キングオブコント2019で芸人の表現力に驚いた

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本サイトは映画レビューサイトなのですが、今回は例外的に、2019年9月21日に放送されたキングオブコントについて書きたいと思います。

今大会の総評

大会全体の感想

私は特別お笑い好きというわけではないのですが、M-1グランプリとキングオブコントは毎年ちゃんと見ています。こうして毎年見ていて思うことは、年々ファイナリストのレベルが上がってきており、コンテストの存在が業界全体レベルの底上げに繋がっているということです。大会初期には優勝者がダントツであり、予選を勝ち上がってきたはずのファイナリストの中にも笑えないグループが数組ほどいたのですが、近年はすべてのグループが面白く、非常に高いレベルでの接戦という状況になっています。

特に今大会は稀に見るほどのハイレベルな大会となり、お笑い界隈では注目度の高い空気階段ですら最下位の9位に甘んじるほどの激しい戦いが繰り広げられました。すべてのグループが面白い、これは視聴者にとっては幸せなことでありました。その点で、今大会は大成功だったと思います。

1stステージ結果

順位 グループ名 点数
1 どぶろっく 480
2 うるとらブギーズ 462
3 ジャルジャル※ 457
3 GAG※ 457
5 ゾフィー 452
6 ネルソンズ 446
6 ビスケットブラザーズ 446
6 かが屋 446
9 空気階段 438
9 わらふじなるお 438

※同点につき審査員による決選投票が行われジャルジャルが上位とされた。

2ndステージ結果

順位 グループ名 1st点数 2nd点数 合計点数
1 どぶろっく 480 455 935
2 うるとらブギーズ 462 463 925
3 ジャルジャル 457 448 905

優勝したどぶろっくについて

持ち味を殺さず生かす道を選択した

保育園から大学までずっと同級生だったという森慎太郎(ギターを弾いてる方)と江口直人(坊主頭に胸毛の方)のコンビで、結成は2004年。『あらびき団』(2008年)にて下品な歌ネタを披露して注目を集め、『エンタの神様』(2009年)でトリを務めることで世間的な認知を拡大させました。

一発屋と言うほどの激しい上がり下がりは経験しておらず、比較的長期に渡って安定した露出を保っているものの、テレビで見るのが『エンタの神様』だけで、しかも「もしかしてだけど」の一本だけでテレビに出続けているので、賞レースには馴染まないタイプのグループではありました。

今大会のファイナリストだと判明した時にはどんなネタをやるのか皆目見当もつきませんでした。「ラララライ体操」でのブレイク後にはキャッチーなネタを封印して王道の漫才ができることを証明した藤崎マーケットみたいな路線で行くのかななんてことも思ったのですが、蓋を開けてみると下ネタと歌という持ち味は残したまま、一言ネタに近かった「もしかしてだけど」とは違うストーリー性を加味したネタに転換していました。

今までやって来た路線を否定せず引継ぎつつも、認知度の高いキャッチーなネタとは別のことをやるという、実はかなり難しいことをサラっとやってのけた(実際は苦心したのかもしれませんが、番組を見る限りでは良い意味で苦労をしていない感じでした)どぶろっくの意外な器用さには感嘆させられました。

彼らのネタはこうです。貧しいが誠実な男(江口)が病の母を治すための薬草を求めて森に入ると、彼の心の美しさに感銘を受けた神(森)が姿を現す。神から「何でも欲しいものを言いなさい」と言われた男は、ついさっきまで気にしていた母の容態などそっちのけで「大きなイチモツをください」と言い出す。

ボケからのアンサーが分かり切った状態で、ツッコミがどれだけフリを利かせて落差を作り上げるのかという、ある意味でコテコテのタイプのネタなのですが、シンプルなワンルールの下で、規定時間内を一切ダレることなくやりきったパフォーマンスや的確なワードチョイスが評価されたものと思います。また、「大きなイチモツをください」と言うのを観客が待つ構図をかなり早い段階で構築できた点も優秀でした。

興味深かったのは2ネタ目で、ここで彼らは1stステージの構図をひっくり返します。働き者の木こり(森)が斧を池に落とすと、金の斧と銀の斧を持った神(江口)が現れる。神は木こりが大きなイチモツを欲しがるものと思っているが、木こりは落とした斧を返してくれと言って譲らない。ここでは1stのネタが大きなフリとなっており、「例のフレーズはいつ出てくるんだ」と観客が待ち詫びるという構図が置かれています。2ネタを披露するというキングオブコントの構造を利用した、実にクレバーなネタになっていました。

果たして優勝者としてふさわしかったのか

果たしてどぶろっくは優勝者の器だったのか。確かに彼らはオーディエンスを完璧に味方に付け、しかも持ち味を変えずに新機軸を打ち出すという高度なことをやってのけており、そのパフォーマンスは評価に値します。しかし、コント師として本当に優秀なのかという点には疑問符がつきます。彼らの経歴や今回のネタを勘案すると、恐らく彼らは今回出して来たネタの再生産を将来に渡って繰り返すのみだと推測されます。依然として芸域は狭く、しかも彼らにしかできないネタをやっているのみで、これが今年を代表するコント師だと言えるのかと。

ここで問題になるのが、コンテストはネタを評価しているのか、ネタはあくまでサンプリングであり評価対象は芸人なのかという命題です。もしネタのみにフォーカスし、その場で笑わせた芸人をトップにするのであれば、一つのネタしかできない芸人でも瞬間最大風速で太刀打ち可能となってしまい、2017年大会のにゃんこスターみたいなのを生み出すことになってしまいます。コンテストの意義ってそういうことなんでしょうか。

例えば17回も開催しているのにいまだに権威として根付かない『R-1ぐらんぷり』は、まさにこの罠にハマってしまっています。その場のノリで勝敗が決するために、技術やセンスといった今後面白いことを生み出すための芸人としてのポテンシャルが重視されておらず、後から振り返った時に納得感の低い競争となっているのです。

今回のキングオブコントでは『R-1』と同じ危惧を抱きました。コント師として伸びていき、お笑い界をリードする人材に成長する可能性があるグループが他に居たにも関わらず、もしかしたらファイナリスト中でもっともポテンシャルが低いかもしれない(あくまでコント師としてという意味です)どぶろっくの方が優れているというジャッジを下してしまった。どぶろっくは現時点がベストで、これ以上の存在にはなっていかないだろうと思うので、本当にこの結果で良かったのだろうかというモヤモヤが残ります。

私が注目したコンビ

優勝者とは別に注目したコンビが2組いました。これらのコンビは従前のコントという枠を突き破るような斬新な型を出して来ており、新しすぎて今大会での評価は得られなかったものの、今後のお笑いの方向性を変えかねないものを感じました。

圧倒的な構成力を見せたかが屋

岡山県出身の加賀翔(短髪で痩せている方)と広島県出身の賀屋壮也(ロン毛で体の大きい方)のコンビ。同じコンビニでアルバイトをしていたが別時間帯のシフトだったため直接の面識はなかったものの、「お笑い好きの子がいる」というオーナーからの紹介で知り合ったと言います(『ゴッドタン』で披露されたエピソードより)。結成は2015年で、二人ともまだ26歳のかなり若いコンビです。

このコンビが披露したのは、プロポーズをするために喫茶店で恋人を待つ男(賀谷)と、その喫茶店の店員(加賀)というネタなのですが、これが驚きの構成になっていました。まず閉店間際の店内の様子から始まり、賀谷は「もう恋人は来ないのではないか」という深刻な顔をしており、それを見守る加賀は気まずさを漂わせています。そこから場面は賀谷が来店した時点に遡り、数時間の様子を断片で見せていきます。

このコントの凄いのが、描かれるシチュエーションと分断された時間軸を一切の説明台詞を使わずにオーディエンスに理解させたことと、二人とも面白いことを一切言っていないにも関わらずお笑いとして成立させたことであり、その構成力には舌を巻きました。

花束という小道具と、蛍の光というBGM。この二つだけでシチュエーションと時間軸を説明してみせた高度な語り口は、きわめて映画的でもありました。登場人物はたったの二人でセットも衣装も変わらないのに、映画のような奥行のある物語を作ってみせたのです。ちょっと褒めすぎかもしれませんが、鬼才ラース・フォン・トリアー監督が映画と舞台の枠を取っ払おうとした衝撃作『ドッグヴィル』(2003年)をも連想させるほどの内容でした。

また、何も面白いことを言っていないのにちゃんとお笑いになっているという点については、「人生はクローズアップで見れば悲劇、ロングショットで見れば喜劇」というチャールズ・チャップリンの言葉を思い出しました。前述した時間軸の解体という手法によってオーディエンスにロングショットでの視点を与えた上で、実は何も面白くないクローズアップの光景を笑いに変える。閉店間際の息苦しい雰囲気を先に見せているからこそ、喜びに満ちた表情で入店してきた男や、男を笑顔で励ます店員が滑稽に映るという構造になっているのです。テクニックと内容が見事に関連した高度なコントになっていました。

審査員の三村マサカズが「最後に大きな笑いがあればよかったのに」という旨のコメントをしていましたが、それは見当違いではないでしょうか。このコントは自らに課した制約条件を最後まで順守し、面白いことを何もやらないというところで成立しているのです。最後に欲をかいて大きな展開などを入れてしまうと、全体のバランスが崩れてしまうところでした。私からすると、最後に待ち人が来るという変化の付け方すらギリギリのところでした。ネタの趣旨を考えると、何事も起こらないまま終わったって不思議ではない構造だったのです。

このコントは、お笑いという枠を超えてひとつの芸術作品の域にまで達していたと思います。本当にすごかった。ただし、あまりに既存のお笑いの枠を超越しすぎており、点数化が難しかったのかもしれません。

テレビの表現力を最大限活用したゾフィー

シンプルな表現手法で映画やテレビの領域に迫るというかが屋とは対照的に、舞台でありながらテレビならではの表現手法を最大限活用したのがゾフィーでした。

慶應義塾大学出身の上田航平(ボケ担当・坊主頭の方)と、青森県出身のサイトウナオキ(ツッコミ担当・ややぽっちゃりの方)のコンビであり、双方が元の相方を失っていたところで2014年にコンビ結成となりました。結成からまだ5年のコンビではあるのですが、上田は34歳、サイトウは39歳と年齢的にはまぁまぁいっています。

このコンビが披露したのが腹話術師の謝罪会見というネタであり、上田扮する腹話術師が不倫報道に対する謝罪会見を開くのですが、サイトウ扮する週刊誌記者からの心ない質問に対して表面上は謝罪しつつも、腹話術の人形が本音を言うという内容となっています。

上田は相当な練習を重ねたのか、「フクちゃん」と呼ばれる人形の動きが実に面白く、今大会で一番笑ったネタでした。ネット上でも「なぜゾフィーが2ndステージに上がれなかったのか」との審査結果に対する不満が多く見られることから、これが面白かったというのはマジョリティの意見だったと言えます。私も、ゾフィーに対して審査員の付けた点数には納得がいきませんでした。

ただし引っ掛かったのが「カメラアングルにかなり助けられていた」という松本人志の言葉でした。その言葉を踏まえてコントを見返すと、ゾフィーの周到だがギリギリの戦略が見えてきます。このコント、それまで動かなかった人形が記者を睨みつけたり、腹話術師から人形に話の主体が切り替わったりする瞬間がキモなのですが、カメラは人形がこっちを向く瞬間や、話し出す瞬間というものを的確に切り取っていました。人形が話し出すとそのアップを捉え、あえて腹話術師の顔を入れないことでキャラクター性を作り上げていたし、かと思えば腹話術師と人形が同じ表情をする場面では、ちゃんと二人の顔を抜いていました。番組制作サイドとの綿密な打合せがなければ、生放送であの絶妙なカット割は不可能だったと思います。 ゾフィーは、テレビという媒体がやってくれることを計算に入れ、どんなカット割にすべきかまでを緻密に練り込んでいたのではないでしょうか。

裏を返せば、視点の固定された舞台でこのネタを見た時、テレビの視聴者が感じるほどの面白みを感じられるのかということにもなります。それがあの点数に繋がったのでしょう。テレビの表現力に依存したネタを舞台でやられた時に、これをどう評価すべきなのか。こちらもまた難しい問題です。

まとめ

年々レベルの上がっているキングオブコントですが、ついにテレビとか舞台という枠をもはみ出すような斬新なネタまで登場し始めました。斬新な表現手法(かが屋・ゾフィー)vsオーソドックスなネタ構成(どぶろっく)の戦いは、とりあえずどぶろっくの勝利に終わりましたが、来年以降、こうした破壊的なネタをどう評価するのかという審査員側の見識や判断力までが試されそうな気がします。

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