アノマリサ_気色の悪いヘンテコアニメ【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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人間ドラマ
人間ドラマ

(2015年 アメリカ)
『エターナル・サンシャイン』のチャーリー・カウフマンの作品で、アニメ作品なのに生々しいラブシーンがあったりと、いろいろと気色の悪い作品でした。とはいえカウフマン独特の人間考察は本作でも健在で、表向きは親切なんだが性根では人間嫌いの主人公などは、見ていて実に楽しめました。

全員同じ顔・同じ声

ベストセラー作家のマイケル(デヴィッド・シューリス)が、シンシナティへの出張中にリサという女性と出会い、妻子を捨ててまでリサとの人生を歩もうかどうかと悩むことがざっくりとしたあらすじ。

このマイケルはすべての人を同じ顔・同じ声で知覚するという精神疾患を患っているのですが、これは脳科学的にフレゴリの錯覚と言うそうです。彼が宿泊するホテルの”フレゴリ”という名前は、この症名に由来すると思われます。

で、これを発症しているマイケルの肩書がカスタマーサービスのエキスパートという点が興味深いのですが、彼はよく知りもしない赤の他人にも誠心誠意接することを心掛ける中で、世のすべての人々が均質化し、他人の区別がつかなくなったという背景を持っています。

誰に対しても親切に振る舞うということは、相手の本質など全然見ていないことと同義であるわけで、そんな人生を送っているうちにマイケルにとって他人の個性とは知覚する必要のないものにまで落ちていったというわけです。

そんな中で、ホテルのバーで偶然出会ったリサという女性だけは自分とその他大勢以外の第三の個性を持ち、彼女に運命を感じたマイケルが一夜の関係を結ぶことが作品の前半部分となります。

最初は特別だった人間関係が重荷へと変貌していく

マイケルはリサとの出会いに心底感謝し、奥さんとは離婚するから自分に付いて来て欲しいとリサに懇願します。

しかし、これにOKされた瞬間にリサの存在はマイケルにとっての義務に変貌し、リサの細かい仕草やクセが気に障るようになり、そのうちリサの顔や声もその他大勢のモブと同化してしまいます。

このくだりは、口説く時には熱心だったにも関わらず自分のものになった途端に女性への気持ちが急激に冷める男性の身勝手さを描いているような気がしたし、もっと普遍的な人間関係を描いているような気もしました。

リサだけではなく、今やモブ化している奥さんだって子供だって友人だって最初はみんなマイケルにとって特別な存在だったはずなのに、惰性の中でその特別感が薄れていったのかもしれません。

前述した通りマイケルは対人スキルのエキスパートであり、だからこそ家族にも友人にも恵まれているのでしょうが、誰にも分け隔てなく親切に接する人には、実は誰も愛していないのではないかという逆説性があります。

赤の他人を特別な身内と同一視できるということには、裏を返せば特別な身内も赤の他人と紙一重の存在でしかないという危うさがあるのです。

よくわからなかったこと

チャーリー・カウフマンが「多様な解釈の余地を残した」と言っている通り、本作には一見するとよく分からない要素がいくつか含まれています。本当によく分からなかったので、備忘的に列挙だけしておきます。

舞妓人形の意味

中盤にてマイケルはアダルトショップでボロボロの舞妓人形を購入するのですが、この人形にはそこそこの尺が割かれている割には本編での立ち位置が不明確であり、この人形を無視しても作品解釈は成立することから、なんだか気味の悪い存在に感じられました。

ラストでリサの顔には傷があることが判明するのですが、この傷の位置が舞妓人形の傷と一致することから、リサとの一夜は舞妓人形を購入したマイケルの妄想であったとの考え方もできます。

舞妓人形を見たマイケルの奥さんの「精液みたいなものがついてるけど」というセリフからもそれは裏付けられるのですが、この説をとると作品解釈が全体変わってくることから何だかしっくりきません。

夢の意味

マイケルはリサとの一夜において夢を見ます。ホテルの支配人に呼び出されて地下のオフィスに行くと、そこは真ん中に大きな穴のあいただだっ広いスペースであり、その奥に支配人のデスクがあります。

そこで支配人から「私はあなたを愛しています。リサとは関係しないでください」と言われるのですが、この夢のくだりは本当に意味が分かりませんでした。

この空虚なオフィスはマイケルの心象風景であり、支配人はマイケルの意識から外れた人々を象徴しており、あなたに忘れ去られた人々との関係をまずは大事にしなさいというメッセージとして解釈すればいいのでしょうか。

よくわかりませんね。

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