻子がいるんだ」というあれですね。
選択は不可逆という覚悟は必要
こうして見ると子持ち、子無しの両方にメリット・デメリットがあるということが分かり、絶対にどっちがいいというわけでもなさそうです。
結局は個人の価値観なり人生観なりに照らして考えましょうねということにしかならないのですが、ここで重要なのは、いずれの選択も後で取り消すことはできないということです。
子持ちは、まぁ当然ですよね。子供を作った後になって「こんなはずじゃありませんでした」「やっぱ要りませんでした」と言ったって返品先などないので、責任を持って育て続けるしかありません。
では子無しは選択の重圧から解放されているのかというと、そういうわけでもありません。出産可能年齢というものが厳然と存在する以上、後で「やっぱり自分の子供を持ちたい」と思っても、そのチャンスは戻ってこないというリスクを負うことになります。
一般に女性は25~35歳が妊娠適齢期とされており、35歳を過ぎると急激に卵子の質が下がってくると言われています。
女性の平均初婚年齢は29.4歳であり(厚労省 人口動態調査 2020年)、35歳までに第一子を産むというスケジュールで考えると、悩んでいられる時間は意外と少ないということが分かります。
もちろん個人差はあるので絶対ではなく、45歳以上の超高齢出産という事例もあるにはあるのですが、日本国内で年間1600件程度ですからね(厚労省 人口動態調査 2020年)。84万人の出生のうちで、超高齢出産は1600件。ごく稀にそういう人もいるレベルの特殊事例だと考えるべきでしょう。
「それは女性だけの問題で、男性の場合は若い奥さんをもらえば済む話では?」という意見もあるかもしれませんが、現実はそんなに甘くなりませんよ。
40~59歳までの未婚男性が初婚で10歳以上年の若い女性と結婚できる割合は、たったの0.2%(人口動態調査 2019年)。同世代の中でも突出してモテる人や、金持ち、有名人、芸能人の類ではないと無理な話なのですよ。
いずれにせよ、今持っている選択肢にはいつか期限が訪れることと、一度選択したことは取り消せないということを肝に銘じて考える必要のある問題ですね。
なんか重いこと言っちゃってごめんなさいね。
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