ゾン100実写版_序盤以外つまらない【3点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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終末
終末

(2023年 日本)
ゾンビ映画だけど怖くないし、コメディを標榜する割に笑える箇所が少ないし、社会風刺も利いていない。アニメとのメディアミックスというタイミングにこだわるあまり、映画としての煮詰め方が甘かったとしか言いようがない。

感想

最近、『ゾンビ 製作45周年コレクターズ・エディション』というBlu-rayを購入した。

世界一有名なゾンビ映画『ゾンビ』(1978年)には複数バージョンが存在しているが、当該ディスクはそれぞれのバージョンをつなぎ合わせて149分のエクステンデッド・プレイが可能という壮絶なる代物であり、あらためてロメロ版ゾンビの奥深さに感銘を受けたところだった。

そんな流れで見てしまったこともあってか、本作は随分と薄っぺらに感じられた。

漫画は読んでいないし、現在放送中のアニメ版も見ていない。なのでオタク臭い観点から「あれがない!これを変えられた!」と文句をつけるつもりは毛頭ないのだが、純粋に映画として面白くない。

「ゾンビになるまでにしたい100のこと」というタイトルの通り、通常はディストピアとして描かれるゾンビ化した世界を、現実逃避のパラダイスとして捉えなおしたことが本作のコンセプト。

主人公の輝(赤楚衛二)は、大学卒業後1年間はブラック企業の社畜として生きてきたが、ある朝、目覚めると世界はゾンビに支配されていた。

そこに広がるのは驚愕の光景だったが、日常がひっくり返ったという絶望感よりも、会社に行かずに済むという解放感が勝る輝。

これが冒頭10分であり、ここまでは実に興味深く楽しめたのだが、問題は、作品のコンセプトがここで尽きてしまうということだ。

毎日が夏休みになった輝は非日常をエンジョイするのだが、ショッピングモールを丸ごと我が家にしたロメロ版『ゾンビ』(1978年)や、マンハッタンを丸ごと庭にした『アイ・アム・レジェンド』(2007年)のような壮大さや痛快さはなく、輝の夢は何ともこじんまりとしているので、ゾンビ化した世界を舞台にした意義をさほど感じない。

後半に入ると輝は人助けに喜びを見出し始め、「ヒーローになる」という子供じみた願望を真剣に叶えようとするのだが、その背景などが説明されないのでとってつけたような印象を受けた。

説明不足と言えば白石麻衣扮する閑(しずか)というキャラクターも同じくで、彼女はこの世界におけるサバイバルに熱中しており、己の生存のためには仲間の存在すら邪魔に感じるほどの徹底ぶりなのだが、なぜ彼女がそこまで生存に執着しているのか、そして他人を信用していないのかの背景が最後まで説明されないので、彼女が輝に心を許す終盤の展開にも感動が宿っていない。

また、警察や自衛隊が動いている様子がなかったり、いくら何でも生き残りが少なすぎたりと、この世界観を観客にのみ込ませるための理屈の部分があまりにも弱すぎる。

ゾンビの生態も出鱈目で、それまでは視覚に基づいて動いていたのに、突如として音にしか反応しないという『クワイエット・プレイス』みたいな設定が出現して、鼻先にまで迫られても音を立てなければセーフという何ともユルいサバイバル劇となる。

何が何でも主人公を生き延びさせるという作劇上の制約条件のために、ホラー映画としてのスリルがかなり犠牲にされたようだ。

かといって荒唐無稽なコメディとして楽しめるわけでもないので、一体何に重きを置いて作られた映画なのだろうかと不思議で仕方なかった。

終盤の迷走は目に余るほどで、輝と閑に、友人のけんちょを加えた3人組は北関東の水族館にやってくるのだが、そこはサラリーマン時代の輝の上司(北村一輝)が支配するブラック企業さながらの施設だった。

露骨に『死霊のえじき』(1985年)をモチーフにした展開ではあるが、『死霊のえじき』にせよ『マッドマックス2』(1981年)にせよ、終末の世界で力を持つのは武力を握っている者というのが相場として決まっている。

経済社会という基盤を失ったサラリーマンなどゾンビ化後の世界では真っ先に淘汰されるであろう人種なのに、なぜ北村一輝が暴君の如く振る舞えているのだろうか。

輝とけんちょは大学時代にアメフトをやっていて体格的には北村一輝をはるかに上回っているのだから、ぶん殴って権力を奪ってしまえばよかった。そのような下剋上が起こってこその終末世界ではないか。この脚本は一体何を考えて書かれたものなのか理解に苦しんだ。

脚本の迷走は続き、ゾンビ化したサメがラスボスになるという、それまでの展開とは何の脈絡もないクライマックスを迎える。

作り手側もどう落としていいのか分からなくなったのだろう。

サメ×ゾンビで『サンゲリア』(1979年)を思い出した視聴者が勝手に盛り上がってくれるのではという一縷の望みにすがったのかもしれないが、これが面白くも何ともないのだから絶望的だ。

とまぁ本作には良い点がなかったので、最後に『ゾンビ 製作45周年コレクターズ・エディション』のお話をさせていただくが、権利関係の問題があってエクステンデッド版の製作はできなかったらしく、Blu-rayの機能を活用して「ディレクターズカット版」と「ダリオ・アルジェント版」をシームレスにつないで長尺版を再生するという仕様となっている。

このエクステンデッド・プレイが表面的に謳われたものではなく、隠しコマンドでのみ再生可能な裏メニュー的扱いであることと相俟って、権利関係のグレーゾーンを突いたギリギリの商品だったことが伺える。

2023年1月発売で6月末には販売終了というリリース期間の短さといい、将来的にプレミアム化する可能性の高い珍品中の珍品なので、運よく見かけられた方は買える時に買っておくことを強くオススメする。

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