26世紀青年_バカ賢い傑作コメディ【10点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

スポンサーリンク
スポンサーリンク
コメディ
コメディ

(2005年 アメリカ)
死ぬほど笑える下ネタと高度な批評性が一体化した傑作で、もしかしたらすべてのコメディ映画の中でも一番好きかもしれない。バカばっかりになった26世紀を舞台としたSFでありつつも、現代社会の問題点を鋭く抉る内容であり、ラストでは素晴らしい教訓も残す。充実の85分間だった。

作品解説

フォックスから忌み嫌われた傑作

本作の脚本・監督を務めたのは90年代に人気を博したアニメ『ビーバス・アンド・バッドヘッド』のマイク・ジャッジで、持ち前の風刺精神が全開となっている。

フォックスニュースを見て、当時のブッシュ政権を熱烈に支持するような貧乏白人を徹底的に批判する内容としたのだが、なんとそれを20世紀フォックスで製作したのである。

当時のマイク・ジャッジはアニメシリーズ『キング・オブ・ザ・ヒル』でフォックスを大儲けさせていたこともあり、本作の企画はほぼ無審査で通ったのかもしれないが、完成した映画は1年間塩漬けにされた。

劇場公開しなければならないという契約条件があったのでフォックスは2006年9月に渋々公開したのだが、まともに宣伝もされなければ、批評家向けのプレビューもなされなかった。

全米での上映館はわずか130館だったうえ、この手の風刺映画がウケそうなニューヨークは上映地域から外されるという措置も取られ、フォックスは自分達が配給するこの映画に客が入って欲しくないという姿勢を明らかにした。

結果、240万ドルの製作費に対してたったの44万ドルしか稼げないという大赤字となったのだが、ヒットさせたくないという思いで公開されたのだから作品のせいでも監督のせいでもない。

フォックスにとっては不幸なことに、劇場公開後に本作は批評家から好意的な評価を受けてカルト映画化した。

感想

バカ賢い傑作コメディ

ひと昔前に「エロ賢い」なんて言われているグラビアさんがいらっしゃったが、本作はバカ賢い映画。

基本は脳みそがとろけるほど笑えるコメディで、これでもかというほどの下ネタが盛り込まれているのだが、その根底には高度な批評性が宿っているので、ただ笑っていられるだけの映画でもない。

現実の一側面を切り取った鋭さがあるのだ。

軍の実験でコールドスリープに入ったまま忘れ去られていたごく平凡な青年ジョー(ルーク・ウィルソン)が26世紀に目を覚ますと、バカばっかりの世界になっていたというのがざっくりとしたあらすじ。

この世界で一番人気なのは『タマが痛てぇ』というテレビ番組で、出演者がひたすら股間を強打し続けるだけの内容に視聴者たちは夢中になっている。

ニュース番組ではムキムキの男が上半身裸でニュースを読んでいる。

映画館では尻とおならを映し続けるだけの『ケツ』という映画が大ヒットしている上に、アカデミー賞を総なめにしている。

全世界が屁とか金玉で笑い転げる幼児レベルにまで退行しているのである。

さらにはスタバとかケンタッキーといったフードチェーンでは、なぜかフードのセットに手コキが含まれており、バカみたいに性欲がオープンになっている。

なぜこんなことになったのかというと、成熟しきった人類社会で適者生存の法則が働かなくなったためだ。

自然界では環境に適応できた者だけが子孫を残し、優秀ではない遺伝子は淘汰される。

しかし21世紀の人類社会ではインテリ夫婦が子孫を残すことに慎重になり、何も考えないDQNが避妊もせず無秩序に子供を作りまくった。その結果、人類の平均知能は下がりに下がった。

さらには、21世紀にはまだ残っていた優秀な頭脳は薄毛やED治療法開発のために動員されて科学技術の進歩も止まっており、21世紀以前の遺物を使い込んでいるだけの世界が完成したのである。

バカ映画ではあるが、この辺りの背景はしっかりと考え込まれているので隙がないし、このままいけば人類は本当にこうなってしまうのではないかという恐怖も感じさせられる。

また全体的に『猿の惑星』(1968年)のような味付けが施されており、ジェリー・ゴールドスミスの例のスコアに似せた音楽も流れるため、SFファンへの目配せもばっちりである。

本作の脚本にはイータン・コーエン(コーエン兄弟の弟とは別人)が参加しているのだが、シリーズ中もっともSFしていた『メン・イン・ブラック3』(2012年)を手掛けることとなるコーエンのSFセンスが本作でも光っている。

有害な男らしさ

21世紀には平凡中の平凡だったジョーは、26世紀においては世界一の天才になった。

彼はホワイトハウスに招かれるのだが、そこにいた大統領(テリー・クルーズ)は元レスラーでAV男優。

政治的指導力や政策提言力が支持されたのではなく、パワーと性欲というこの時代の人々にウケるものを持っていたのでトップになったということは明らかで、大統領というよりもサル山のボスだ。

閣僚は身内だの友達だのお気に入りの巨乳だので固められており、もはや内閣の体をなしていない。

そんな大統領は世界一の天才であるジョーに問題解決を依頼するのだが、その問題というのが農作物が育たず砂漠化が止められないという『インターステラー』(2014年)ばりのシリアスなもの。

なんだけど、『インターステラー』とは違ってこの世界の住人たちは事の重大さも考えずに問題を放置し続けて、事ここに至ったらしい。

頭が悪くて問題を認識できない、解決策を考えられないという問題ももちろんあるのだが、併せて、ちゃんと考えようとすることを「女々しい」と言ってバカにする傾向も目につく。

目の前のことなんて気にせず、何でも勢いで乗り切るのがカッコいいという、「有害な男らしさ」に社会全体が呑まれているのだ。

有害な男らしさを扱った映画として代表的なのはジェーン・カンピオン監督の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021年)だが、そのテーマを15年も先どっていたという点でも、本作の先見性に驚嘆させられる。

またシリアスではなくブラックな笑いでこのテーマを扱った点でも、本作は優れていると思う。

疑似科学を妄信するバカ

「さすがにそれは無理だ」と言って断ろうとするジョーだが、誰も彼の話なんて聞いてはいない。大統領は勝手に記者発表をして、1週間以内の解決を約束してしまう。

問題に着手もしていない段階から成果を約束してしまうというバカさ加減が光るが、無責任に成果を約束してしまう政党って現代の日本にも存在しているので笑ってもいられない。

仕方なく着手したジョーが行きついたのは、26世紀の人々は植物にゲータレード(スポーツドリンクの一種)を与えていたという驚愕の事実だった。ゲータレードの成分が塩害を引き起こしていたのである。

なんで植物にゲータレードを与えているんだと尋ねるジョーに対して、「ゲータレードには電解質が含まれているからだ」と回答するバカ達。

なんで植物に電解質が良いと思うんだと尋ねるジョーに対して、「ゲータレードの原料だからだ」と回答するバカ達。

もはや問答が成り立っていないのだが、この頓珍漢なやりとりは疑似科学を信じる人々の愚かさを風刺したものだ。

この世界の住人たちは「電解質”electrolytes”」という難しげな言葉だけで納得してしまい、それは一体何なのか、喧伝される効果効能を裏付ける根拠はあるのかという点にまで考えが及んでいない。

そしてこれは”マイナスイオン”とか”デトックス”といった疑似科学を真に受ける現代人の投影でもある。

それが一体何なのかはよく分からないが、科学や医学を感じさせる響きの言葉があって、テレビ番組などで紹介されていれば信じ込んでしまうという愚かな人々は、残念ながら現代社会にも多く存在する。

これからみんなで勉強しよう

ゲータレードを水にかえることで砂漠化問題を解決したジョーは26世紀の英雄となり、大統領に就任する。

「僕らの時代には知能があったが、使い方を間違えたようだ。これからみんなで勉強しよう。そして今度こそ正しい世の中を作っていこう」

ジョーが国民に対して放った言葉は端的だが、知識を探求する姿勢の重要性がよく伝わってくる。

「思考停止」という言葉があるが、この世界の人々はそもそもの知能が低いこと以上に、思考停止していることが問題なのである。

注意深く考えることを女々しいと言って笑い、分からない自分の知識不足を責めるのではなく、難しいことを言ってくる相手が悪いという風に責任転嫁する。

まずはそれを治せというわけだが、この病理は現代人のものでもある。

分からないことの何が悪いと言って開き直り、真面目に勉強する人たちを馬鹿にする風潮はそこかしこにある。

しかし知識とは先人の集合知であり、これを学んで知識の引き出しを増やしてこそ、新しいことを考え出す余裕が生まれるのだ。

過去の学問から学ばない人には、新しいことを生み出す力もない。

だからこそお勉強って大事なのである。

下ネタ満載なので本作を子供に見せることはほぼ不可能なのだが、実はめちゃくちゃ教育的な内容なのだった。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
記事が役立ったらクリック
スポンサーリンク

コメント

  1. 匿名 より:

    ボクが小さい頃 ポカリに対抗馬でゲータレードがまだ存在していたので ああ!これは!ってなりましたよ 

  2. まーくん より:

    好きな映画だから10点で嬉しいなぁ