トランボ ハリウッドに最も嫌われた男【6点/10点満点中_面白いドラマだが史実の掘り下げが中途半端】

スポンサーリンク
スポンサーリンク
実話もの
実話もの

[2015年アメリカ映画]

6点/10点満点中

■フットワークの軽い伝記映画

「権力と戦った不屈の人!」みたいな映画かと思いきや、苦境にあっても仕事人として生き、最後には自分を弾圧してきた人たちを実力で見返すというトランボのサバイバル劇ともなっており、良い意味で気楽に見られ、適度な高揚感も得られる娯楽作となっています。『オースティン・パワーズ』シリーズのジェイ・ローチ監督のフットワークの軽さが最大限に活かされた結果ではないでしょうか。

■資本主義に救われたトランボ

本作で興味深いのは、コミュニストとして弾圧されたトランボが、結局はアメリカの資本主義に救われるという捻じれた構図となっている点です。B級映画のプロデューサー達は、ハリウッドトップの脚本家を格安で雇えるということで追放後にもトランボを使い倒し、トランボもそうした小銭稼ぎのおかげで追放後にも家族を食わせることができたのですが、共産国ではこのような現象は起こらなかったことでしょう。

まさに「芸は身を助く」を地で行く内容だったわけですが、何があっても腕一本で食えるというトランボの才能には恐れ入りました。また、そんなトランボと対比される形で、同じく赤狩りで業界を締め出されたアーレンという脚本家が登場しますが、彼はトランボほどの才能がないため仕事をうまくこなせず、安っぽいSF映画に共産主義思想を紛れ込ませてプロデューサーを困らせ、最後には職場から去っていきます。これって、実社会でもできない人の行動の典型なんですよね。それらしい大儀を口実にして自分の実力不足をごまかし、最後には「こんな仕事やってられるか」と言って出て行ってしまう。自分自身にもこういう面がないわけではないので身につまされるところがあったし、一方でどんなクソ仕事にも労力と才能を惜しみなく費やしたトランボの姿勢には、ひたすら感服させられました。

■トランボの思想や活動に触れない点はズルい

ここからは文句ですが、トランボの個人的思想や政治活動について劇中ではほとんど触れられていない点は、ちょっとズルいかなと思いました。赤狩りの時代、アメリカにとって共産主義は今そこにある危機であり、汚い手を使わなければ国を守りきれないというギリギリの状態にありました。劇中でもわずかに触れられるローゼンバーグ事件などは最たるもので、原爆製造の機密文書をソ連に売った罪でローゼンバーグ夫妻は死刑とされ、それに対して捜査当局によるでっち上げとして当時の文化人やマスコミは大騒ぎしたのですが、ソ連崩壊後にはローゼンバーグ夫妻は本当にスパイだったことや、当時アメリカ政府を非難した文化人やマスコミにはソビエト政府の手が回っていたことが判明しています。マッカーシーらが喧伝した危機は幻でも誇張でもなく厳に実在していたのです。

この点で言えば、トランボの政治活動がどのようなものであったのかは、彼に降りかかった災難が自業自得によるものだったのか、それとも不当なものであったのかを判断するにあたっては重要な情報です。トランボにとって不都合な真実を隠した形で、当時のアメリカ政府や、政府に同調した者のみを非難するような内容はアンフェアではないかと思います。歴史もの、特に存命中の関係者も多い近現代史を扱った作品には多面的な考察が不可欠であると私は考えているのですが、本作については事実の一側面しか切り取られていないという点が残念でした。

Trumbo

監督:ジェイ・ローチ

脚本:ジョン・マクナマラ

原作:ブルース・クック『Dalton Trumbo』

製作:マイケル・ロンドン,ジャニス・ウィリアムズ,シヴァニ・ラワット,モニカ・レヴィンソン,ニミット・マンカド,ジョン・マクナマラ,ケヴィン・ケリー・ブラウン

製作総指揮:ケリー・マレン

出演者:ブライアン・クランストン,ダイアン・レイン,ヘレン・ミレン,ルイ・C・K,エル・ファニング,ジョン・グッドマン,マイケル・スタールバーグ

音楽:セオドア・シャピロ

撮影:ジム・デノールト

編集:アラン・ボームガーテン

製作会社:シヴハンス・ピクチャーズ,エヴリマン・ピクチャーズ,グラウンズウェル・プロダクションズ

配給:ブリーカー・ストリート(アメリカ),東北新社、STAR CHANNEL MOVIES(日本)

公開:2015年11月6日(アメリカ),2016年7月22日(日)

上映時間:124分

製作国:アメリカ合衆国

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
記事が役立ったらクリック
スポンサーリンク

コメント